なのははレイジングハートを杖だけの状態に戻し、白いコートのポケットへ手を突っ込んだ。さっきまで十メートル級の侵略種を一方的に粉砕していたとは思えないほど、落ち着いた笑みを浮かべている。
「本当に久しぶりです、ツカサ先生。何ヶ月ぶりでしょうね」
俺は首を傾げた。
何ヶ月?
「ちょっと待て。何ヶ月、だと?」
「え? だって、ツカサ先生がいなくなってから、まだ数ヶ月くらいですよね?」
俺は無言でなのはの顔を見つめた。彼女の目は冗談を言っているようには見えない。本気で数ヶ月だと思っている顔だ。けれど、俺が最後になのはたちと別れたのは、こちらの体感で言えばかなり前のことだ。正確な年数は数えたくないが、少なくとも数年は経っている。
それに、はやての年齢だ。ニュースで見たはやては、二十代半ばに見えた。俺が教えていた頃のはやてはまだ子供だった。数ヶ月で子供が大人になるはずがない。
「おい、なのは。はやては――」
「あっ、ストップ! ストップです、ツカサ先生!」
なのはが急に大声を上げ、両手をばたばたと振った。さっきまでの落ち着いた総督補佐官の顔はどこへやら、どこか慌てた様子で俺の言葉を遮る。
「その話は、あとで! あとでちゃんと説明しますから! 今は、ええと、そう! こちらの方のこととか、いろいろ!」
なのはの視線が、俺の隣に立つシイナへと向いた。シイナは散弾銃を背中に回したまま、きょとんとした顔で俺たちのやり取りを見つめている。いきなり現れた女性が、ツカサ先生と呼び、巨大な侵略種を片手で倒し、今度は慌てふためいている。無理もない。
「えっと…ツカサさん、この人、知り合い?」
「ああ。昔の教え子だ。高町なのは。今はEXCEEDSとやらで教導官をやってるらしい」
「教え子…」
シイナはなのはと俺を交互に見比べた。たぶん、年の頃が近く見えるのに先生と教え子という関係が、うまく飲み込めていないのだろう。
「初めまして。高町なのはです。ツカサ先生には、昔ずいぶんお世話になりました」
なのははシイナに向かって、にこりと笑った。さっきまでの慌てぶりが嘘のような、柔らかくて、でも芯のある笑顔だ。
「久瀬シイナです。海女取島でハンターをやってます」
「シイナさん、ですね。よろしくお願いします」
なのははシイナの背負った対物狙撃銃と腰の散弾銃をちらりと見て、それから左手のエンゲージリングへ視線を止めた。一瞬だけ、彼女の目が真剣なものに変わる。
「シイナさん、ちょっと聞きたいことがあるんですけど」
「なに?」
「シイナさん、よかったらEXCEEDSに来ませんか?」
シイナが目を丸くした。俺も、思わずなのはの横顔を見る。スカウトか。しかも、初対面でいきなり。
「EXCEEDSって、ニュースで見たあの?」
「そうです。国連危険生物調査機関EXCEEDS。侵略種や魔人に対処するための組織です。シイナさんみたいな実力のあるハンターには、ぜひ来てほしい」
なのはの声は真剣だった。彼女は本気でシイナをスカウトしようとしている。