悪魔と呼ばれ慣れて 3rd   作:ボルメテウスさん

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宇宙へ

 黒い膜が閉じる寸前、宇宙の先にあった巨大な影の輪郭が、俺達の視界へ焼きついた。星の並びとは違う。空間の奥に誰かが座っているような、こちらを観測するためだけに広げられた巨大な目のような違和感が、結界の空にわずかな傷跡を残している。

 

 ミラージュ・アギトは最後の力でその傷を塞ごうとしていた。青白い光が胸部の亀裂から噴き上がり、黒い膜を押し戻していく。俺はコンプリートフォームのままライドブッカーを構え直したが、その瞬間、空から細い光が落ちた。

 

 それは砲撃ではなく、照準だった。赤白い線が雲も結界も貫いて、瓦礫の街をゆっくり横切っていく。線は俺ではなく、なのは達がいる防御線を撫でるように動き、まるで地上の人間を一人ずつ測っているようだった。

 

「ツカサ先生、上空から高エネルギー反応です!」

 

「違う、上空やない。もっと上、衛星軌道上や!」

 

 なのはとはやての声が重なる。フェイトはすぐに仲間達へ退避の合図を送り、緑谷はゼインのまま拳を握り直した。イータは少し離れた場所で、アンニアの複眼を細く光らせるようにして、空の向こうを見ている。

 

「……見えた。かなり遠い。けど、こっちを狙ってる」

 

「狙ってるって、まさか地上の僕達をですか?」

 

 緑谷の問いに、ミラージュ・アギトが静かに答えた。答える声は損傷のせいでわずかに乱れているのに、内容だけはまだ観測結果の報告みたいに冷たい。

 

「本体記録領域の露出を確認。軌道護衛機による照準補正を開始します」

 

「宇宙の先にいたのは、観測者だけじゃなく狙撃手か」

 

 俺がそう言った直後、照準線が急に太くなった。フェイトが一拍早く叫ぶ。

 

「全員、右へ! 射線が来ます!」

 

「防御陣、展開! 直撃は受けたらあかん!」

 

「レイジングハート、障壁を重ねて!」

 

 なのはの桜色の障壁とはやての防御陣が重なり、全員が射線から外れる。次の瞬間、空から落ちた巨大な光が戦場の一角を貫いた。爆発ではない。音すら遅れて届くほどの速さで、地面が一本の線として切り取られた。瓦礫は溶け、アスファルトは白く焼け、射線上にあった建物の残骸は蒸発したように消えている。

 

 衛星軌道上から地上の人間を狙い撃つ精度と威力。冗談のような話だが、今の一撃がそれを証明していた。

 

「地上の戦いに夢中になっていたら、今度は宇宙から狙撃か。随分と大掛かりな観測だな」

 

「衛星砲護衛機は、軌道上に存在する衛星砲を守る固有型です。地上の標的を直接排除する精度と威力を備えています」

 

「……水色の長い髪、背中に大きいバックパック。砲口、こっち向いてる」

 

 イータの声が妙に静かだった。宇宙空間で腰まで伸びた水色の髪が常に浮き、背中の大型バックパックで姿勢を制御しながら、巨大なビーム砲を地上へ向けている。姿を直接見たわけではないのに、その不気味な絵が頭の中に浮かんだ。

 

「見えてるんか、イータ!」

 

「うん、遠い。でも、いる。次は、たぶん当ててくる」

 

 イータの言葉に、空気がさらに重くなる。ミラージュ・アギトは本体だけになったはずなのに、地上から倒すべき敵と、宇宙から撃ってくる敵が同時に存在している。こちらがどちらか一方に集中すれば、もう一方が地上を抉る。分断を好む奴らしい、嫌な詰め方だ。

 

「ツカサ先生、あれを止めないと、地上が狙い撃ちにされます!」

 

「でも、ここでツカサ先生が離れたら、ミラージュ・アギトが……!」

 

 緑谷となのはが、ほとんど同時に言った。二人とも正しい。だからこそ、ここで迷う時間が惜しい。衛星軌道上の相手は、地上から砲撃を撃ち返して届く距離ではない。向こうが次を撃つ前に、誰かがあそこまで行く必要がある。

 

「地上は私達が抑えます。衛星軌道上の敵は、ここからでは届きません」

 

「先生、宇宙の方は任せる。こっちは絶対に持たせる」

 

「ミラージュ・アギトは私達で止めるです。だから行って」

 

 フェイト、はやて、デルタが続けて言い、ゼータは無言のままミラージュ・アギトの逃げ道へ刃を向けた。イータも空を見上げたまま、次弾までの間隔を測っている。

 

「……砲撃までの間隔、短い。次はもっと正確」

 

「宇宙か。今度は随分遠い寄り道だな」

 

 俺はコンプリートフォームを解除し、ディケイドの姿へ戻る。胸に並んでいたカードの光が収まり、マゼンタの装甲が戦場の熱を受けた。ミラージュ・アギトがこちらの動きに反応するが、緑谷と轟が前へ出て、その進路を塞いだ。

 

「ツカサ先生……!」

 

「分かっている。地上は任せた。先生が宇宙まで補習に行ってくる」

 

 俺はライドブッカーからカードを抜き、ディケイドライバーへ差し込んだ。宇宙へ行くなら、この力が一番分かりやすい。弦太朗ほど騒がしくやるつもりはないが、こういう無茶な道にはよく似合う。

 

『KAMEN RIDE!DECADE!』

 

『KAMEN RIDE!FOURZE!』

 

 装甲が白く変わり、フォーゼの宇宙服めいた姿へ切り替わる。全身に空気の流れが通り、地上の戦場とは違う場所へ飛び出す準備が整っていく。俺は軽く肩を回し、空を見上げた。

 

「弦太朗ほど騒がしくはやらないが、宇宙へ行くにはちょうどいい」

 

 次に二枚のカードを切る。地上から宇宙へ向かうなら、機体と発射台が要る。

 

『ATTACK RIDE!MACHINE MASSIGLER!』

 

『ATTACK RIDE!POWERDIZER!』

 

 カード音声とともに、マシンマッシグラーが瓦礫の上を滑るように現れた。続いて巨大なパワーダイザーが地面へ着地し、脚部を大きく広げて射出台形態へ変形していく。金属のアームがマシンマッシグラーを掴み、発射レールが衛星軌道へ向けて角度を調整した。

 

 同時に、空から二本目の照準線が降りてくる。今度はさっきよりも狭く、速く、確実にこちらの発射位置を捉えようとしていた。衛星砲護衛機も、俺が宇宙へ向かう気だと理解したらしい。

 

「ツカサ先生、射線は私達が逸らします!」

 

「発射までの数秒、必ず守ります!」

 

「パワーダイザー周辺、防御陣展開するで!」

 

 なのはの砲撃が照準の端を揺らし、フェイトの雷光がミラージュ・アギトの突進を阻む。はやての防御陣がパワーダイザーを包み、緑谷と轟は本体の前へ立ちはだかった。デルタ、ゼータ、イータ、魔神三人も周囲へ散り、残った攻撃を引き受ける。全員が、俺を宇宙へ送るために道を守っている。

 

「ツカサ先生、絶対に止めてください!」

 

「命令されるまでもない。衛星から人を狙い撃つような奴を、放っておけるか」

 

 俺はマシンマッシグラーへ跨り、ハンドルを握った。パワーダイザーのアームが車体を固定し、背部スラスターが点火する。射出レールに白い光が走り、地上から空へ、空から宇宙へ向かう一直線の道が開いた。

 

 ミラージュ・アギトが最後の妨害を仕掛けようとしたが、緑谷の拳と轟の氷がそれを止める。なのは達の声が背中に重なり、フォーゼの装甲が射出の振動を受け止めた。

 

「さて、宇宙の先に何があるのか。まずはその門番に会いに行くか」

 

 パワーダイザーが最大出力へ達した。次の瞬間、マシンマッシグラーが発射台から撃ち出される。視界が一気に上へ流れ、崩れた街、結界、戦場の光が足元へ遠ざかっていく。地上では仲間達がミラージュ・アギトを抑え、空の先では水色の髪を浮かべた衛星砲護衛機が、巨大なビーム砲をこちらへ向けている。

 

 フォーゼとなった俺は、白い軌跡を引いて空を突き抜けた。宇宙から地上を狙う門番を止めるため、マシンマッシグラーは星空へ向かって一直線に駆け上がっていった。

 

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