悪魔と呼ばれ慣れて 3rd   作:ボルメテウスさん

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揃いし、ヒーロー

 シャイニングギルアギトの軍勢が、一斉に瓦礫の街を踏み砕いた。白銀と金色の光をまとっているはずなのに、その歩き方は美しさとは程遠い。片方だけ長く伸びた角、左右で形の違う爪、背中から突き出した翼とも棘ともつかない光の器官が、進むたびにひび割れた輝きを撒き散らしている。

 

 その光は、もともとシャイニングアギトのものだった。人が前へ進むために手にした正統な進化の光を、ミラージュ・アギトは傷口から吸い上げ、ギルアギト達へ無理やり流し込んだ。だからこそ、目の前の軍勢は輝いているのに救いがない。光に包まれながら、内側から壊れかけているように見えた。

 

 俺はコンプリートフォームのまま前へ出た。隣では召喚体のシャイニングアギトが無言でシャイニングカリバーを構えている。背後にはなのは、フェイト、はやてが、それぞれの武器と魔法陣を構え直していた。三人とも消耗はしているが、引く気はないらしい。先生としては無茶をするなと言いたいところだが、この場でそれを言っても聞く連中じゃない。

 

「シャイニングギルアギトの適応率は想定値を上回っています。個体の損耗を前提にすれば、戦力差は決定的です」

 

 ミラージュ・アギトは胸部装甲を裂かれ、そこから白銀の光を漏らしながらも、声だけは変わらなかった。こいつにとって、あの軍勢が苦しんでいるかどうかは問題ではない。どれだけ出力が上がったか、どれだけ戦場を押し潰せるか、それだけを見ている。

 

「壊れながら歩いている連中を見て、よく勝ち誇れるな」

 

「勝ち誇っているのではありません。観測結果に基づく結論です」

 

「観測結果ね。人の痛みを数字にしか見ない奴の結論ほど、信用できないものはない」

 

 シャイニングギルアギトの前列が低く唸った。命令を受けているようで、反応にばらつきがある。ある個体は一歩早く踏み出し、別の個体は身体のひび割れから光を噴き出しながら遅れて進む。だが、出力だけは本物だった。爪が瓦礫に触れるだけで、石材が熱で溶け、地面に白い傷が走る。

 

「ツカサ先生、あの子達の反応、安定していません!」

 

 なのはの声には、敵を前にした警戒だけではなく、苦しむ相手を放っておけない感情が混ざっていた。レイジングハートの先端には桜色の光が集まり、いつでも防御にも砲撃にも移れる構えだ。

 

「けれど、出力はさっきのギルアギトとは比べものになりません」

 

 フェイトがバルディッシュを構え、雷光を足元へ走らせる。高速で迎撃するつもりなのだろうが、数が多すぎる。前列だけでも十数体、その後ろにも白銀と金色の怪物達が続いている。

 

「この数で一気に来られたら、防御線が持たへんかもしれん。せやけど、止めなきゃ街ごと飲まれる」

 

 はやての足元にベルカ式魔法陣が広がった。広域防御を張る気配があるが、この軍勢が一斉にぶつかれば、どこかに穴が開く。それくらいの圧が、前方から押し寄せていた。

 

 ミラージュ・アギトがゆっくりと腕を上げる。シャイニングギルアギト達は前列、中列、後列に分かれ、こちらを包み込むように配置を変えた。数で押すだけではない。さっきまでの観測で、なのはの射線、フェイトの進路、はやての魔法陣の起点まで読んでいる。

 

「コンプリートフォーム、シャイニングアギト、高町なのは、フェイト・テスタロッサ、八神はやて。個々の戦力は脅威ですが、包囲と数の優位は覆せません」

 

「ずいぶん丁寧に負ける理由を並べてくれるじゃないか」

 

「負ける理由ではありません。あなた達が敗北する条件の提示です」

 

「条件が揃えば必ず結果が出ると思っているなら、観測者としてはまだまだだな」

 

 俺はライドブッカーを握り直す。シャイニングアギトも一歩前へ出た。なのはが防御の魔力を広げ、フェイトが側面へ回る姿勢を取り、はやてが防御陣の層を厚くする。こちらもやるしかない。敵の軍勢が歪な進化で作られたものだとしても、止めなければ被害は広がるだけだ。

 

「それでも、止めなきゃいけません。あのまま進ませたら、街も人も巻き込まれます」

 

「まず前列を崩します。ツカサ先生、合図を」

 

「焦るな。来るぞ」

 

 ミラージュ・アギトの腕が振り下ろされた。前列のシャイニングギルアギト達が一斉に跳躍し、白銀と金色の爪が空気を裂きながら迫ってくる。俺は前へ踏み出し、なのは達も魔力を解放しかけた。

 

 その瞬間、地面の亀裂から白い冷気が走った。

 

 最初は風が凍ったのかと思った。瓦礫の隙間を縫うように伸びた冷気が、シャイニングギルアギト達の足元だけを正確に貫き、次の瞬間には巨大な氷壁となって戦場を横断する。氷は俺達の足元を避け、迫っていた前列の怪物達だけを捕らえた。跳躍しかけた個体は空中で凍りつき、爪を振り下ろそうとしていた個体は、その姿勢のまま白い氷に閉じ込められる。

 

「氷……!」

 

 なのはが息を呑んだ。凍ったシャイニングギルアギト達の内側では、白銀と金色の光が明滅している。氷の中でまだ動こうとしているが、進軍は確かに止まった。ほんの一瞬、戦場を押し潰していた圧力が切れる。

 

「この精度、味方の攻撃や!」

 

「後方から複数の反応が接近しています!」

 

 フェイトが振り返るより早く、氷の向こうから足音が聞こえた。白い冷気を踏み越えて現れたのは、半身に霜をまとった轟焦凍だった。腕を前に伸ばしたまま、まだ氷結を維持している。その横には、緑の稲妻を散らす緑谷出久がいた。

 

「間に合った。前列は止めたが、長くは持たない」

 

「ツカサ先生、皆さん、まだ終わっていません!」

 

 緑谷が氷の上を駆けてくる。傷は残っているが、目は死んでいない。ヘキサオーズを倒したあとも、こいつは立ち止まらなかったらしい。背後からは合流できた仲間達の気配も続き、崩れかけていた防御線へ新しい力が加わっていく。

 

「遅いぞ、緑谷。こっちは先生一人で補習を始めるところだった」

 

「すみません。でも、ここからは僕達も一緒に戦います」

 

「謝るなら後だ。来たなら働け、緑谷」

 

「はい、ツカサ先生!」

 

 緑谷は短く返事をして、俺の隣へ並んだ。轟は氷壁の状態を見ながら、次の一手を考えている。氷に閉じ込められたシャイニングギルアギト達は完全に止まっているわけではない。内側から光が暴れ、透明な壁へ細かなひびが走っている。

 

「緑谷出久。OFA保有個体の再合流を確認しました。観測条件を再更新します」

 

 ミラージュ・アギトの声が、凍った軍勢の奥から響いた。緑谷の名を呼ぶ声には、先ほどまでとは違うわずかな熱があった。OFAをこの世界へ呼び寄せた者達、その暗示を残していたフィル達にとって、緑谷の再合流は単なる援軍以上の意味を持つのだろう。

 

「観測のために誰かを傷つけるなら、僕達が止めます。呼び寄せられた理由が何であっても、ここで終わらせます」

 

 緑谷の拳に緑の稲妻が走る。なのはがその言葉に頷き、レイジングハートを構え直した。

 

「助けられるなら助けます。届くなら、何度でも手を伸ばします」

 

「私は側面を抑えます。突破してくる個体は止めます」

 

「布陣を組む時間はもろた。轟くん、助かったで」

 

 はやてがそう言うと、轟は短く頷いた。氷壁の中で、シャイニングギルアギトの爪が動き、氷を内側から削る音が響き始める。

 

「凍らせたが、あの光が内側から氷を割ってくる。完全には止められない」

 

「十分だ。最終決戦らしく、役者は揃った」

 

 俺はコンプリートフォームのまま、前方のミラージュ・アギトを見据えた。隣には緑谷、少し後ろにはなのは、フェイト、はやて、轟がいる。シャイニングアギトも無言で剣を構え、凍りついた軍勢の向こうにいる本体へ切っ先を向けた。

 

「戦力増加を確認。それでも、歪な進化軍勢の優位は揺らぎません」

 

「まだ分かってないな。戦力の数だけで勝てるなら、ヒーローも仮面ライダーも必要ない」

 

 氷に大きな亀裂が入った。白銀と金色の光がひびの奥から漏れ、凍結された前列がゆっくりと動き始める。轟の氷は確かに進軍を止めた。だが、ここから先は止めるだけでは足りない。解放するために倒し、終わらせるために進まなければならない。

 

「いい顔になったじゃないか、緑谷。なら、最終決戦らしく派手にいくぞ」

 

「はい。ミラージュ・アギトを止めて、シャイニングギルアギト達も解放します」

 

「いいだろう。ここから先は、観測者気取りの実験を終わらせる時間だ」

 

 氷の割れる音が、最終決戦の鐘のように戦場へ響いた。シャイニングギルアギト達が再び動き出し、ミラージュ・アギトが歪な光の軍勢を前へ進ませる。こちらも一歩も引かない。世界を越えて集った者達が横一列に並び、コンプリートフォームの俺は、その先頭でライドブッカーを構えた。

 

 歪な進化の軍勢と、世界を越えて集った者達の戦いが、ついに始まろうとしていた。

 

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