悪魔と呼ばれ慣れて 3rd   作:ボルメテウスさん

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投稿時間を間違えたので、遅くなりましたが、どうぞ。


犬と金色の出会い

 夜の街は、静かだった。

 だが、その静けさの中に、デルタは“違和感”を嗅ぎ取った。

 

「……この匂い」

 

 甘い。けれど、食べ物のそれとは違う。油の匂いでも、肉の匂いでもない。空気の奥に、冷たく澄んだ、しかし落ち着かない気配が混じっている。

 

「……光る石」

 

 街灯の届かない路地の端、アスファルトの割れ目に、碧く光る結晶が転がっていた。

 デルタはしゃがみ込み、迷いなく拾い上げる。

 

「……危ない匂い」

 

 石は冷たいのに、内部が騒がしい。まるで何かを待っているように、うずうずと震えている。

 

「こういうの……放っとくと……面倒」

 

 短く言い切り、デルタは石を握った。

 

「……拾う。デルタが持つ」

 

 その背後から、足音が近づく。

 警戒するより先に、デルタは“視線”を感じた。

 

「……その石を、渡してほしい」

 

 振り返ると、金色の髪の少女が立っていた。幼い見た目とは裏腹に、目は真っ直ぐで、迷いがない。

 

 デルタはじっと相手を見た。声は落ち着いている。脅しでも、命令でもない。ただ事実を積み上げるような話し方だった。

 

「冗談じゃないのだから、お願い」

 

「ふーん」

 

 興味なさそうに返しながらも、デルタの意識は別のものに引っ張られていた。

 

「……匂いする」

 

「え?」

 

 少女が一瞬、戸惑う。

 

「揚げ物。肉。あったかい」

 

「……それが、気になるの?」

 

「うん」

 

 デルタの答えは即答だった。

 少女は小さく息を吐く。呆れたようでいて、その目は真剣さを失っていない。

 

「今はそれどころじゃない。状況を理解して」

 

「デルタ、お腹すいた」

 

 少女は一瞬、言葉に詰まったが、すぐに観念したように手提げ袋を差し出した。

 

「……これ、後で食べるつもりだったの」

 

「後で?」

 

「やることが終わったら。ちゃんと回収して、被害が出ないようにしてから」

 

 デルタはその顔を見上げる。

 小さい。けれど、目は大人だった。

 

「……お前良い奴!!

 

「……えっうっうん」

 

 デルタが袋に手を伸ばそうとした、その瞬間だった。

 

「――おっと」

 

 軽い声とともに、横合いから誰かが割り込む。

 肩がぶつかり、袋が揺れ、次の瞬間――。

 

「きゃっ……!」

 

 唐揚げが、地面に落ちた。

 

「……あ」

 

「はは、もう食えねーな」

 

 乾いた笑い声。

 デルタは動かなかった。ただ、視線だけが落ちた唐揚げに向く。

 

「……」

 

「なに、その顔」

 

「……それ」

 

「デルタの」

 

 ゆっくりと顔を上げる。

 

「唐揚げ」

 

「は?知らねーよ」

 

 そして、地面に落ちた唐揚げを見る。

 

 

 デルタの表情が変わる。

 嗅覚が、怒りを拾った。

 

「……ムカつく!デルタの唐揚げを落とさせた!」

 

 顔を上げ、相手を真っ直ぐに見据える。

 

「……敵」

 

「は?」

 

 短く息を吸い、結論を出す。

 

 その場の空気が、張り詰めた。

 

 夜気が一段、冷えた。

 街灯の光が揺らぎ、路地の奥で空気が歪む。デルタは一歩も動かない。ただ、相手を“敵”として認識したその瞬間から、世界の見え方が切り替わっていた。

 

「はは……なんだよその目。睨めばどうにかなると思ってんのか?」

 

 六道は肩をすくめ、両手を広げる。余裕。いや、慢心だ。自分が傷つかないと信じ切っている人間特有の、軽い立ち居振る舞い。

 

「俺は最強なんだって言ってるだろ。触れられない、当たらない、尽きない。努力? 意味ねーよ」

 

 デルタは返事をしない。

 その代わり、足元の唐揚げを一瞥し、ゆっくりと視線を戻す。

 

「……しゃべりすぎ」

 

 次の瞬間、デルタの手にあった“石”――ジュエルシードが、微かに脈動した。

 それを見て、金髪の少女――フェイトは息を呑む。

 

「ちょっと、待って……それ以上は――」

 

「関係ない」

 

 デルタは短く切り捨てる。

 

「デルタの今の気分は最悪」

 

 腰元から取り出されたのは、異形のベルト。

 白金の装甲、ハンドル部分に象られた天使の翼。静かで、しかし確かな圧を放つそれを、デルタは躊躇なく腰に当てた。

 

「……変身」

 

『KERUBIM!』

 

 低く、女性的なシステム音声が夜に響く。

 次いで、拘束を思わせる冷たい間。

 

『ENSLAVEMENT…』

 

 空気が重くなる。

 背後に光が広がり、無数の白い翼が展開する。それらが一斉にデルタを包み込み、羽根が舞った。

 

『EXECUTE UP! EXCLUSION! EXTINCTION! EXTERMINATION! KAMEN RIDER KERUBIM!』

 

 翼が弾け、そこに立っていたのは、白金の装甲に身を包んだ仮面の戦士だった。

 静かで、無機質で、それでいて圧倒的な“存在感”。

 

「……天使?」

 

 六道は一瞬だけ、言葉を失う。

 

「は? なにそれ、ダサ――」

 

「黙れ」

 

 ケルビムの声は低く、感情がないようでいて、確実に“怒り”を孕んでいた。

 

「デルタの唐揚げが、落とされた」

 

 一拍。

 

「理由、十分」

 

 六道は鼻で笑う。

 

「くだらねぇ理由で俺に喧嘩売るのか? いいぜ、どうせ当たら――」

 

 言葉が終わる前に、デルタは踏み込んだ。

 地面が砕け、音が遅れて弾ける。

 

「――っ!?」

 

 六道の視界から、デルタの姿が消える。

 次の瞬間、横合いから叩き込まれた一撃が、展開していたはずの防御を軋ませた。

 

「な、なんだ今の……!」

 

 デルタは構えを崩さない。

 ただ、淡々と告げる。

 

「お前はしゃべる前に殴られる!だから!」

 

デルタはそれと共に、睨むと同時に。

 

「……覚えとけ」

 

 夜の街に、戦闘開始の衝撃音が響いた。

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