山道を抜けると、舗装された道路に出た。海沿いの一本道だ。潮風が強く吹きつけて、シイナの髪を乱暴に揺らしている。なのははそんな風も気にせず、軽い足取りで先を歩いていた。
「本部までは、もう少しです。途中でフェイトちゃんも合流する予定で」
「フェイトもこっちにいるのか」
「はい。別の調査を終えて、こっちへ向かってるって連絡がありました」
フェイト・T・ハラオウン。なのはの親友で、同じく俺の教え子だ。最後に会った時はまだ小さかったが、はやてが総督になっているなら、フェイトも当然大人になっているのだろう。時間の流れは世界によって違う。俺が数年と思っていた時間は、彼女たちにとってはもっと長いのか、あるいはもっと短いのか。そのあたりの話は、まだ聞けていない。
道路の先に、一台の車が停まっているのが見えた。白いボディに、EXCEEDSの紋章が描かれている。その脇に立っていたのは、長い金髪を風に揺らす一人の女性だった。
「フェイトちゃん!」
なのはが手を振る。金髪の女性――フェイトが、ゆっくりとこちらを振り返った。黒い執務官の制服に身を包み、手には使い込まれたバルディッシュ。背筋を伸ばした立ち姿は、昔と変わらない。いや、違うな。あの頃よりずっと、誰かを守るための強さを身につけている。
「先生……ツカサ先生、ですか?」
フェイトの声が、風に乗って聞こえた。驚きと、それからかすかな震えが混じっている。
「久しぶりだな、フェイト」
俺が軽く手を上げると、彼女は一瞬息を呑み、それからゆっくりと笑った。昔、俺が教えていた頃に見せていた、小さな笑顔。それが今は、大人の女性の顔に変わっている。
「お久しぶりです、先生。まさか、ここでお会いできるなんて」
「俺もだ。お前が執務官になってるとはな」
「はい。なのはと一緒に、EXCEEDSで働いています」
フェイトはそう言って、シイナの方へ視線を向けた。初めて見る顔を、静かに観察するような目つきだ。
「この子は?」
「久瀬シイナです。海女取島から来ました」
シイナが自分で名乗る。フェイトは小さく頷き、「よろしくお願いします」と丁寧に頭を下げた。
「それで、先生。デルタさんやイータさん達は今、どちらに?」
フェイトが周囲を見回しながら尋ねた。彼女もまた、俺たちの仲間のことをよく知っている。
「今は別行動だ。デルタとゼータとイータは、シイナの家で留守番を頼んである」
「そうですか。また後で、みんなにも会いたいです」
「あいつらも、お前たちの顔を覚えてる。会えば騒ぐだろうな」
俺は少しだけ口元を緩めた。デルタはフェイトのことを気に入っていて、会うたびに「強くなったか」と勝負を挑んでいた。ゼータは無言で観察し、イータは魔力のデータを取ろうとしていた。あの頃はあの頃で、騒がしい毎日だった。
「なのはとフェイトが揃ってるなら、話が早い。本部まで案内しろ」
「はい、車を用意してあります。道中、少しお話しできますね」
なのはが運転席に乗り込み、フェイトが後部座席のドアを開ける。シイナは少し緊張した様子で車に乗り込み、俺はその隣に座った。車が静かに発進すると、窓の外に海が広がる。
「先生、あの時のこと、覚えてますか?」
なのはがハンドルを握りながら、昔話を始めた。
「先生が最初に私たちの前に現れた時のことです。いきなり現れて、『通りすがりの仮面ライダーだ』って」
「ああ、覚えてる。お前たち三人、揃って俺を敵だと思って構えてたな」
「だって、いきなり変身するんですもん」
フェイトが後部座席から笑い声を漏らした。バルディッシュを膝の上に置いたまま、窓の外の海を見ている。
「先生はいつも突然で、いつも無茶で、いつも一人で全部片づけようとするから」
「今も変わらないよ。さっきも岩蛇を一人で相手しようとしてたし」
俺は窓の外を見た。海がキラキラと光っている。
「一人じゃない。シイナがいた」
隣の席で、シイナが少し驚いた顔で俺を見た。言うつもりはなかったが、口から出てしまった。
「それに、俺はいつでも本気で無茶はしてない。加減はしてる」
「先生の加減は信用できません」
フェイトが即座に返す。なのはも大きく頷いた。二人とも、昔からこういうところだけは連携がいい。
車は海岸線を離れ、内陸へと進んでいく。EXCEEDSの本部は、もうすぐだ。