ブレイラウザーだけじゃ足りない。
俺は左手を腰へ伸ばしライドブッカーを抜いた。剣形態。二本の剣が、雷光の下で異なる色の光を弾く。一本は青白く一本はマゼンタに。だが今は色なんてどうでもいい。切れるか切れないか、それだけだ。
原種の腹部が目前にある。鱗の一枚一枚が盾だ。数千の盾が重なり合い俺の進路を塞いでいる。だが盾は一枚ずつなら砕ける。
「おらおらおらッ!」
右のブレイラウザーが鱗を砕く。左のライドブッカーが砕けた隙間へ滑り込み下の層を裂く。二刀が交互に走るたびに鱗が弾け飛び金属の破片が夜空へ散る。一振りごとに一層剥がれる。玉ねぎの皮を剥くみたいに俺は原種の腹を削り続けた。
原種が暴れた。
巨体がのけぞり腹が波打つ。俺は身体をひねりその振動をかわす。だが離れない。足場なんてない空中だ。離れれば落ちる。食らいつくしかない。オーバードーブレストの翅を広げ姿勢を維持しながら剣を振り続ける。
ガギンッ ギリリッ
鱗が硬くなってきた。表層の薄い一枚はもう剥がした。今は深層の密度の高い鱗とやり合っている。手応えが重い。ブレイラウザーの刃が鱗の表面を滑る音が嫌に鋭い。
だかまだだ。
俺は左手のライドブッカーを逆手に持ち替えた。斬る方向を変える。縦じゃなく横へ。鱗の重なり目に沿って刃を走らせる。ブレイラウザーで押さえ込みライドブッカーで滑らせる。二本の剣が別々の動きをして同じ場所を攻める。鱗の継ぎ目が悲鳴みたいな音を立てて裂けた。
隙間ができた。
鱗の下から湿った膜が覗く。薄い。あの下に浮遊器官がある。だがまだ膜一枚分の距離が遠い。ここから先は鱗の密度がさらに上がる。今のままでは削るのに時間がかかりすぎる。原種がいつまでも大人しくしているわけがない。もう尾が俺を払いに来ているのが視界の端で見える。
「時間がないなら一撃で終わらせる」
俺はカードを引き抜いた。指先がカードの縁を弾く。冷たいカードの表面に刻まれた文字が雷光に照らされて浮かび上がる。
『FINAL ATTACK RIDE B-B-B-BLADE!』
ブレイラウザーの刀身が光り始めた。青白い光が刃の縁を伝い柄を通り腕へと走る。全身の毛穴が開くような感覚。エネルギーが剣に集まっていく。それだけじゃない。左手のライドブッカーも反応した。マゼンタの光が刃を包み二本の剣がそれぞれ異なる色の光を帯びる。
俺は二本の剣を同時に振り上げた。
右のブレイラウザーが雷の光を纏い下へ降り注ぐ。左のライドブッカーがマゼンタの閃光を引いて逆方向へ走る。二つの刃が原種の腹に十字を刻む。
切り裂いた感触が両腕に伝わる。
硬い鱗が悲鳴を上げて弾け飛ぶ。膜が裂ける。その下の組織が露わになる。赤い筋繊維が束になり脈動している。一つの大きな切れ目が原種の腹部に走った。深い。鱗の層を三枚抜いて膜を割りその下まで到達している。
原種が咆哮した。
初めて聞くあいつの声だった。水中で叫ぶような濁った咆哮。腹の傷口から水が噴き出す。浮遊器官の一部が損傷したのか巨体がぐらりと傾いた。
「今だ」
俺は二本の剣を握りしめたまま傷口を見据える。大きな切れ目ができた。ここへシイナの炎を送り込めば内部から焼ける。あとはシイナに炎を届かせることだけだ。
上空の雷雲が渦を巻く。原種の咆哮が遠くの山に反響している。俺は傷口の奥へ視線を走らせた。脈動する赤い組織の奥に白い塊が見える。あれが浮遊器官か。まだ確証はない。だがこの深さまで裂いたのは初めてだ。
「シイナ今だ。この傷口へ撃て」
俺は叫んだ。地上へ向かって。まだシイナの炎は届く距離じゃないかもしれない。だがこの傷口を逃せば再生される。時間がない。
風が装甲の隙間を削る。原種の巨体がまだ傾いている。浮遊器官の損傷で姿勢が崩れている。今しかない。