悪魔と呼ばれ慣れて 3rd   作:ボルメテウスさん

19 / 149
未知の願い

 光写真館の一角は、いつの間にか“静かな異物”を抱え込む場所になっていた。

 

 壁際に寄せられた背景用のスクリーンは取り外され、代わりに即席の作業台が置かれている。照明も本来の撮影用ライトではなく、波長を調整できる実験用ランプに差し替えられていた。改造と言えば聞こえは悪いが、見慣れたツカサにとっては「またか」という程度の光景だ。

 

 作業台の中央には、小さなケース。その中に収められているのが、神社で回収された“ジェルシードの破片”だった。

 

 碧い。

 

 ただの青ではない。まるで生き物の瞳を切り取ったかのような、深く澄んだ碧色。角度を変えるたび、内部でわずかに光が揺らぐ。

 

「……やっぱり……綺麗……」

 

 イータは素直な感想を漏らしながら、ピンセットで破片を取り出す。表面を覆う結晶構造は滑らかで、人工物にも自然物にも見える曖昧さを持っていた。

 

「……形状……宝石……でも……均一じゃない……」

 

 拡大レンズ越しに観察しながら、淡々と記録を取る。

 

「……中心部……魔力密度……異常……」

 

 測定器を近づけると、針が跳ね上がった。

 

「……一つ一つが……巨大な魔力の塊……」

 

 イータは小さく頷く。

 

 破片にも、かすかに同じ刻印が残っていた。

 

「……シリアル……?」

 

 ツカサが腕を組んで覗き込む。

 

「番号付きの爆弾ってわけか」

 

「……うん……でも……」

 

 イータは首を振る。

 

「……番号を振る理由……管理……観測……」

 

「……“使う前提”……」

 

 次に、イータは結晶片を二つ、少し離して並べた。

 

 すると――

 

 結晶の表面が、かすかに脈打つ。

 

「……反応……?」

 

 だが、互いに引き寄せ合うことはない。

 

「……集合性……無し……」

 

「……単体完結型……」

 

 イータは少しだけ眉をひそめる。

 

「……じゃあ……なぜ……暴走……?」

 

 その答えは、すぐに現れた。

 

 イータが、意図的に魔力を少量だけ流した瞬間だった。

 

 結晶が、はっきりと“応えた”。

 

 光が膨らみ、まるで呼吸するかのように明滅する。

 

「……共鳴……」

 

 イータの声が低くなる。

 

「……でも……魔力だけじゃない……」

 

 彼女は、ふと視線を上げる。

 

 なのはの顔が、脳裏をよぎる。

 

「……感情……」

 

 イータは、独り言のように続ける。

 

「……願望……」

 

「……周囲の生物が……何を望んだか……」

 

 結晶が、再び淡く光る。

 

「……叶える……というより……」

 

 光が、歪む。

 

「……増幅……歪曲……」

 

「……願いに……反応して……暴走……」

 

 ツカサが、低く唸る。

 

「都合のいい奇跡じゃなくて、悪意のない災厄か」

 

「……うん……」

 

 イータははっきり頷いた。

 

「……正確には……願いを……理解してない……」

 

「……ただ……刺激に……過剰反応……」

 

 結晶は、魔力と感情を区別しない。ただ“強い願望”に引き寄せられ、それを力に変える。

 

「……だから……」

 

 イータは結論を口にする。

 

「……優しい願いでも……危険……」

 

「……守りたい……助けたい……」

 

「……そういう願いほど……暴走……大きい……」

 

 光写真館の空気が、少し重くなる。

 

 ツカサは、静かに息を吐いた。

 

「……厄介だな」

 

「……うん……」

 

 イータはケースを閉じ、厳重にロックをかける。

 

「……これ……放置……不可……」

 

「……回収……優先……」

 

「……でも……」

 

 一拍置いて、続ける。

 

「……全部……集まった時……何が起きるか……」

 

 それは、まだ分からない。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。