悪魔と呼ばれ慣れて 3rd   作:ボルメテウスさん

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裏側の惨劇

俺は報告書を閉じた。薄いタブレット端末の画面が、指先の動きで暗転する。机の向こうでは、ゼータが静かにこちらの様子を窺っていた。猫の耳が、かすかに動く。

 

「シイナには、この件は伝えない」

 

ゼータは何も言わない。ただ、金色の瞳をわずかに細めて、俺の言葉を待っている。

 

「魔人の存在は知ってる。だが、これは別だ」

 

報告書には、いくつかの案件が並んでいた。魔人の力を使った組織間の抗争と殺害。捕らえた人間を食わせるための人身売買。そして、人肉を提供する違法な店の存在。どれも、単なる侵略種災害とは質が違う。人間が、人間を喰うために動いている。それも、組織的に。計画的に。

 

「シイナは、侵略種を相手に戦ってきた」

 

俺は背もたれに体重を預けながら、天井を見上げた。薄暗い部屋に、空調の低い唸りだけが響いている。

 

「あいつにとっての敵は、生活圏を奪う生物だ。駆除すべき相手だが、憎む相手じゃない。それが、あいつのハンターとしての芯だ」

 

「でも」

 

ゼータが口を開いた。声は相変わらず淡々としているが、その中にほんの少しだけ、疑問が滲んでいる。

 

「シイナはもう、自分の力と魔人の力が似ているって気づいてる。なら、隠さなくても」

 

「わかってるから、だ」

 

俺はゼータの言葉を遮った。

 

「あいつは自分の炎が、倒した侵略種の力を吸収して強くなるって知ってる。それがあのヤクザどもと原理が似ているってことも、気づいているかもしれない。だからこそ、見せるわけにはいかない」

 

俺の脳裏に、シイナの左手が浮かぶ。薬指のエンゲージリング。セツナが残した炎の欠片。あいつは今、妹と再会するために、その力と向き合っている。

 

そこに、同じような力を持った人間たちが、人を喰らい、売り買いし、料理にして出す店があるなどと、どうして伝えられる。

 

「同じ力を、別の人間がどう使っているか。それを知って、シイナは自分の力をどう思う」

 

ゼータは答えない。彼女にも、わかっているのだろう。

 

「あいつは、あの力でセツナを守ろうとした。セツナも、その力でシイナを助けた。どちらも、誰かを守るためだ。それがあいつたち姉妹の力の使い方だ」

 

俺は机の上に置いたライドブッカーを見つめた。柄に手を伸ばす。金属の冷たさが、指先に伝わる。

 

「食い物にするために人を狩る連中と、同じ土俵に立たせるな。情報は必要な分だけ渡す。それでいい」

 

「…わかった」

 

ゼータは短く返事をすると、静かに立ち上がった。尾が一度だけ揺れて、それから動かなくなる。

 

「報告書には載せるの?」

 

「ああ。はやてたちには伝える。裏で動く組織の全体像を掴むには、こいつらの動きを追うのが近道だ」

 

「危ない橋を渡るなら、私も行く」

 

「最初からそのつもりだ」

 

俺は短く息を吐き、立ち上がった。窓の外では、夜がまだ深い。街の明かりは、ここからは見えない。見えるのは、闇だけだ。

 

「行くぞ。夜の街が、まだ俺たちを待ってる」

 

俺はライドブッカーを腰に戻し、部屋を出ようとした。ゼータが無言で後ろに続く。

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