シイナはすぐには返事をしなかった。
なのはの言葉を聞いて、彼女は散弾銃のストラップを指でなぞっている。何かを考えている時の癖だ。二ヶ月の特訓で、嫌というほど見てきた。
「あたし、まだ高校生だし。それに、島のハンターの仕事もあるから」
「学校は通信制に切り替えられます。ハンターの資格も、EXCEEDSなら正式な戦闘員として認定できます。島のことは…ごめんなさい、すぐにどうこうできる話じゃないけど」
なのはは誠実だった。できない約束はしない。できないことはできないと言う。昔からそういう奴だった。
シイナはまだ迷っている。無理もない。ついさっきまで、ただの島のハンターだったんだ。それが突然、国連機関のスカウトだ。誰だって戸惑う。
俺は岩場にもたれたまま、シイナの横顔を見た。
「悩むことはない。お前がこれからやることは、どっちにしろ同じだ」
シイナが顔を上げる。青緑色の瞳が、俺を見た。
「侵略種を倒す。その力を吸収する。お前の炎は、倒した相手の力を取り込んで強くなる。セツナがくれた力だ」
シイナは左手のリングを見つめた。エンゲージリングが、かすかに光っている。
「お前が強くなればなるほど、セツナに近づける。それが、お前の望みだろ」
「…うん」
「なら、一人でやるより、組織にいた方が効率がいい。情報も、支援も、戦う相手にも困らない。EXCEEDSは侵略種と魔人を相手にしてる。お前の力を試すには、ちょうどいい場所だ」
なのはが、俺の顔をじっと見た。先生が生徒をスカウトするのを手伝っているのが、よほど珍しいらしい。
「ツカサ先生、ありがとうございます」
「礼はいい。俺は事実を言っただけだ」
シイナはしばらく黙っていた。指でリングをなぞり、唇を引き結び、何度か小さく息を吸っては吐く。
それから、顔を上げた。
「…わかった。EXCEEDSに入るよ」
「本当ですか!」
なのはの顔がぱっと明るくなる。シイナは少しだけ照れたように笑った。
「うん。ツカサさんの言う通り、一人で戦うより、そっちの方が強くなれそうだし。それに、セツナのことも調べたいから」
「ありがとうございます、シイナさん。こちらこそ、よろしくお願いします」
なのはが右手を差し出す。シイナは一瞬だけその手を見つめてから、自分の手を重ねた。
「こちらこそ。でも、まだわからないことばっかりだから、いろいろ教えてほしい」
「もちろんです。私でよければ、何でも」
二人が握手を交わすのを、俺は壁にもたれたまま眺めていた。なのはは嬉しそうに笑い、シイナはまだ少し緊張した顔をしている。けれど、その目はもう迷っていなかった。
「決まったなら、さっさと行くぞ。いつまでも岩場で立ち話もなんだろ」
俺は壁から背を離し、歩き出した。背後で、なのはとシイナが並んでついてくる。二人分の足音が、山道に小さく響いた。