「魔人狩りの情報も、ある程度集まった」
ゼータは記憶媒体をしまい込み、代わりに小型の端末を取り出した。画面の明かりが、彼女の猫のような瞳を淡く照らす。俺は黙って、その画面を覗き込んだ。
「判明してる戦闘員は五人。全員、黒い制服で統一してる。お揃いの衣装で動いてるってことは、少なくとも趣味の集団じゃない。ある程度の統率と信念がある」
「五人の内訳は」
「名前までは不明。ただ、見た目は十代後半から二十代前半。若い。それと」ゼータは少しだけ間を置いた。「顔の下半分を、マスクで覆ってる。目元しか見えない。例の鬼の面みたいなのも含めて、素性を隠すことを徹底してる」
あの夜の少女が脳裏をよぎる。鬼の面に黒い制服。手にした刀。そして、俺たちを攻撃せずに去った背中。
「個人を特定されないためのマスクか。それとも、組織としての烙印か」
「わからない。ただ、装備も統一されてる。支給されたものなら、背後にかなり大きな資金力がある」
「物資を調達してる組織がいるってことか」
「それと、行動パターン」
ゼータの指が画面をなぞる。地図が表示され、いくつかの地点が赤く点灯した。どれも裏社会の人間が出入りする場所だ。クラブ、倉庫、路地裏、廃墟。共通点は、すべて魔人か魔人化薬に関係する場所だということ。
「彼らは、魔人化薬を売る連中や、魔人になりかけてる人間を狙って襲ってる。実際に、いくつかの売買現場が壊滅してる。生存者は少ない。あったとしても、表沙汰にできない連中ばかり」
「つまり、魔人狩りは魔人と魔人薬を扱う連中を、片っ端から狩ってるってことか」
「そう。少なくとも、今のところは」
俺は腕を組み、通りに並ぶ古びた倉庫の屋根を見やった。夜風が運河の匂いを運んでくる。あの女の刃の冴えは本物だった。魔人化したヤクザどもを一匹残らず屠った動きには、迷いが微塵もなかった。裏社会の人間を「掃除」する動きとしては、あまりに洗練されている。
だが、あいつは俺たちを見逃した。
「ゼータ。魔人狩りが一般人を襲った例は?」俺は短く尋ねた。ゼータは、すぐに首を振る。
「ない。確認できてる範囲では、一般人の被害はゼロ。巻き添えすら避けてる。徹底してる。彼らは、標的以外には手を出さない」
「関係のない市民を巻き込まない。面白いな」
俺は数日前の光景を思い返す。あの少女が、月明かりの下で魔人どもを切り捨てた後、俺と一瞬だけ視線を交わした。あの時、確信に近いものがあった。あれは敵意ではなかった。ただ、値踏みするような目。俺たちが敵かどうかを見定める、暗殺者の目だ。
「裏社会の掃除屋。魔人という脅威を排除する者。本人たちは、正義のつもりかもしれない」俺はぽつりと言った。
「その通りだと思う。実際、彼らが動いた地域では、薬の流通も減ってる。裏社会でも、魔人化薬に手を出す連中がビビり始めてる」
「だが、連中が必ずしも味方とは限らない。目的が同じでも、やり方が違う。それに、あの手合いはいつか敵味方の線引きを間違える」
「ツカサらしい見解」
ゼータが、わずかに口元を緩めた。彼女は俺の言葉に、呆れているようでいて、どこか安心した顔をしている。
「私も、魔人狩りにはもう少し踏み込む。ただ、接触は早まれる。今は、彼らが何のために魔人を狩って、どこから来てるのかを探る」彼女はそう言って、端末をしまう。
「接触するなら、俺も同席しろ。五人全員と事を構えるなら、人数が要る」
「はいはい」
ゼータの返事が夜風に混ざる。俺は、夜の向こう側に滲むネオンの光を睨んだ。
魔人を狩る者たち。その黒い制服と、冷たく光る刃の残像が、しばらく頭から離れなかった。