悪魔と呼ばれ慣れて 3rd   作:ボルメテウスさん

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駆け抜ける空

 魔蛇の残した黒緑の霧が、崩れた市街地の上を薄く流れていた。蛇影と亡者の気配は消え、フェイトを縛っていた空中の檻も崩れ落ちたが、戦場から圧迫感が消えたわけではない。むしろ、次に動く相手がはっきりしたことで、空気はさらに重くなっていた。

 

 ダークウィザードが、黒い魔法陣をゆっくりと回転させている。さっき俺とはやてが叩き込んだ合体技の余波を吸い取るように、その陣は暗い光を脈打たせていた。ミラージュアギトのフィルは少し離れた場所でこちらを見ている。仲間が倒されたというより、壊れた観測装置を見送った研究者みたいな立ち方だった。

 

「魔蛇の視点は破損しましたが、あなた達の連携式は記録されました」

 

 ダークウィザードの声には、魔蛇を失った悔しさがない。はやてとの技を見ていたこいつは、次に同じ答えを使えば、黒い魔法陣で潰しに来るだろう。なら、こちらがやることは決まっている。

 

「ツカサ先生、空が黒い魔法陣で塞がれています!」

 

 なのはの声に顔をは、次に同じ答えを使えば、黒い魔法陣で潰しに来るだろう。なら、こちらがやることは決まって上げると、空一面に黒い魔法陣が重なっていた。瓦礫の間から見える空は格子状に分断され、魔力の壁が何層にも重ねられている。地上から押し上げる砲撃は正面で受け止められ、空へ逃げようとすれば別の魔法陣に絡め取られる。ダークウィザードは、魔蛇の失敗を踏まえて、今度は最初から空間ごと封鎖するつもりらしい。

 

「はやてとの技を見て、今度は防御を厚くしたか。なら、同じ答えを出す必要はない」

 

 俺はビルドの拳を下げ、ディケイドライバーへカードを差し込んだ。赤と青の装甲が剥がれ、ディケイドの姿へ戻る。ダークウィザードの黒い陣がそれに反応して輝いたが、俺はその反応を待たずに次のカードを抜いた。

 

『KAMEN RIDE!DECADE!』

 

 変身音が残響する中で、すぐに次のカードを叩き込む。黒い魔法陣の解析がビルドを追っているなら、その追跡先を変えてやればいい。どれだけ記録しても、次の一枚まで読めなければ意味はない。

 

『KAMEN RIDE!OOO!』

 

 身体の装甲が変わり、オーズの力が重なる。タカ、トラ、バッタの感覚が一瞬だけ全身を通り抜け、視界の奥で赤い複眼が空の黒い魔法陣を捉えた。なのははレイジングハートを構え、桜色の魔力を収束させながら、塞がれた空の継ぎ目を探している。

 

「ツカサ先生、私が正面から砲撃で道を開きます!」

 

「火野映司って奴も、お前と似ている。届く手があるなら伸ばすし、届かないなら届く場所まで飛ぶ」

 

 なのはの表情がわずかに動いた。俺はオーズの姿のまま、空を覆う闇を見上げる。映司は、目の前で助けを求める手を見捨てない男だった。遠い理想を語るよりも、まず目の前の一人へ手を伸ばす。その不器用な真っ直ぐさは、なのはにもよく似ている。

 

「だから迷うな、なのは。お前の砲撃は、誰かを守るために前へ進む翼だ」

 

「はい、ツカサ先生。私の魔法で、必ず道を作ります!」

 

 なのはの声に迷いはなかった。レイジングハートの先端へ桜色の光が集まり、周囲へ小さな誘導弾が展開されていく。ダークウィザードはそれを見て、黒い魔法陣をさらに重ねた。正面の防御は厚くなり、上空への進路はほとんど塞がれている。

 

「防御層を追加。高出力砲撃と空中機動の同時突破を想定します」

 

「想定できるなら、外される覚悟もしておけ」

 

 俺はカードを引き抜き、フォームライドを発動する。オーズの装甲が赤い炎を帯び、背中に翼の感覚が広がった。

 

『FORM RIDE!OOO TAJADOR!』

 

 タジャドルの装甲が完成すると、身体が一気に軽くなる。背面の光翼が広がり、炎が羽根のように揺れた。タジャスピナーの力が腕に宿り、空間の奥行きが手に取るように見える。あの黒い魔法陣がどこで重なり、どこに継ぎ目があるのかも、今なら分かる。

 

「空を塞いだつもりなら、焼き破るだけだ」

 

「レイジングハート、誘導弾を展開。ツカサ先生の進路を作って!」

 

『ALL RIGHT. SHOOTING CONTROL』

 

 なのはの周囲に桜色の誘導弾がいくつも浮かぶ。俺はタジャドルの翼で地面を蹴り、一直線に空へ上がった。ダークウィザードの黒い魔法陣が反応し、上昇軌道へ闇の刃を降らせてくる。俺は光翼から発光弾を撃ち出し、その刃を炎で焼き払いながら、魔法陣の外周へ向けてタジャスピナーの火炎を叩き込んだ。

 

 黒い魔法陣は一枚では砕けない。だが、なのはの誘導弾が火炎で薄くなった継ぎ目へ飛び込み、桜色の光で内側から亀裂を走らせる。俺が外から焼き、なのはが内から撃ち抜く。そのたびに空の格子がひとつずつ歪み、ダークウィザードの防御がわずかに揺らいだ。

 

「空中機動と砲撃制御。記録済みの連携から外れた戦術ですね」

 

「記録にない答えを出すのが、通りすがりの仮面ライダーだ」

 

 ダークウィザードは俺を落とそうとして、黒い魔法陣を何枚も縦に並べた。まるで空中に積まれた盾の壁だ。だが、盾を増やせば増やすほど、陣のつなぎ目も増える。なのははその隙間を見逃さず、誘導弾を細く曲げて、壁の内側へ通した。

 

「ツカサ先生、正面の魔法陣を一枚抜きます。そこへ飛び込んでください!」

 

「任せた。道を作れ、なのは」

 

 なのはがレイジングハートを構え直し、桜色の砲撃を細く絞った。太い一撃ではなく、針のように鋭い光が黒い魔法陣の中心を貫く。陣の一枚が砕け、穴が開いた瞬間、俺は翼を畳むようにしてその隙間へ飛び込んだ。背後から追ってくる闇の刃を、なのはの誘導弾が撃ち落としていく。

 

 俺はダークウィザードの真正面へ出た。奴は最後の防御壁を作るため、黒い魔法陣を何層も重ねる。闇の壁は厚く、簡単には破れない。だが、その奥に本体がいると分かっているなら、迷う理由はない。

 

「スターライトの魔力を収束します。ツカサ先生、決めてください!」

 

「なのは、お前の光に乗る。こいつの闇ごと撃ち抜くぞ」

 

 なのはの砲撃魔力が背後で膨れ上がる。桜色の光が空を照らし、俺のタジャドルの炎と重なる準備を整えていた。俺はディケイドライバーへ最後のカードを差し込む。

 

『FINAL ATTACK RIDE!O-O-O-OOO!』

 

 音声が空へ響き、タジャドルの翼が火の鳥のように大きく広がる。俺の全身を赤い炎が包み、右脚へ収束していく。なのはの砲撃はその炎の軌道へ重なり、桜色の光が火の鳥の内側を走った。

 

「プロミネンス・スターライト・ドロップ!」

 

「全力全開、撃ち抜きます!」

 

 俺は上空から急降下した。タジャドルの炎が黒い魔法陣の壁へ突き刺さり、なのはの砲撃がその後ろから一気に押し込む。最初の壁が砕け、次の壁が割れ、三枚目の陣が悲鳴のような音を立てて消滅する。ダークウィザードは両腕を交差させ、最後の黒い魔法陣へ全ての魔力を注いだ。

 

「解析不能……この連携は、記録の外……」

 

「記録の外にいるから、人は前へ進めるんだよ」

 

 蹴りが最後の壁を貫いた。炎と桜色の砲撃がダークウィザードの装甲へ重なり、黒い魔法陣ごとその身体を空中で撃ち抜く。闇の魔力は炎に焼かれ、なのはの光に押し流され、崩れた装甲の隙間から白い亀裂が走った。

 

 ダークウィザードは空中でよろめき、黒い魔法陣の破片と一緒に砕け散った。空を覆っていた闇が消え、赤黒い結界の向こうに、本来の空の色が少しだけ戻る。俺は翼を広げて落下を抑え、なのはの近くへ着地した。

 

「ツカサ先生、やりましたね」

 

「まだ終わりじゃないが、今の道はお前が開けた」

 

 なのはは息を整えながら、レイジングハートを胸の前で握り直した。さっき渡した言葉をどう受け取ったのかは知らないが、その目には迷いがない。助けたいなら飛べばいい。届かないなら、届く場所まで進めばいい。なのはは、それができる奴だ。

 

「二つの視点が破損しました。魔蛇、ダークウィザード、いずれも検証継続不能」

 

 ミラージュアギトの声が地上から響く。フィルは残った蜃気楼をまとい、こちらを見上げていた。声だけを聞けば平静だが、わずかに揺らぎの輪郭が乱れている。魔蛇もダークウィザードも倒された以上、こいつの記録通りには進んでいないはずだ。

 

「だが、門矢士。高町なのは。あなた達の連携は、既に記録の外へ逸脱し始めています」

 

「なら、次の記録も当てにならないな」

 

 俺はタジャドルの翼をゆっくりと畳み、地上のミラージュアギトへ視線を落とした。なのはも隣でレイジングハートを構える。フェイトとはやてもそれぞれの位置から合流の準備をしている。残るは、最初から観測者気取りで立っていたあいつだ。

 

 空の黒い魔法陣はもうない。誰かの記録に閉じ込められるつもりもない。俺達が進む道は、いつだって盤面の外から作ればいい。

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