光写真館の一角は、いつの間にか“静かな異物”を抱え込む場所になっていた。
壁際に寄せられた背景用のスクリーンは取り外され、代わりに即席の作業台が置かれている。照明も本来の撮影用ライトではなく、波長を調整できる実験用ランプに差し替えられていた。改造と言えば聞こえは悪いが、見慣れたツカサにとっては「またか」という程度の光景だ。
作業台の中央には、小さなケース。その中に収められているのが、神社で回収された“ジェルシードの破片”だった。
碧い。
ただの青ではない。まるで生き物の瞳を切り取ったかのような、深く澄んだ碧色。角度を変えるたび、内部でわずかに光が揺らぐ。
「……やっぱり……綺麗……」
イータは素直な感想を漏らしながら、ピンセットで破片を取り出す。表面を覆う結晶構造は滑らかで、人工物にも自然物にも見える曖昧さを持っていた。
「……形状……宝石……でも……均一じゃない……」
拡大レンズ越しに観察しながら、淡々と記録を取る。
「……中心部……魔力密度……異常……」
測定器を近づけると、針が跳ね上がった。
「……一つ一つが……巨大な魔力の塊……」
イータは小さく頷く。
破片にも、かすかに同じ刻印が残っていた。
「……シリアル……?」
ツカサが腕を組んで覗き込む。
「番号付きの爆弾ってわけか」
「……うん……でも……」
イータは首を振る。
「……番号を振る理由……管理……観測……」
「……“使う前提”……」
次に、イータは結晶片を二つ、少し離して並べた。
すると――
結晶の表面が、かすかに脈打つ。
「……反応……?」
だが、互いに引き寄せ合うことはない。
「……集合性……無し……」
「……単体完結型……」
イータは少しだけ眉をひそめる。
「……じゃあ……なぜ……暴走……?」
その答えは、すぐに現れた。
イータが、意図的に魔力を少量だけ流した瞬間だった。
結晶が、はっきりと“応えた”。
光が膨らみ、まるで呼吸するかのように明滅する。
「……共鳴……」
イータの声が低くなる。
「……でも……魔力だけじゃない……」
彼女は、ふと視線を上げる。
なのはの顔が、脳裏をよぎる。
「……感情……」
イータは、独り言のように続ける。
「……願望……」
「……周囲の生物が……何を望んだか……」
結晶が、再び淡く光る。
「……叶える……というより……」
光が、歪む。
「……増幅……歪曲……」
「……願いに……反応して……暴走……」
ツカサが、低く唸る。
「都合のいい奇跡じゃなくて、悪意のない災厄か」
「……うん……」
イータははっきり頷いた。
「……正確には……願いを……理解してない……」
「……ただ……刺激に……過剰反応……」
結晶は、魔力と感情を区別しない。ただ“強い願望”に引き寄せられ、それを力に変える。
「……だから……」
イータは結論を口にする。
「……優しい願いでも……危険……」
「……守りたい……助けたい……」
「……そういう願いほど……暴走……大きい……」
光写真館の空気が、少し重くなる。
ツカサは、静かに息を吐いた。
「……厄介だな」
「……うん……」
イータはケースを閉じ、厳重にロックをかける。
「……これ……放置……不可……」
「……回収……優先……」
「……でも……」
一拍置いて、続ける。
「……全部……集まった時……何が起きるか……」
それは、まだ分からない。