悪魔と呼ばれ慣れて 3rd   作:ボルメテウスさん

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集合

 三位一体の炎が消えたあと、戦場には熱を含んだ白い蒸気が漂っていた。轟の氷の檻は溶けかけ、緑谷がゼインの力で焼き切った歪な光の残滓が、灰のように瓦礫の上へ降っている。シャイニングギルアギトの主力は沈黙し、さっきまで街を押し潰していた白銀と金色の軍勢は、膝をついたまま動かなくなっていた。

 

 だが、ミラージュ・アギトはまだ倒れていない。胸部の亀裂から漏れる青白い光は弱まっているが、その複眼だけはまだこちらを見ていた。俺はコンプリートフォームのままライドブッカーを握り直し、隣に立つシャイニングアギトも無言で剣を構える。緑谷と轟は大技の直後で息を乱しているが、視線は本体から外していない。なのは、フェイト、はやても防御線を整えながら、周囲の反応を警戒していた。

 

「主力軍勢の活動停止を確認しました。しかし、観測はまだ終了していません」

 

「随分としぶとい記録係だな。いい加減、観測なんて言葉で逃げるのはやめたらどうだ」

 

「逃避ではありません。予備観測端末の起動です」

 

 ミラージュ・アギトがそう言った瞬間、崩れたビルの陰で白銀の光が灯った。瓦礫の下、折れた高架の向こう、焼け焦げた街路の奥から、まだ活動していたシャイニングギルアギト達が姿を現す。数は主力ほど多くない。だが、そいつらの複眼から伸びた細い光の線が、戦場の空を縫うように走り、ミラージュ・アギトの胸部の亀裂へ繋がっていく。

 

「ツカサ先生、敵の反応がまた増えています!」

 

 なのはの声が緊張を帯びる。桜色の魔力が再びレイジングハートの先端へ集まり、いつでも撃てる状態を保っている。

 

「今度は兵隊やない。あれ、ミラージュ・アギトに情報を送っとる!」

 

「端末のように使われています。このままだと、本体の反応が回復します!」

 

 はやてとフェイトの分析通り、シャイニングギルアギト達はただ突っ込んでくるだけではなかった。白銀と金色の歪な装甲を軋ませながら、それぞれが別方向へ散り、こちらの動きと魔力、ライダーの反応を拾うように配置を変えていく。ミラージュ・アギトの輪郭は、その光の線に支えられるように再び蜃気楼を帯び始めていた。

 

「観測端末が存在する限り、私は戦況を再構成できます。あなた達の連携も、消耗も、次の行動も記録可能です」

 

「だったら、その端末を全部壊される前提は記録していないのか」

 

「現存戦力では、全方向同時制圧は困難です」

 

「現存戦力、ね。お前の観測範囲は、まだ狭いな」

 

 俺は踏み込んだ。ミラージュ・アギトが爪を振るい、俺はその一撃をライドブッカーで受け止める。横から現れた残像をシャイニングアギトが斬り払い、本体の動きを逃がさない。だが、戦場の三方向では光の網が広がり続けている。西側、北側、東側。それぞれの端末群が繋がれば、こいつはまた戦場全体を見渡す目を取り戻す。

 

 その時、西側から重い爆発音が響いた。

 

「遅れた分は、ここでまとめて返すわ」

 

 炎と瓦礫の向こうから飛び込んできたのは、仮面ライダーケルビムへ変身したデルタだった。白い装甲に光を反射させながら、彼女は正面のシャイニングギルアギトへ躊躇なく突っ込む。その少し上空では、魔神デルタがデルタバルカンとしてレーザーの軌跡を引き、ミラージュ・アギトへ伸びる光の線を正確に撃ち抜いていた。

 

「邪魔な光は、全部吹き飛ばす」

 

「進化って言葉を、こんな壊れ方に使うんじゃない!」

 

 デルタの一撃が、前列のシャイニングギルアギトを真正面から押し返した。歪な金色の爪がケルビムの装甲を掠めるが、彼女は怯まずに踏み込み、オーインバスター50の重い打撃で敵の胸部を砕く。魔神デルタのレーザーがその背後を貫き、光の線がまとめて断ち切られた。西側の空に張られていた観測網が、切れた糸のように崩れていく。

 

「撃ち抜く。これ以上、繋がせない」

 

 ミラージュ・アギトの身体が一瞬だけ揺れた。俺はその隙を逃さず斬り込むが、奴は残った残像を盾にして後退する。まだ北と東の観測端末が生きている。そう思った瞬間、今度は北側から鋭い金属音が連続して響いた。

 

「観測端末なら、線を切れば終わり」

 

 ゼータが仮面ライダーベリスの姿で、光の線を縫うように走っていた。細剣ベリスバイザーの切っ先が一閃するたび、ミラージュ・アギトへ繋がる線だけが正確に切り裂かれる。背後では魔神ゼータが仮面ライダーセレーネとして、射撃と斬撃を組み合わせ、暴走しかけたシャイニングギルアギトの急所を冷静に撃ち抜いていた。

 

「中心へ届く前に処理する」

 

「余計な力を流し込まれた個体は、動きが崩れている」

 

「なら、崩れた場所から断つ」

 

 ゼータの動きに迷いはない。敵の光がどれほど美しくても、そこに宿る歪みを見逃さず、線、関節、ひび割れた装甲だけを狙って切っていく。魔神ゼータは彼女の死角へ回り込んだ個体を矢と光刃で押し止め、北側の観測端末群を瞬く間に沈黙させた。ミラージュ・アギトの複数の残像が、映像の乱れのように薄く消える。

 

「観測端末、北側同期率低下。残像維持に障害発生」

 

「どうした。記録係の目が足りなくなったか」

 

 俺の皮肉に、ミラージュ・アギトは答えず、東側へ光を強く流した。まだ結節点が残っている。そこを経由して網を再構成するつもりだろう。だが、その東側から聞こえてきた声は、相変わらず気の抜けたものだった。

 

「……面倒、でも見えた。線の結び目は、あそこ」

 

 イータが仮面ライダーアンニアの姿で、液体のように瓦礫の隙間をすり抜けていた。シャイニングギルアギト達が彼女を追おうとしても、身体は霧のように崩れ、次の瞬間には別の場所へ現れる。魔神イータはエボルXとして空間を歪め、光の線が集まる結節点を黒い亀裂で囲い込んでいた。

 

「まだ壊さない。先に見たい」

 

「……見た。ここを切れば、全部が戻れなくなる」

 

「面倒、でもやる」

 

 イータは淡々と呟き、アンニアの変則的な動きで結節点の足元へ潜り込んだ。パンナコッタの粘液めいた拘束が周囲の端末群を縛り、マンゴープディングの転移で彼女自身は次の位置へ消える。魔神イータのエボルXがその上から重力じみた圧を落とし、光の線が一か所へ折り畳まれた。

 

「……ここ、切断」

 

 軽い声と同時に、東側の結節点が砕けた。光の網全体が大きく波打ち、ミラージュ・アギトの胸部へ集まっていた情報の流れが逆流する。青白い複眼の光が乱れ、奴の蜃気楼の装甲が、初めてはっきりと本体の輪郭を晒した。

 

「ツカサ先生、ミラージュ・アギトの揺らぎが弱まっています!」

 

「観測用の端末が落ちたから、本体の分身能力も落ちています!」

 

「これで、逃げ道も観測網もかなり削れたはずや!」

 

 三方向で戦うデルタ達が、残存個体を抑え続けている。デルタと魔神デルタは西側の押し込みを止め、ゼータと魔神ゼータは北側の光の線を細かく断ち、イータと魔神イータは東側の結節点の再生を防いでいる。援軍が来たというより、ようやくこいつの目を潰すための役者が揃ったという感覚だった。

 

「観測端末、同期不能。予備視点、連続消失。戦況再構成、失敗」

 

 ミラージュ・アギトの声に、初めて明確な乱れが混じった。俺は一歩前へ出る。緑谷もゼインの拳を握り直し、轟は半冷半燃の構えで本体の動きを見据える。なのは達は後方から支援の魔力を整え、もう一度前線へ力を送る準備をしていた。

 

「ようやく見えたな。観測者でも記録係でもない、お前自身の姿が」

 

「もう、誰かを実験に使わせません」

 

「残る本体を止めるだけだ」

 

 緑谷と轟の言葉を受けても、ミラージュ・アギトは倒れなかった。むしろ、失った観測網の代わりに、残った力を胸部の亀裂へ集中させている。青白い光が深く脈打ち、残っていた蜃気楼が一つに収束していく。周囲を見渡す目を失ったことで、こいつは初めて本体だけで戦う形へ追い込まれたのだろう。

 

「観測が失われても、検証は継続します。最後の戦闘記録を、この本体で実行します」

 

「そうか。なら次で終わりだ、フィル」

 

 俺はライドブッカーを構え直した。隣のシャイニングアギトも剣を掲げ、背後にはなのは、フェイト、はやて、緑谷、轟が並ぶ。周囲ではデルタ達が残存個体を抑え、ミラージュ・アギトが逃げ込む余地を消している。もう観測網はない。予備視点もない。残ったのは、傷ついた本体と、ここで終わらせるために集まった俺達だけだ。

 

 すべての観測網を失ったミラージュ・アギトは、初めて本体だけで戦場に立った。青白い光が装甲の亀裂から噴き上がり、最期の戦いを始めるための蜃気楼が、たった一つの姿へと収束していった。

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