悪魔と呼ばれ慣れて 3rd   作:ボルメテウスさん

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旅立ち

シイナの炎は、もう暴走しない。浜辺での特訓を始めた頃は、感情が高ぶるたびに指先から火の粉が散り、イータが設置した計測器を何度も焼き焦がした。怒りでも悲しみでも、強い感情がトリガーになっていたのだ。

 

今は違う。

 

彼女は自分の意思で炎を起こし、自分の意思で炎を消す。右手をかざせば掌に火球が生まれ、指を閉じれば跡形もなく消える。制御は完璧だ。少なくとも、訓練の範囲では。

 

「どう?」

 

シイナが右手を見せながら、俺の顔を覗き込んだ。掌の上で、小さな炎が踊っている。橙色から青へ、そしてまた橙色へ。色の変化まで自在に操れるようになっていた。

 

「悪くない。もう教えることはない」

 

俺はライドブッカーを腰に戻しながら答えた。シイナは一瞬、嬉しそうに笑ったが、すぐにその笑みを引っ込める。彼女の左手で、エンゲージリングが静かに光っている。

 

「でも、セツナはまだ出てこない」

 

シイナの声は、悔しさと寂しさが混ざっていた。

 

二ヶ月の間、彼女は力を高めることだけに集中してきた。炎を制御し、戦い方を覚え、侵略種と渡り合えるだけの力をつけた。そのすべては、セツナともう一度話すためだった。なのに、リングは光るだけで、セツナの声は聞こえない。セツナの意思は、まだ表に出てこない。

 

「力が足りないのかな」

 

「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」

 

俺は正直に答えた。セツナがなぜ表に出てこないのか、理由はわからない。単純にシイナの力がまだ足りないのかもしれないし、セツナ自身が何かの理由で出てこられないのかもしれない。あるいは、もっと別の条件が必要なのか。

 

「わからないなら、調べるしかない」

 

「調べるって、どうやって?」

 

「ここにいても、情報は増えない。侵略種のことも、魔人のことも、転生者のことも、財団Xのことも、何もわかっちゃいない」

 

俺は水平線を見た。海の向こうに、本土がある。瑞穂の主要都市。EXCEEDSの拠点も、どこかにあるはずだ。

 

「旅に出る。島を離れて、本土へ行く。はやてに会えば、何かわかるかもしれない」

 

「はやてさんって、EXCEEDSの総督の?」

 

「ああ。あいつなら、侵略種や魔人について詳しい情報を持っているはずだ。それに、セツナのことも何か知っているかもしれない」

 

シイナはリングを握りしめた。指の隙間から、かすかに光が漏れる。

 

「セツナのことも、調べられるかもしれないんだね」

 

「保証はできない。だが、ここで待っているよりはマシだ」

 

俺はシイナの目を見た。青緑色の瞳が、真っ直ぐに俺を見返す。

 

「お前が決めろ。島を離れるか、ここに残るか」

 

シイナは一瞬だけ、家の方を見た。イータが改築した家。デルタとゼータが待っている家。セツナと二人で暮らしてきた、たった一つの家。

 

「行くよ」

 

彼女の声は、迷っていなかった。

 

「ここで待ってても、何も変わらない。セツナに会うために、もっと強くなるために、あたしは行く」

 

俺は小さく息をついた。ため息というより、笑いに近い。

 

「決まりだな」

 

「うん。でも、ちょっとだけ準備する時間をくれる? 学校にも連絡しなきゃだし、家のことも」

 

「好きにしろ。どうせ俺たちは、いつでも旅の途中だ」

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