悪魔と呼ばれ慣れて 3rd   作:ボルメテウスさん

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歪な進化

 ミラージュ・アギトの爪が、瓦礫を削りながら正面へ迫ってきた。コンプリートフォームへ変わったばかりの俺は、胸に並ぶカードの重みを感じながら、その一撃を腕で受け止める。金属と金属がぶつかる音が結界の市街地に響き、衝撃の波が足元の砕けたアスファルトをさらに割った。

 

 さっきまでの残像とは違う。幻に本体の力を混ぜているというより、本体そのものが複数の可能性へ散っているような感覚だ。真正面から受けた爪は重く、横から滑り込んできた別の影も、ただの幻では済まない火花を残していく。

 

「観測対象を更新しました。門矢士、コンプリートフォーム。全ライダー能力の統合状態として記録します」

 

「記録するのは勝手だが、そこに俺達の答えまで書けると思うな」

 

 ミラージュ・アギトの輪郭が揺らぎ、三体、五体、七体と数を増やした。どれも同じ青白い複眼を持ち、どれもこちらの動きに合わせて間合いを詰めてくる。なのは、フェイト、はやては分断された位置から体勢を立て直していたが、まだ完全には合流できていない。

 

「ツカサ先生、敵の反応がまだ揺れています!」

 

「本体の気配が消えていません。残像全部に攻撃能力があります!」

 

「先生、あいつまだ仕掛けてくるで!」

 

 三人の警告を聞きながら、俺は一歩踏み込んだ。正面のミラージュ・アギトが拳を振るう。俺はそれを弾き、横から来た爪を肩で受け、さらに背後の残像へ蹴りを叩き込んだ。衝撃で残像の一つが崩れるが、別の位置受け、さらに背後の残像へ蹴りを叩き込んだ。衝撃で残像の一つが崩れるが、別の位置から同じ姿が滲み出る。

 

「さっきまでより重いな。本体が混ざると、幻も洒落じゃ済まないか」

 

「あなたが完全形態へ移行したことで、こちらも検証段階を進めました。通常の幻影ではなく、攻撃可能な分岐体として再構成しています」

 

「便利な言葉だな。分岐と言えば、何を増やしても許されると思っているらしい」

 

 俺はライドブッカーを構えたが、ミラージュ・アギトの攻撃はそこへ乗ってこなかった。奴は一度大きく距離を取り、両腕を広げる。周囲に残っていたギルアギト達が低く唸り、街路の影からこちらを囲むように姿を現した。

 

「アギトの力は進化の象徴です。ならば、その進化がどこまで観測に耐えるのか、直接確認しましょう」

 

 その言葉に、俺は胸のカードへ手を伸ばした。ミラージュ・アギトはアギトの名を歪め、ギルアギト達を実験材料として並べている。なら、こいつにぶつけるべき答えは一つだ。歪んだ進化には、正しく前へ進むための光を見せてやればいい。

 

「進化を実験台みたいに語るな。アギトの光は、お前の記録に閉じ込めるものじゃない」

 

 コンプリートフォームの胸部に並ぶカードの一枚が輝いた。俺の背後へ巨大なカード状の光が浮かび、その中から、白銀と金色の輝きをまとった戦士が歩み出る。シャイニングカリバーを手にしたその姿は、戦場に残っていた赤黒い結界光を押し返すほど眩しかった。

 

『KAMEN RIDE!AGITO!』

 

『COMPLETE!AGITO SHINING!』

 

 シャイニングアギトは無言のまま、俺の隣に並んだ。言葉はいらない。召喚された姿であっても、その立ち方だけで分かる。これはフィルが歪めた複製ではない。人が恐れを越え、前へ進むために手にした光だ。

 

「あれが、アギトの光……」

 

「綺麗やな。けど、ただ眩しいだけやない。ちゃんと前へ進むための光なんや」

 

 なのはとはやての声が聞こえる。フェイトは警戒を解かず、バルディッシュを構えたままミラージュ・アギトの分岐体を見据えていた。俺は小さく息を吐き、シャイニングアギトと同時に地面を蹴る。

 

「目に焼き付けておけ。進むための光ってのは、本来こういうものだ」

 

 ミラージュ・アギトの分岐体が一斉に襲い掛かってきた。俺は真正面の拳をライドブッカーで弾き、シャイニングアギトは横合いから迫る残像へシャイニングカリバーを振るう。白銀の斬撃が空間を裂くと、蜃気楼の輪郭が光に焼かれ、残像の内側に隠れていた本体の線が浮かび上がった。

 

「見えたぞ。どれだけ揺らいでも、光を浴びれば影は出る」

 

「正統な進化の光が、歪んだ複製を照らす。興味深い反応です」

 

「記録する前に倒れておけ」

 

 俺が踏み込むと、シャイニングアギトも同じタイミングで前へ出た。二つの攻撃が別々の方向からミラージュ・アギト本体へ迫る。奴は分岐体を壁にして逃げようとしたが、シャイニングカリバーの光はその壁を斬り開き、偽物の奥にいる本体だけを浮かび上がらせた。

 

 胸部装甲へシャイニングアギトの斬撃が入る。白銀と金色の光が弾け、ミラージュ・アギトの装甲に深い亀裂が走った。俺はその隙を逃さず、ライドブッカーを横薙ぎに叩き込み、肩から脇腹へ火花を散らせる。ミラージュ・アギトは初めて大きく後退し、蜃気楼の輪郭が乱れた。

 

「ツカサ先生、効いています!」

 

「敵の幻影が薄くなっています。このままなら押せます!」

 

 なのはとフェイトの声に、俺はさらに踏み込もうとした。だが、ミラージュ・アギトは倒れなかった。胸の亀裂から漏れる光を、奴は逃がすのではなく、両腕で掬うように広げている。傷口から溢れたシャイニングアギトの光が、細い血管のような線となって、周囲のギルアギト達へ伸びていった。

 

「進化に、正統も異端もありません。観測に有用であれば、すべては次の形へ移行できます」

 

「何をする気だ」

 

「適応実験です。正統進化の光を、量産複製体へ移植します」

 

 光の線がギルアギト達へ突き刺さる。最初は浄化されるのかと思うほど、白銀と金色の輝きが戦場へ広がった。だが、その直後に聞こえたのは、獣の咆哮とも悲鳴ともつかない歪んだ声だった。

 

「ツカサ先生、光が敵に流れています!」

 

「あかん、あれは回復やない。無理やり変えとる!」

 

「ギルアギト達の反応が上がっています。しかも、安定していません!」

 

 ギルアギト達の身体が膨れ上がる。白銀の装甲が肩や胸へ盛り上がり、金色の縁取りが血管のように走った。だが、その形はシャイニングアギトのように整っていない。角は左右で長さが違い、爪は輝きながら不自然に曲がり、背中からは翼とも棘ともつかない光の器官が突き破るように生えていく。

 

 光は美しい。だが、姿はおぞましい。進化という言葉で飾るには、あまりにも乱暴な変異だった。力だけを外から流し込み、身体が耐えられるかどうかなど考えていない。ギルアギト達は白銀と金色の輝きを纏いながら、内側から壊れかけているように震えている。

 

「シャイニングギルアギト。正統進化の光を、量産複製体へ適応した結果です」

 

「適応じゃない。ただの歪な押し付けだ」

 

「それでも、進化です」

 

「違うな。進化ってのは、誰かに無理やり流し込まれるものじゃない」

 

 俺の言葉に、ミラージュ・アギトは答えず、手を前へ差し出した。シャイニングギルアギト達が一斉に顔を上げる。白銀の複眼がぎこちなく光り、金色の爪が瓦礫の道路を削った。命令に従っているようで、反応が少し遅れている個体もいる。はやてが言った通り、これは進化というより崩壊に近い。

 

「ツカサ先生、あの子達……苦しんでいるように見えます」

 

 なのはの声は、戦いの中でも震えていなかった。ただ、怒りと悲しみが混ざっている。敵であっても、無理やり変えられている存在を見れば、あいつは放っておけないのだろう。

 

「苦しんでいるからこそ、止めるしかない。放っておけば周囲ごと巻き込む」

 

 フェイトが短く言い、雷光をまとった刃を構え直す。はやても足元に魔法陣を広げ、崩れかけた街区を守るための防御陣を重ね始めた。

 

「先生、あれを全部相手にするなら、こっちも全力で支えるで」

 

「守られるだけで終わるつもりはありません。ツカサ先生、私達も戦います!」

 

 なのはの言葉に、俺は頷いた。シャイニングアギトも無言でシャイニングカリバーを構え直す。正統な光と歪な光が、同じ戦場に並んでいる。ミラージュ・アギトは損傷した胸部からまだ光を漏らしながら、どこか満足げにこちらを見ていた。

 

「歪な進化の軍勢に対し、コンプリートフォームはどこまで適応できるのか。検証を継続します」

 

「好きに観測してろ。次にお前が記録するのは、進化を履き違えた奴らがまとめて止められる場面だ」

 

 シャイニングギルアギト達が一斉に地面を蹴った。白銀と金色の怪物達が、瓦礫の街を踏み砕きながら迫ってくる。俺はコンプリートフォームのまま前へ出て、隣のシャイニングアギトも同時に一歩踏み出した。背後にはなのは、フェイト、はやてがいる。守るために変身した力は、ここから先、歪められた光を正面から叩き返すために使う。

 

 正統な光と歪な光がぶつかる戦場は、さらに苛烈な乱戦へ変わっていった。

 

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