悪魔と呼ばれ慣れて 3rd   作:ボルメテウスさん

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白狐の銃

チェーンが四本目を放とうとした、その時だった。

 

路地の入り口から、足音が聞こえた。

 

走る音だ。迷いのない、一直線にこちらへ向かってくる足音。俺の背後の壁が、その足音の振動でかすかに共鳴した。

 

誰だ。シイナか。いや、足音が軽すぎる。それにシイナは家にいるはずだ。

 

影が、煙の切れ間から飛び込んできた。

 

人間だ。小柄な影が、路地の入り口を蹴って中へ入ってくる。息を切らしていない。走る速度から一切の減速もなく、そのまま懐へカードを取り出していた。

 

見覚えのあるカード。白い縁取りに、狐の仮面が描かれたカード。

 

俺の手が止まった。いや、俺の手だけじゃない。ガンナイトメアのチェーンが空中で一瞬止まった。リボルバグスターのガトリング回転音が一段落とした。トリガー・ドーパントの照準光が、新しい影へ流れた。

 

三体の怪人の注意が、一斉にそちらへ向いた。

 

 

そのまま、カードをディケイドライバーへ装填する。

 

 

 KAMEN RIDE 

 

「変身」

 

 左右のハンドルを押し込み、ドライバーを閉じる。

 

┃┃┃GEATS ┃┃┃

 

光が弾けた。

 

 SET 

 

 

無数のカード状の光が、影の周囲に展開し、身体を次々と通過していく。人間の服の輪郭が消え、黒い素体が浮かび上がる。ギーツのエントリーフォームに相当する漆黒の身体。だが変化はそこで止まらなかった。

 

DUAL ON

 

背後に赤い光が凝縮した。巨大な狐の紋章が空中に浮かび、その輪郭が歪んで分離する。白い狐面が、黒い素体の頭部を一周するように回転しながら近づき、正面から装着された。赤い複眼が鋭く発光し、仮面ライダーギーツの頭部が完成する。

 

GET READY FOR

 

 

空中へ白い装甲が展開した。胸部と両腕へ装着されるマグナム装甲。同時に赤いブースト装甲が腰から両脚へ巻きつく。最後に白いマフラーが首元から伸び、背後へなびた。

 

BOOSTMAGNUM

 

変身が完了した瞬間、着地。

 

 READY FIGHT 

 

 

音がしなかった。着地というより、接地。衝撃を殺した着地。白と朱の装甲が、路地の薄暗がりの中で鋭く浮かび上がる

 

「さて、ここからがハイライトだな」

 

リボルアームのガトリングが反応した。回転音が再び立ち上がり、白い装甲めがけて弾幕を叩き込み、走った。

 

走ったというより、飛んだ。赤いブースト装甲が床を蹴った瞬間、爆発的な加速が視界を白く焼いた。ガトリングの弾丸が、ギーツの後ろの壁と地面を削る。だが弾幕は追いつかない。紙一重。いや、紙の隙間もない。弾丸と弾丸の間を縫うように、三体の怪人の間を駆け抜けた。

 

その進路が、ガンナイトメアへ向いた。

 

踏み込み。加速。白いマグナム装甲の右拳が、デルタの右足に巻きついたチェーンへ叩きつけられた。金属が砕ける音。チェーンのリンクが弾け飛び、拘束が解ける。続いて左腕のチェーンも、左手が掴んで引き千切った。デルタの身体から、四本のチェーンが同時に離れた。

 

「っ…!」

 

デルタが体勢を取り戻す。自由になった両手を地面につけ、四つん這いから低い姿勢へ切り替える。牙を剥いたまま、だが目は俺の方を見ていない。すでに次の敵を探している。

 

俺はこの一瞬の隙を見た。

 

三体の視線が、全てギーツへ向いている。ガンナイトメアの弾倉が回転し、新しい弾種へ切り替わろうとしている。リボルバグスターのガトリングが追尾を試みているが、ギーツの加速に照準が追いついていない。トリガー・ドーパントの単眼だけがまだ赤い光を点滅させているが、狙う対象が定まっていない。

 

今だ。

 

「ゼータ、右」

 

短く告げると同時に、俺はライドブッカーを剣形態へ切り替えた。グリップを回し、銃口から刃へ。ゼータは俺の右側へ回り込んだ。音はない。ただ気配が、俺の右肩の後ろへ移動した。

 

体勢が変わった。さっきまでは壁を背にして囲まれていた。だが今は、包囲網の一角が崩れている。ガンナイトメアがデルタの拘束に気を取られ、リボルバグスターがギーツを追い、トリガー・ドーパントが標的を失っている。三体の連携に、初めて隙ができた。

 

三体の間を駆け抜けた後、路地の反対側へ着地した。白いマフラーが、夜風に揺れている。

 

四体が、三体を囲む形になった。

 

俺とゼータが行き止まり側から。デルタが左。俺が路地の入り口側。三体の怪人は、四方向から視線を向けられていることに気づいた。ガンナイトメアの弾倉が回転を止めた。リボルバグスターのガトリングが、照準の対象を切り替えようとしている。トリガー・ドーパントの単眼が、赤い光を点滅させたまま、四つの標的の間を行き来している。

 

連携が崩れた。だが三体はまだ倒れていない。視線だけで互いの位置を確認し、隊列を組み直そうとしている。

 

俺はライドブッカーを構え直した。刃の先に、暗緑色のガンナイトメアの弾倉が映っている。

 

「イータ」

 

『聞こえてる。戦況、変わった。四方囲み成立』

 

イータの声に、少しだけ安堵が混じった。だがすぐに真面目な声に戻る。

 

『三体の波形、まだ安定してる。油断しないで』

 

油断するつもりはない。

 

デルタが低く唸り、重心を前に下げた。ゼータは右側の壁際で、爪を覗かせたまま動かない。ギーツは路地の入り口で、白い装甲の拳を握り直した。

 

四対三。

 

悪くない。だが、まだ終わりじゃない。

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