地上から光が上がった。
橙色の閃光が夜の闇を裂いて一直線に駆け上がってくる。速い。それでいて正確だ。俺が作った傷口へ吸い込まれるように。
「あたしにもできる!」
風に乗ってシイナの声が聞こえた気がした。
弾丸は一発じゃない。二発三発と続く。まるで機銃掃射みたいに。だがその軌跡は俺の知っているものに酷似していた。
かつて俺がオーズ・タジャドルコンボで放った孔雀の羽のように広げた火弾。それを彼女は自分の炎で再現している。針のように一点を穿つだけでなく空間ごと埋め尽くす弾幕。二ヶ月の特訓と実戦で彼女は俺の技を飲み込み自分のものへ変えていた。
ドォォォォォォン!
原種の体内で音がした。
外から聞こえるほどの爆音。傷口から橙色の光が溢れ出す。燃えている。外皮じゃない。内側だ。浮遊器官も筋繊維も水分もすべてが一瞬にして沸騰し蒸発し爆ぜている。
原種が咆哮しようとした。だが声は出ない。喉の奥もすでに炎に焼かれている。
巨体が空中で痙攣し鱗が一斉に剥離し始める。今度は攻撃じゃない。ただ身体が崩壊しているだけだ。
俺は慌ててブレイド・ジャックフォームの翅を翻し退避した。爆風が装甲を叩く。熱気がマスクの隙間から入り込み肌を焦がす。
「終わったな」
俺は上空で旋回しながら黒い粒子となって崩れ落ちる原種を見下ろした。
雷雲が晴れていく。あいつが消えたことで雲を維持する力も失われたのかそれともただの偶然か。
月光が戻ってくる。青白い光が地上を照らす。
俺はゆっくりと高度を下げた。
着地して変身を解除する。
草むらに足がついた瞬間膝がかすかに笑った。ジャックフォームの反動だ。だが悪くない痛みだ。
「ツカサさん!」
シイナが駆け寄ってきた。肩で息をしている。左手のリングがまだ熱を帯びて光っている。
「やった…やったよツカサさん!」
彼女の顔には泥と汗とそれから満面の笑みが張り付いていた。
「あたしやった! あの技使えた!」
「見た。悪くなかった。俺より素直な弾道だった」
「えへへ…」
シイナは照れくさそうに鼻の頭をこすった。
ゼータとイータも近づいてくる。ゼータは無言で俺の顔を覗き込み「怪我なし」と短く確認した。イータは端末を操作しながら「解析データ取得完了。面白かった」とふにゃりと笑った。
上空ではもう原種の姿はどこにもない。
ただ静かな月夜が広がっているだけだ。
最後の原種を倒した。
だが終わりじゃない。蔵木製薬も魔人狩りもまだ動いている。
俺はシイナの左手を見た。リングの光がようやく落ち着きを取り戻し始めている。
「戻るぞ。報告がある」
「よしっ!」
シイナが元気よく頷く。
俺はもう一度空を見上げてから背を向けた。
夜風が冷たい。だが悪くない夜だ。
俺はシイナの左手を見た。リングの光がようやく落ち着きを取り戻し始めている。
「戻るぞ。報告がある」
「よしっ!」
シイナが元気よく頷く。
俺はもう一度空を見上げてから背を向けた。
夜風が冷たい。だが悪くない夜だ。
空を見上げる。さっきまで雷雲が渦巻いていた場所は今はただの月明かりに戻っていた。鱗弾でボロボロになった地面に、黒い粒子がまだらに残っている。やがて風に流されて消えていった。
「イータ、データは」
「取得済み。原種の飛行パターン、鱗の剥離周期放電の閾値。ぜんぶ記録した」
イータが端末を胸に抱えたままふにゃりと笑う。眠そうな顔のくせに、こういう時だけ声に熱が混じる。
「家に帰ったら解析する。今日はいい日」
「そうかよ」
俺は腰のライドブッカーを外し、肩を回した。変身を解いた身体は案外軽い。それでも疲れはある。今回の戦闘はいつもより長かった。
「ツカサさん、あたし、家に帰ったら何食べたい?」
シイナが隣に並んでくる。髪の先が焦げている。服も泥だらけだ。それでも笑ってる。
「お前がつくるのか」
「え、つくるよ? 今日くらい」
「じゃあ米と味噌汁。あとは適当に」
「適当にって」
「うまければいい」
シイナは口を尖らせて、でも嬉しそうに鼻を鳴らした。ゼータがその横をするりと歩く。足音はない。金色の尾だけが月明かりに揺れていた。
「原種、これで全部だね」
「ああ。国内確認分はな」
「でも、まだ残ってる」ゼータが静かに言う。「蔵木製薬と、魔人狩り」
「わかってる」
俺は首に提げたカメラへ手をやる。夜の海が、波打ち際で細く光っている。シャッターを切るつもりはなかったが気づけば構えていた。
――カシャ。
「この世界を、一枚ずつ撮っておくのも悪くないだろ」
「微妙にブレてるんじゃない?」
「気のせいだ」
ゼータが呆れたようにため息をついた。
月明かりの下四人分の影が道に伸びている。先はまだ見えない。でも、今夜くらいはゆっくり帰ってもいいだろう。