湖面に着地すると同時に、ビルドの装甲を解除した。
変身を維持したままでは、次の一手が遅れる。物理法則を弄ぶ実験は、ここまでだ。
水面を揺らす爆音。フェイトのバルディッシュが金色の雷を叩きつけ、デルタが原種の太い根を爪で引き裂いている。だが、状況は芳しくない。
原種の傷口が、泡のようにブクブクと再生しているのが見えた。斬られては塞がり、焼かれては盛り返す。ジリ貅だ。こいつの生命力は、まるで沼地だ。力を込めれば込めるほど、沈んでいく。
「くそっ、全然効いてない!」
シイナの叫びが聞こえる。彼女の左手から放たれた炎の矢が、原種の樹皮に突き刺さる。だが、それはあくまで「針」だ。突き刺さるだけで、幹そのものを崩すには至らない。熱量が足りないんじゃない。広がりがないんだ。
俺はドライバーへ手を伸ばした。
言葉で教えるのは簡単だ。「針じゃなくて、羽のように広げろ」と。
だが、今のシイナに余裕はない。頭で理解するより、体で覚えさせる方が早い。
「オーズ」
呟きと共にカードを装填する。
『KAMEN RIDE OOO!』
赤と緑と黄の装甲が重なり合う。タカ・トラ・バッタのコンボ。だが、これじゃ足りない。
空を覆うような、圧倒的な「広がり」が必要だ。
更にカードを重ねる。
『FORM RIDE OOO TAJADOR!』
装甲が弾け飛び、赤と金の羽衣へと塗り替わる。
タジャドルコンボ。天空を統べる鳥の王。
背中に巨大な翼が展開する。孔雀の羽のように、あるいは燃え盛る陽炎のように、鮮やかな赤と金の羽が夜空に広がった。
「ほら、見ろシイナ!」
俺は原種の頭上へ跳躍した。
背中の羽が、一本一本が独立した矢のように震える。そこに魔力と炎を込める。俺の持てるすべての熱量を、この翼に預ける。
「行けぇッ!」
翼を大きく広げ、一気に叩きつけた。
数百の火弾と光弾が、まるで散弾のように空から降り注ぐ。一発一発が小さくても、数が揃えば暴風になる。原種の幹、枝、根、そのすべてを赤い豪雨が叩き潰していく。
「えっ…?」
シイナが驚きの声を上げたのがわかった。彼女は見ている。俺の放った火弾の軌跡を。ただ一点を狙う針ではなく、空間ごと埋め尽くす弾幕を。
「なるほど…そういうことか!」
シイナの顔が、ぱっと明るくなった。
彼女は左手を掲げた。エンゲージリングが、タジャドルの翼に呼応するように激しく輝く。
「あたしにも…できる!」
シイナの炎が変わった。
これまでの鋭い槍のような炎じゃない。花火が弾けるように、あるいは鳥が羽を広げるように、彼女の炎が空中に散らばった。無数の火の粉が、まるで意志を持った生き物のように舞い、そして一斉に原種へと降り注ぐ。
俺の火弾と、シイナの炎弾。
二つの豪雨が、原種を完全に包み込んだ。
「あぁぁぁぁぁッ!」
原種が悲鳴のような音を立てた。再生が追いつかない。焼かれる速度が、傷を塞ぐ速度を圧倒している。幹がひび割れ、枝が崩れ落ち、根が湖底から引き抜かれていく。
「これで終わりだ!」
シイナが叫ぶ。
赤い炎が、巨木を灰に変えていく。黒い粒子が、朝日に照らされながら空へと舞い上がっていった。