悪魔と呼ばれ慣れて 3rd   作:ボルメテウスさん

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DNAの謎

「すごい…! すごいよツカサ、これ見て!」

 

イータの声が、静かな研究室に弾けた。

いつもの眠そうな声じゃない。一オクターブくらい高くなっていて、端末を叩く指先が羽が生えたみたいに動いている。白衣の袖がまくり上げられ、乱れた髪も気にしていない。完全にスイッチが入っている。

 

俺は彼女の背中越しにモニターを覗き込んだ。

画面には原種の切片から抽出したDNA配列が、色分けされたグラフになって踊っている。イータが解剖を終えたサンプルは、すでに何層ものスライスになって培養皿に並んでいた。あの空の暴れ者も、今はただの検体だ。

 

「この配列、見覚えがあるでしょ?」

イータが振り返り、満面の笑みで俺を見上げた。瞳が爛々と光っている。研究成果の山を見つけた探検家の目だ。

 

「見覚え、か」

俺は短く呟いた。

ある。見覚えがあるどころじゃない。

俺の身体の中には、歴代ライダーたちの記憶と力がある。だがそれと同時に、彼らと戦った怪人たちの因子も沈殿している。ディケイドの力は、光と影の両方を内包する。その事実は、この場にいるイータとゼータ、そしてデルタだけが知っている極秘事項だ。

 

「俺の中の、これか」

俺は自分の胸元を軽く叩いた。

 

「そう! 怪人のDNA! それも、特定の種類じゃない。いろんな怪人の配列が断片的に混ざってる。で、この原種の配列と照らし合わせたら…」

イータは端末を俺の目の前へ突き出した。

「一致率、高いよ。偶然じゃないレベル」

 

俺は眉を寄せた。

背後でゼータが、音もなく近づいてきた気配がした。彼女もこの会話の重さを理解している。

 

「ツカサ、つまりどういうこと?」

ゼータが低く問う。

 

「侵略種のDNAと、俺の中の怪人のDNAが似ているってことだ」

俺は静かに答えた。

「奴らはただの生物じゃない。俺たちが知ってる怪人、あの世界の影の住人と同じ系譜の何かが、この世界の侵略種の中に流れてる」

 

イータが首を激しく縦に振る。

「DNAレベルで干渉してる。魔人化薬がどうやって作られてるか、知りたかったでしょ? 答えはこっち側にあったのかも。侵略種の因子を利用して、人体を怪人へ近づけてる。だから魔人は、ただの変異体じゃなくて、怪人としての性質を持つんだよ」

 

俺は唇を噛んだ。

重い話だ。だがまだ推測の域を出ない。だが一つだけ、確実に言えることがある。

 

「これから先、俺たちが戦うことになる相手の中には、ただの侵略種じゃないのが現れる可能性がある」

俺は二人の顔を見た。

「怪人だ。俺の知ってる、あるいは俺の知らない、この世界特有の怪人が、侵略種の皮を被って現れるかもしれない」

 

ゼータの金色の瞳が細められた。

「魔人狩りが敏感なのも納得いくね。彼らは感覚で気づいてるのかも。狩るべきは侵略種だけじゃないって」

 

「シイナには言わないで」

俺は念を押した。

「あいつは自分の力と向き合ってる。これ以上、種明かしはいらない。それに、これは俺たちの問題だ」

 

「了解」

「データも極秘フォルダへ。パスはツカサの生年月日の逆順ね」

「バレやすいパスにするな」

 

俺はもう一度モニターを見た。

赤と青のグラフが交差している。光と影。ライダーと怪人。

この世界の敵は、外から来た生物だけじゃないのかもしれない。俺たちが連れてきた影が、この世界の闇と共振しているのか。それとも最初から、ここにいたのか。

 

「行きがけの駄賃が、高すぎるな」

俺は低く呟き、研究室を出た。

ドアの向こうでは、シイナが楽しそうに夕飯の支度をしている匂いがした。

平和な日常の匂い。だがその下には、確実に牙が隠されている。

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