「すごい…! すごいよツカサ、これ見て!」
イータの声が、静かな研究室に弾けた。
いつもの眠そうな声じゃない。一オクターブくらい高くなっていて、端末を叩く指先が羽が生えたみたいに動いている。白衣の袖がまくり上げられ、乱れた髪も気にしていない。完全にスイッチが入っている。
俺は彼女の背中越しにモニターを覗き込んだ。
画面には原種の切片から抽出したDNA配列が、色分けされたグラフになって踊っている。イータが解剖を終えたサンプルは、すでに何層ものスライスになって培養皿に並んでいた。あの空の暴れ者も、今はただの検体だ。
「この配列、見覚えがあるでしょ?」
イータが振り返り、満面の笑みで俺を見上げた。瞳が爛々と光っている。研究成果の山を見つけた探検家の目だ。
「見覚え、か」
俺は短く呟いた。
ある。見覚えがあるどころじゃない。
俺の身体の中には、歴代ライダーたちの記憶と力がある。だがそれと同時に、彼らと戦った怪人たちの因子も沈殿している。ディケイドの力は、光と影の両方を内包する。その事実は、この場にいるイータとゼータ、そしてデルタだけが知っている極秘事項だ。
「俺の中の、これか」
俺は自分の胸元を軽く叩いた。
「そう! 怪人のDNA! それも、特定の種類じゃない。いろんな怪人の配列が断片的に混ざってる。で、この原種の配列と照らし合わせたら…」
イータは端末を俺の目の前へ突き出した。
「一致率、高いよ。偶然じゃないレベル」
俺は眉を寄せた。
背後でゼータが、音もなく近づいてきた気配がした。彼女もこの会話の重さを理解している。
「ツカサ、つまりどういうこと?」
ゼータが低く問う。
「侵略種のDNAと、俺の中の怪人のDNAが似ているってことだ」
俺は静かに答えた。
「奴らはただの生物じゃない。俺たちが知ってる怪人、あの世界の影の住人と同じ系譜の何かが、この世界の侵略種の中に流れてる」
イータが首を激しく縦に振る。
「DNAレベルで干渉してる。魔人化薬がどうやって作られてるか、知りたかったでしょ? 答えはこっち側にあったのかも。侵略種の因子を利用して、人体を怪人へ近づけてる。だから魔人は、ただの変異体じゃなくて、怪人としての性質を持つんだよ」
俺は唇を噛んだ。
重い話だ。だがまだ推測の域を出ない。だが一つだけ、確実に言えることがある。
「これから先、俺たちが戦うことになる相手の中には、ただの侵略種じゃないのが現れる可能性がある」
俺は二人の顔を見た。
「怪人だ。俺の知ってる、あるいは俺の知らない、この世界特有の怪人が、侵略種の皮を被って現れるかもしれない」
ゼータの金色の瞳が細められた。
「魔人狩りが敏感なのも納得いくね。彼らは感覚で気づいてるのかも。狩るべきは侵略種だけじゃないって」
「シイナには言わないで」
俺は念を押した。
「あいつは自分の力と向き合ってる。これ以上、種明かしはいらない。それに、これは俺たちの問題だ」
「了解」
「データも極秘フォルダへ。パスはツカサの生年月日の逆順ね」
「バレやすいパスにするな」
俺はもう一度モニターを見た。
赤と青のグラフが交差している。光と影。ライダーと怪人。
この世界の敵は、外から来た生物だけじゃないのかもしれない。俺たちが連れてきた影が、この世界の闇と共振しているのか。それとも最初から、ここにいたのか。
「行きがけの駄賃が、高すぎるな」
俺は低く呟き、研究室を出た。
ドアの向こうでは、シイナが楽しそうに夕飯の支度をしている匂いがした。
平和な日常の匂い。だがその下には、確実に牙が隠されている。