悪魔と呼ばれ慣れて 3rd   作:ボルメテウスさん

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爆炎の師弟

 氷の壁に走った亀裂が、戦場全体へ乾いた音を響かせた。轟が展開した氷結は、確かにシャイニングギルアギトの前列を止めていたが、その内側では白銀と金色の光が暴れ続けている。氷越しに見える怪物達は、静止しているというより、無理やり押さえ込まれたまま身体の内側から膨れ上がっているようだった。

 

 俺はコンプリートフォームのまま、割れ始めた氷壁の向こうを見据えた。隣には緑谷がゼインの姿で立ち、さらにその横で轟が右手に冷気、左手に熱を宿している。なのは、フェイト、はやては後方へ布陣し直し、防御と退避路の確保に回っていた。正面には歪な進化の軍勢、その奥には胸部を損傷したミラージュ・アギトがいる。

 

「止めたのは前列だけだ。中の光が暴れているから、もう長くは持たない」

 

 轟の声に合わせるように、氷の内側から金色の爪が突き出した。透明な壁が砕け、破片が光を反射しながら宙へ散る。シャイニングギルアギトの一体が氷を割って踏み出し、続く個体も次々と拘束を破り始めた。輝く装甲は美しいはずなのに、動きはぎこちなく、苦しむ獣が無理やり前へ歩かされているように見える。

 

「ツカサ先生、氷の中で反応が膨れ上がっています!」

 

「割れます。全員、迎撃準備を!」

 

 なのはとフェイトの声が飛ぶ。はやては広域防御の陣をさらに重ね、氷壁の割れた先から飛んでくる破片と光の余波を受け止めた。ミラージュ・アギトは軍勢の奥で、感情のない声をこちらへ投げてくる。

 

「凍結による一時停止を確認しました。しかし、シャイニングギルアギトの進化出力は拘束を上回ります」

 

「いちいち勝ち誇るには早いな。氷が割れるなら、その前に次の手を打つだけだ」

 

 俺は軍勢の動きを見ながら、ただ倒すだけでは足りないことを改めて感じていた。あの白銀と金の光は、シャイニングアギトから無理やり流し込まれた歪な力だ。外側から叩き壊せば止まるかもしれないが、それではフィルの実験と大して変わらない。あの軍勢を止めるなら、暴走の核になっている光を焼き切る必要がある。

 

 緑谷も同じものを見ていたのだろう。ゼインの複眼が、割れた氷の向こうで震えるシャイニングギルアギト達へ向けられている。拳は握られているが、そこにあるのは怒りだけではない。

 

「あれは、ただの敵じゃありません。無理やり変えられて、暴走させられている」

 

「分かっているなら、ただ殴って終わりにはするな。救けるために止める、それがお前の戦い方だろ」

 

「はい。だから、力を借ります。救けるために、究極の力を使います」

 

 緑谷はゼインのカードを取り出し、ゼインドライバーへ装填した。カードに刻まれた力が読み込まれると、周囲の空気が一瞬だけ重くなる。単なる炎ではない。優しさを失えば破壊へ傾きかねない、究極の力の気配だった。

 

『仮面ライダークウガ!』

 

『ZEIN CARD!』

 

『JUSTICE EXECUTE!』

 

 ゼインの周囲に黒と金の炎のような光が走った。クウガアルティメットフォームの力が重なり、緑谷の全身へ静かな熱を宿していく。だが、その熱は禍々しく燃え広がるものではない。緑谷の意志に押さえられ、歪められた光だけを見極めるように、内側で深く燃えていた。

 

「クウガの究極の力は、ただ強いだけじゃない。あの男は、それでも優しさを捨てなかった」

 

「なら僕も、救けるために使います」

 

 緑谷の答えは短いが、その中に迷いはなかった。俺は小さく頷き、轟へ視線を向ける。轟は氷壁の残り方と軍勢の密集具合を見て、すぐにこちらの意図を読んだらしい。

 

「俺が外側を固定する。炎を逃がさないように囲む」

 

「轟、氷で檻を作れ。緑谷、中心へ力を通せ。俺がミラージュ・アギトの横槍を止める」

 

「分かりました、ツカサ先生!」

 

「緑谷、俺の炎に合わせろ。氷で閉じて、炎を中へ回す」

 

 轟の右手から冷気が走り、割れた氷壁の残骸が再び形を変えた。今度はただ止める壁ではない。シャイニングギルアギト達を一か所へ押し込み、外へ逃がさないための半円形の氷の檻だ。左手から放たれた炎熱は、その内側を這うように回り、緑谷の立つ中心へ向かって熱の流れを作る。

 

 軍勢は当然、それを待ってはくれない。白銀の爪が氷を削り、金色の光が炎を押し返そうと暴れる。数体が檻を越えようと跳躍した瞬間、フェイトの雷光がその進路を切り、なのはの砲撃が空中の個体を押し戻す。はやての魔法陣が味方側の防御を固め、炎と光の余波がこちらへ漏れないように支えた。

 

「高出力の同時接続を確認。クウガアルティメットの力、OFA、半冷半燃。異なる体系の同時運用は、暴走の危険を伴います」

 

 ミラージュ・アギトが動いた。蜃気楼の残像を広げ、緑谷と轟の連携を崩すため、氷の檻へ向かって突進してくる。俺はその前へ出る。召喚体のシャイニングアギトも無言で並び、シャイニングカリバーを構えた。

 

「危険を承知で踏み込むから、ヒーローも仮面ライダーも前に進めるんだよ」

 

「その判断は非合理的です」

 

「合理的なだけで勝てるなら、お前はとっくに勝っている」

 

 ミラージュ・アギトの爪をライドブッカーで受け、横から伸びた残像の蹴りをシャイニングアギトが斬り払う。奴は俺達の動きを観測しながら軌道を変えたが、ここを通すわけにはいかない。緑谷と轟の技が完成するまでの数秒、その数秒を守るのが今の俺の役目だ。

 

「その連携は危険です。出力の暴走により、味方側への被害が発生する可能性があります」

 

「心配してくれるとは意外だな。だが、お前の計算より、こいつらの制御を信じる」

 

 後ろで、熱が膨れ上がった。轟の氷の檻が冷気で外周を閉じ、左の炎が内側で巨大な渦を作る。緑谷はその中心へ拳を向け、クウガアルティメットの力とOFAの稲妻を重ねていた。黒金の炎と緑の閃光が交わり、轟の赤い炎へ芯を通していく。

 

「轟くん、合わせて!」

 

「いつでも行ける!」

 

「二人とも、歪な光だけを焼け。相手を壊すんじゃなく、押し付けられた進化を止めろ」

 

「はい、ツカサ先生!」

 

 シャイニングギルアギト達が一斉に吠えた。光のひび割れが全身へ広がり、氷の檻を内側から砕こうとする。だが、轟の氷は割れるたびに形を変え、炎が逃げる先を塞いでいく。緑谷は一歩前へ出て、拳に集めた炎を軍勢の中心へ向けた。

 

「みんなを傷つけるためじゃない。あの歪な光を止めるために!」

 

「行け、緑谷。炎は俺が支える」

 

「迷うな。お前の拳は、救けるためにある」

 

 緑谷の拳が振り抜かれた。OFAの衝撃が炎の中心へ突き刺さり、クウガアルティメットの力を帯びた熱が巨大な柱となって立ち上がる。轟の炎がその柱を包み、氷の檻が外側から形を保つ。三つの力はばらばらに暴れるのではなく、一つの意思に導かれるように、シャイニングギルアギト達の内側へ流し込まれた歪な光だけを狙って広がった。

 

「アルティメット・ユナイテッド・フレイム!」

 

「凍らせて、閉じ込めて、燃やし切る!」

 

「歪な進化ごと、ここで止まれ!」

 

 巨大な炎が戦場を照らした。白銀と金色の怪物達は炎に呑まれ、けれど肉体を焼かれて崩れるのではなく、身体に絡みついていた歪な輝きだけを剥がされていく。ひび割れた光が炎の中で浮き上がり、轟の炎熱とゼインの黒金の熱に包まれ、灰のように消えていく。

 

「反応が下がっていきます。暴走していた光が消えています!」

 

「軍勢の動き、停止しました!」

 

「倒したというより、無理やり流し込まれてた力を焼き切ったんやな」

 

 なのは、フェイト、はやての声が聞こえる。炎の柱が収まると、シャイニングギルアギト達は次々と膝をつき、白銀と金色の歪な装甲は剥がれ落ちるように霧散していた。元のギルアギトの姿も保てず、変異の力を失った個体から順に活動を停止していく。少なくとも、もう苦しむように暴れてはいなかった。

 

 緑谷は拳を下ろし、大きく息を吐いた。ゼインの装甲にはまだ黒金の熱が残っているが、その炎はもう暴れていない。轟も氷を解除し、残った熱を逃がすように左手を下げる。二人とも消耗しているが、目は前を向いていた。

 

 ミラージュ・アギトは、初めて言葉を失っていた。胸部の損傷から漏れる光が小さく揺れ、蜃気楼の輪郭がわずかに乱れている。観測でも、記録でも、適応でもない。今の一撃は、こいつが進化と呼んだ歪みそのものを否定した。

 

「……歪な進化軍勢の活動停止を確認」

 

「珍しく黙ったな。自慢の観測結果に、都合の悪い答えでも出たか」

 

 俺はライドブッカーを構え直し、シャイニングアギトも無言で剣を上げた。なのは達は防御線を整え、緑谷と轟も再び前へ並ぶ。軍勢は止めた。残るは、歪な進化をばら撒いた本体だけだ。

 

「次は本体だ。観測者気取りの実験は、ここで終わらせる」

 

 ミラージュ・アギトがゆっくりと顔を上げる。青白い複眼が、こちらを観測するように光った。だが、もう戦場に歪な進化の軍勢はいない。残っているのは、世界を越えて集った者達と、進化を履き違えた複製の本体だけだった。

 

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