悪魔と呼ばれ慣れて 3rd   作:ボルメテウスさん

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 ダークウィザードが砕けた空には、まだ炎と桜色の魔力の残光が漂っていた。黒い魔法陣が消えたことで、結界に覆われた街の上空には細い裂け目のような光が戻っている。だが、その光は勝利の余韻というより、次の嵐の前に一瞬だけ見える静けさに近かった。

 

 俺はタジャドルの翼を畳み、なのはの隣へ降り立つ。彼女はレイジングハートを握ったまま息を整え、フェイトとはやてもそれぞれの位置からこちらへ合流しようとしている。魔蛇とダークウィザードは倒した。だが、残っている本体が、倒された二つを仲間として悼むような奴ではないことくらいは分かっている。

 

 ミラージュ・アギトは、崩れた道路の中央に立っていた。蜃気楼のように輪郭を揺らしながら、こちらを見上げる複眼には、怒りでも焦りでもない青白い光が宿っている。まるで、壊れた実験器具を確認し、次の測定へ移る研究者の目だ。

 

「魔蛇、ダークウィザード、二つの視点が破損しました。しかし、観測そのものは継続可能です」

 

「仲間が倒されたというより、壊れた道具を数えているみたいな言い方だな」

 

「複製体は役割を果たしました。次は、本体による直接検証へ移行します」

 

 その言葉が終わるより早く、ミラージュ・アギトの装甲が大きく揺らいだ。熱気で歪む空気が人型を取り、一本の道路に、十数体分の残像がずらりと並ぶ。どれも同じ姿で、どれも同じ気配を持っていた。偽物だと切り捨てたいところだが、そのすべてに本体の匂いが混ざっている。

 

「ようやく本体が動く気になったか」

 

 俺がそう言うと、真正面の一体が地面を蹴った。タジャドルの視界がその跳躍を追い、火の翼を広げて迎え撃とうとした瞬間、空間そのものが反転したように残像の位置が入れ替わる。正面にいたはずの敵は消え、代わりに三方向へ走った影が、なのは、フェイト、はやての足元へ一斉に迫った。

 

「ツカサ先生、敵の反応が三つに分かれています!」

 

「違います、本体の気配が全部に混ざっています!」

 

「幻影やのに、攻撃だけは本物みたいや!」

 

 三人の警告が重なった直後、ミラージュ・アギトの残像が同時に爆ぜた。なのはの砲撃姿勢は真横から伸びた爪で崩され、フェイトの雷速移動は進路の先へ先回りされた拳で止められ、はやての魔法陣は足元からせり上がった蜃気楼の衝撃に歪められる。三人はそれぞれ別方向へ弾かれ、互いの支援がぎりぎり届かない距離へ引き裂かれた。

 

 速いだけではない。こちらがどう動くかを、直前までの戦いから読み込んでいる。なのはの射線、フェイトの踏み込み、はやての陣の起点、その全部を一拍先で潰してきた。

 

「選択してください、門矢士。高町なのは、フェイト・テスタロッサ、八神はやて。あなたは誰を優先して守りますか」

 

 ミラージュ・アギトの声が、戦場の三方向から同時に響いた。残像がそれぞれ爪を構え、なのはの胸元、フェイトの背中、はやての魔法陣の中心へ狙いを定める。どれか一つが偽物なら楽だが、どれも本物になり得るように作られている。見極める時間を与えず、選択だけを迫るための盤面だった。

 

「くだらない質問だな」

 

 俺は翼を広げるが、その瞬間、ミラージュ・アギト本体の残像が頭上へ現れた。俺がどこへ飛ぶかを観測するための目だ。三人を同時に狙いながら、俺の一歩まで封じる。嫌な作りの罠だが、だからこそ、こいつの考えていることは分かりやすい。

 

「ツカサ先生、私は大丈夫です。フェイトちゃんとはやてちゃんを守ってください!」

 

「ツカサ先生、私は避けられます。なのはをお願いします!」

 

「ツカサ先生、うちは防御張れるから、二人を優先して!」

 

 三人が、自分ではなく他の誰かを守れと言った。その声には恐怖よりも、仲間を思う焦りがあった。だから余計に腹が立つ。フィルはそれを分かっていて、この状況を作ったのだ。誰かを守りたいという気持ちを、誰かを見捨てる選択へ変えるために。

 

「お前達がそう言うのは分かっていた。だからこそ、俺が選ぶ答えは決まっている」

 

「一人を選ばないという判断は、三人すべてを危険に晒します」

 

「違うな。誰か一人を選ばせる盤面ごと壊すだけだ」

 

 タジャドルの翼を閉じ、俺は地上へ向けて落ちるように降下した。炎の翼が赤い軌跡を引き、残像達の視線が一斉に俺を追う。地面へ着く寸前、俺はディケイドライバーへカードを差し込んだ。単一の力で誰か一人を拾いに行くのではない。ここから先は、ディケイドとして全員を守るための力を出す。

 

『KAMEN RIDE!DECADE!』

 

 タジャドルの炎が剥がれ、マゼンタの装甲が戻る。落下の衝撃を地面へ逃がしながら立ち上がると、俺の周囲へディケイドの紋章が幾重にも浮かび上がった。ミラージュ・アギトの残像は止まらない。三方向から爪が迫り、空気を裂く音が同時に鳴る。

 

「生徒に自分を後回しにしろなんて言わせる時点で、先生失格だろ」

 

 俺はケータッチを取り出した。黒い画面に光が走り、歴代ライダーの名が順に浮かび上がる。なのは達へ迫る残像の爪が、あと数歩で届く。フィルが観測している。俺がどれを選ぶのかを、どの力を切るのかを、記録へ刻もうとしている。

 

 なら、記録できるだけ記録すればいい。こいつが見ることになるのは、選択肢そのものを踏み砕く姿だ。

 

『KUUGA!AGITO!RYUKI!FAIZ!BLADE!HIBIKI!KABUTO!DEN-O!KIVA!』

 

 ケータッチの音声が戦場に響くたび、紋章が光を増していく。クウガ、アギト、龍騎、ファイズ、ブレイド、響鬼、カブト、電王、キバ。それぞれの力を示す光が俺の周囲に並び、まるで歴史そのものが背中に集まるような重さが生まれた。

 

「では、三人すべてを同時に守ると?」

 

「ああ、当たり前だ。俺は通りすがりの仮面ライダーで、その上こいつらの先生だからな」

 

 俺はケータッチをベルトへ装着し、最後の操作を叩き込む。マゼンタの光が足元から噴き上がり、戦場全体へ波紋のように広がった。

 

『FINAL KAMEN RIDE!DECADE!』

 

 音声が響いた瞬間、ディケイドの装甲が変化した。胸部に歴代ライダーのカードが並び、額のカードも強い輝きを放つ。コンプリートフォームの姿が完成すると同時に、俺の周囲から放たれた衝撃が三方向へ走り、なのは、フェイト、はやてへ迫っていた残像をまとめて弾き飛ばした。

 

「ツカサ先生……!」

 

「今の姿は……」

 

「先生、本気出す気やな……!」

 

 三人の声が聞こえる。残像の爪は届かなかった。だが、ミラージュ・アギト本体はまだ倒れていない。衝撃で揺らいだ蜃気楼の奥から、青白い複眼がこちらを見つめ直している。観測対象を更新する、という声が聞こえた気がした。

 

「それが、門矢士の完全形態。観測対象を更新します」

 

「記録したければ好きにしろ。ただし、次に残るのはお前が倒される記録だ」

 

 俺はコンプリートフォームのまま、一歩前へ出た。胸のカードが光を受け、崩れた市街地に薄い影を落とす。なのは達はそれぞれ体勢を立て直し、もう一度こちらの背中へ視線を向けている。守るだけで終わるつもりはない。ここからは、守った上で叩き返す。

 

 ミラージュ・アギトが本体の爪を構え、俺も正面からそれを見据えた。観測者気取りがどれだけ盤面を作ろうと、先生に生徒を選ばせようとした時点で、こいつは相手を間違えている。

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