岩蛇――地元のハンターたちがそう呼んでいる侵略種だ。硬質化した外皮は文字通り岩のようにごつごつとしていて、全長は優に十メートルを超える。無数の節に分かれた胴体がのたうち、周囲の岩を砕きながら進んでくる。
俺はライドブッカーを構えたまま、あくびを噛み殺した。
「でかいだけだな」
「でかいだけで済ませないでよ!」
シイナが散弾銃を構え直す。彼女の額にはうっすらと汗が浮かんでいる。無理もない。この二ヶ月で中型以下の侵略種とは散々戦ってきたが、このクラスの巨体は初めてだ。
「外皮が硬い。散弾じゃ弾かれるかも」
「なら、関節を狙え。あの節と節の間だ」
俺はライドブッカーを銃形態に切り替え、岩蛇の注意を引くために足元を数発撃った。弾丸は外皮に当たって火花を散らす。効いてはいない。だが、そいつの頭は確かにこっちを向いた。
「シイナ、右から回り込め。俺が正面を――」
言いかけて、俺は口を閉じた。
岩蛇の向こう側、崩れた岩場の先に、人影が見えた。
白いコート。風に揺れる茶色の髪。右手に握られた、杖のような――いや、杖そのものだ。レイジングハート。あれは、なのはのデバイスだ。
「誰かいる! 避難が遅れてるのかも!」
シイナが叫ぶより早く、彼女の足は地面を蹴っていた。散弾銃を背中に回し、岩蛇の側面を駆け抜けようとする。助けるつもりだ。相手が誰かもわからないのに、迷わずに。
俺は動かなかった。いや、動く必要がなかった。
「シイナ、待て」
「待てって、あの人、危ない!」
「あいつは大丈夫だ」
俺の声が聞こえているのかいないのか、シイナは走るのをやめない。だが、彼女が人影に近づくより先に、状況は動いた。
なのはは、レイジングハートを杖だけの状態で、片手で構えていた。
もう片方の手は、コートのポケットに突っ込んだままだ。まるで散歩の途中に、ちょっと邪魔な石ころを見つけた、そんな気軽さで。
「――アクセルシューター」
彼女が呟くのと同時に、杖の先端から桜色の魔力弾が四発、放たれた。
弾丸は一直線に岩蛇の頭部へ飛び、外皮を貫通し、内部で炸裂する。轟音。岩蛇の巨体がのけぞり、ぐらりと傾いだ。続けてなのはは、もう一発――今度はもっと大きな魔力弾を無造作に放つ。
桜色の光線が岩蛇の胴体を真っ直ぐに貫いた。節と節の間、俺がシイナに狙えと言ったのと同じ場所を、正確に。
岩蛇は断末魔の叫びを上げる間もなく、黒い粒子となって霧散した。
シイナが、足を止める。散弾銃を握ったまま、ぽかんと口を開けて、なのはを見つめていた。
「えっ……今の、なに……」
「だから言ったろ。大丈夫だって」
俺はライドブッカーを腰に戻し、歩き出した。シイナはまだ呆然としている。
なのははレイジングハートを下ろし、こっちを見て――笑った。
「ツカサ先生。久しぶり、です」
「久しぶり、か。まあ、そうなるな」
俺は肩をすくめた。
「相変わらず、片手でやることか。あれくらい」