空が、埋まった。
地面を這う幼体はなのはと俺の掃討で数を減らしていた。だが、油断していた。湖面から湧き上がる胞子の霧の中から、羽化した個体が現れたのだ。トンボに似た形の侵略種。透明な翅が朝日を反射してぎらぎらと輝き、長い腹部の先には毒々しい針が突き出している。そいつらが、まっすぐこちらへ降下してくる。
「なのは、下だ!」
俺は叫ぶより早く、なのはの背中を押して回避させた。直後、さっきまで彼女がいた空間を毒針が貫く。地上の幼体より速い。それに、足場がない。ディケイドのままでは、跳べど届かない相手だ。
「空中か。面倒な奴らだ」
俺はライドブッカーを腰に戻し、新しいカードを指に挟んだ。空を飛ぶ鳥を落とすには、やはり空へ行くのが一番だ。
「変身」
『KAMEN RIDE GAIM!』
オレンジ色の装甲が全身を包む。鎧のようなメイスプレート、頭上の戦国武将を模した前立。そして背中から展開するオレンジ色の果実型アームズ。鎧武だ。着地と同時に地面を蹴り、一気に跳躍する。
空へ。
だが、これだけじゃ足りない。奴らは速い。追いつくだけじゃダメだ。群れごと落とす。
「来い!」
背中のアームズから大剣を引き抜き、鎧の側面に装着されたロックシードを回す。
『ICHIGO ARMS!』
シャリリリリン!という軽やかな音色と共に、オレンジの装甲が弾け飛び、鮮やかな赤へと塗り替わる。イチゴアームズ。空中で着替えるという奇妙な行為だが、今はその不可思議な機構に感謝する。肩にイチゴ型のアームズが乗り、手には無双セイバーと、新たに呼び出されたイチゴクナイが握られる。
可愛らしい名前と裏腹に、この武器は凶悪だ。
迫りくる羽蟲の群れ。俺は無双セイバーを振りかぶり、最後のカードをドライバーへ叩き込んだ。
『FINAL ATTACK RIDE G-G-G-GAIM!』
足元にスイカ状のエネルギーが展開するが、俺はそれを蹴り捨てて加速する。無双セイバーの刀身が赤熱し、斬撃の軌跡が半円を描く。
「喰らえ!」
振り下ろされた刃から、無数のイチゴクナイが迸った。赤い閃光の雨。それが空中に広がる羽蟲の群れへ降り注ぐ。貫かれた個体が次々と爆散し、黒い粒子の花火が朝空に咲く。逃げ場はない。上からも横からも、鋭いクナイが襲い掛かるのだ。
「これで、全滅だ」
俺はイチゴアームズのまま着地し、無双セイバーを肩に担いだ。周囲の空は、もう羽蟲の翅の光で埋め尽くされてはいない。
空はクリアになった。だが、地上はまだ地獄だ。
イチゴアームズのまま着地すると、足元で幼体たちがわらわらと湧き出している。キモい。踏み潰す感触も嫌だが、放っておけばシイナたちの足元へ流れていく。
「掃除はまだ続くか」
俺は無双セイバーを消し、ドライバーのカードを入れ替えた。空の敵を落とすなら鎧武、地面を薙ぎ払うなら別の奴だ。
『KAMEN RIDE BUILD!』
赤と青の装甲が左右非対称に合体する。仮面ライダービルド。物理法論を無視したその姿は、いつ見ても奇抜だ。だが、今はこの「実験」が欲しい。
更にカードを重ねる。
『FORM RIDE HAWKGATLING!』
右半身に鷹の羽、左半身に重厚なガトリング砲。ホークガトリングフォームだ。
背中に展開したバトルスケールクローグが翼のように広がり、俺の身体を宙へ浮かび上がらせる。
「いい眺めだ」
湖面を見下ろす。原種の巨体と、それに群がる無数の幼体。さっき羽蟲を落とした時より、ずっといい見晴らしだ。
翼を翻し、幼体の群れが密集しているエリアの真上へ滑空する。ガトリングガンの回転音が、低いうなりを上げていた。指先一つで、弾丸の雨が降る。だが、ばら撒くだけじゃ味気ない。それに、周囲に飛び火しても困る。
「ここで終わりだ」
最後のカードをドライバーへ叩き込む。
『FINAL ATTACK RIDE B-B-B-BUILD!』
ホークガトリングフォームのガトリング砲が唸りを上げ、高速回転を始める。同時に、ターゲットとなった幼体の群れの周囲に、幾何学的なパイプ状の光が展開した。
ビルドの創る特殊なフィールド。進化計算によって導き出された、絶対の殺戮領域。
光のパイプが球形に閉じ、中の敵を外の世界から隔離する。逃げ場はない。
「フルバースだ」
引き金を引いた。
ドドドドドドドド!
ガトリング砲が火を噴く。百発、いやそれ以上の弾丸が、瞬きする間に撃ち込まれる。フィールドの中で弾丸が跳弾し、反響し、逃げ場を失った幼体たちをミンチにしていく。
断末魔すら聞こえない。ただ、ガトリングの轟音と、フィールドの内側で何かが砕ける音だけが響く。
発砲が止まると同時に、フィールドが霧散した。
後に残ったのは、黒い粒子となって消えゆく幼体の残骸だけ。百発の弾丸が内側から尽くを貫いたのだ。綺麗な仕事だ。
「さて、雑魚処理は終わりだ」
俺は翼を畳み、原種のいる湖面へと降下していく。次は、あのデカい木だ。