本来ならばツカサが変身する部分が、書いている際に間違えて、謎の第三者が現れました。
皆様にはご迷惑をかけました。
加速が世界を引き伸ばす。
ブースト装甲が路面を蹴るたび、視界の両端が白い線になって流れる。夜の路地裏の壁が、看板が、避難標識が、全て横へ飛んでいく。残るのは正面だけ。三体の怪人が並ぶ、この路地の奥だけが、速度についてこられる。
マグナムシューター40Xを構える。白い銃身の先に、暗緑色の弾倉が回る音が聞こえる。ガンナイトメアだ。弾種を切り替えようとしている。何を来るかはわからない。だが撃たせる必要はない。
先に撃つ。
トリガーを引く。マグナム弾がガンナイトメアの左腕銃口へ着弾した。火花が散り、弾倉の回転が一瞬止まる。撃たせなければいい。あいつの武器は弾倉だ。回転を止められれば弾種は切り替わらない。切り替わらなければ、次の弾が出てこない。
ガンナイトメアの左腕が衝撃で跳ね上がる。体勢が崩れた。暗緑色の甲殻に亀裂が走ったわけではない。だが照準が逸れた。それで十分だ。
次。
ブーストの加速を維持したまま、身体を九十度回す。壁を蹴って方向転換。視界の右端にメタリックブルーの装甲が見える。トリガー・ドーパント。単眼の赤い光が俺を追っている。照準が合う前に、もう一発。
マグナムシューター40Xの銃口をトリガー・ドーパントの単眼へ向ける。撃つ。青いエネルギー弾が単眼の表面で弾け、赤い照準光が一瞬だけ途切れる。狙撃の邪魔をさせただけだ。倒す必要はない。今は撃たせないことが、全てだ。
着地。路面を蹴って再び加速。ブーストの残燃料が視界の端でカウントダウンしている。残り時間は短い。だが十分だ。
「ツカサ、右」
ゼータの声が右肩の後ろから来た。音はない。気配だけが俺の進路を修正する。右へ半歩。そこをリボルバグスターのガトリング弾が横切った。ゼータが読んでいた。あいつの位置からガトリングの射線が見えていたのだろう。
俺は射線を避けた勢いのまま、リボルバグスターの正面へ踏み込んだ。マグナムシューター40Xを点射する。三発。右肩のガトリング、左肩のロケット砲、右腕のリボルアーム。三つの発射口めがけて、順番に撃ち込む。着弾の衝撃でガトリングの回転が鈍る。ロケット砲の発射筒がへこむ。リボルアームの銃口がわずかに逸れる。
倒せていない。あいつの装甲は厚い。マグナム弾の威力では貫通できない。だが発射口へ直撃させれば、一瞬だけ機能が止まる。その一瞬があればいい。
三体の銃口が、全て俺へ向いている。
だが撃てていない。
ガンナイトメアの弾倉はまだ回転を取り戻していない。トリガー・ドーパントの照準は俺の加速に追いついていない。リボルバグスターのガトリングは発射口の衝撃で回転が不安定になっている。三体とも武器を構えているのに、引いていない。
先手を取り続ければ、撃たれない。
ブーストの燃料が残り少ない。だが、俺の役目はここまでだ。あとはこいつらに任せる。
「デルタ、今」
短く告げる。言葉はいらない。あいつの耳は、俺の声より先に戦況を読んでいるはずだ。
デルタが動いた。
壁を蹴って飛び出したのは、ガンナイトメアの右側面だ。俺の牽制で弾倉の回転が止まっている間に、死角へ回り込んだ。爪が暗緑色の甲殻へ走る。引き裂く音。ガンナイトメアが体勢を崩し、チェーンを放とうとするが、右肘の銃撃機構がデルタの爪で押さえ込まれる。近接距離では、銃より爪が速い。
ゼータが動いたのは同時だった。俺の右側から、壁の縁を蹴って屋根の低い部分へ跳ぶ。高い位置から、トリガー・ドーパントの背面へ降下する。猫の着地。音がない。だが爪は、トリガー・ドーパントの背部装甲へ深く食い込んだ。単眼が俺からゼータへ振り向く。照準が移る。その隙に、俺はもう一発、マグナムシューター40Xを単眼へ撃ち込んだ。
照準光が消える。
リボルバグスターだけが残った。ガトリングの回転を取り戻そうとしている。だが遅い。俺が正面から牽制し、デルタがガンナイトメアを抑え、ゼータがトリガー・ドーパントの背後を取った。残るはお前だけだ。
リボルバグスターの右腕、リボルアームが俺の方へ向く。残ったロケット砲が発射筒を展開しようとする。だがその発射口はさっき俺がへこませたものだ。展開が不完全なまま、弾頭が筒内で詰まる音がした。
詰まった弾は出ない。
「ゼータ」
右側の屋根の上から、ゼータが降下した。リボルバグスターの右肩、ガトリングガンの基部へ爪を突き立てる。金属がきしむ音。ガトリングの銃身が角度を変えられなくなる。固定された。撃とうとしても、照準が動かない。
俺は加速した。残りのブースト燃料を全て噴かす。一瞬の加速。リボルバグスターの正面へ入り込む。マグナムシューター40Xを、リボルアームの根本へ押し当てる。ゼロ距離。
撃つ。
衝撃。リボルアームの関節がへこみ、右腕が動かなくなる。重厚な装甲は砕けていない。だが腕が下がった。銃口が地面を向く。
三体の銃口が、全て下を向いた。
ガンナイトメアの左腕はデルタに抑え込まれ、トリガー・ドーパントの単眼は俺とゼータの連続攻撃で照準を失い、リボルバグスターの右腕は関節を潰されて動かない。三体ともまだ立っている。だが、撃てない。
俺はブーストの燃料が切れるのを感じた。加速が消え、通常速度に戻る。足元が少し重い。だが、問題はない。
デルタがガンナイトメアの背中に乗り、爪を甲殻に食い込ませている。ゼータがリボルバグスターのガトリング基部にしがみつき、稼働範囲を封じている。俺はマグナムシューター40Xを構えたまま、三体の動きを監視する。
「イータ」
『反応、低下中。三体の波形が揺らいでる。武器の機能停止が影響してる』
武器を止められれば、三体はただの硬い的だ。銃を持てない怪人は、牙を失った獣と同じだ。だがまだ倒してはいない。倒す必要があるかどうかは、別の判断だ。
俺はマグナムシューター40Xの銃口を、リボルバグスターの単眼へ向けた。三体の中で一番装甲が厚い。だが、目はどうだ。
デルタの唸り声が、ガンナイトメアの背中から聞こえる。楽しそうだ。強敵の上に乗って、爪を食い込ませている状況を楽しんでいる。ゼータは無言だ。だが爪の力が、リボルバグスターのガトリング基部を締め上げている音が聞こえる。
三体の怪人は、動かなくなった。
視線だけが動いている。互いの位置を確認している。だが、武器が動かない以上、連携の選択肢がない。視線で伝えられる情報はあっても、それを実行する手段がない。
「まだ動くか?」
俺は三体に問いかけた。答えは返ってこない。返ってくるはずがない。こいつらは言葉を持たない。持っていたとしても、俺に聞く耳はない。
マグナムシューター40Xのトリガーに、指をかける。あと一発。それで終わりにできるかはわからない。だが、試す価値はある。
三体の銃口が下を向いている。だが、この膠着は長くは続かない。
ガンナイトメアの弾倉は再び回転を始めようとしているし、リボルバグスターの損傷したガトリングも予備の駆動系で動こうとしている。俺たちが押さえ込んでいる間だけの仮初めの静寂だ。それに、いつ他の連中が来るかわからない。
決めるなら、今だ。
俺は左手でカードを抜いた。
迷いはない。今の俺が持っている中で、最も早く、最も確実にこの場を終わらせる手札。
「離れろ」
声に出さず、視線で伝える。デルタが俺の目を見て、牙をガンナイトメアの甲殻から引き抜く。同時にゼータもリボルバグスターの肩から跳躍して、壁の上へ着地した。二人とも、俺が次に何をするかを理解している。言葉はいらない。
俺はカードをネオディケイドライバーへ装填した。
ハンドルが閉じられる。
脚部の装甲にエネルギーが奔流のように流れ込んでいく。足元のアスファルトが熱と圧力でひび割れた。
三体の怪人が同時に顔を上げた。動けないはずのリボルバグスターが、無理やりガトリングを回そうとする音がする。だが遅い。
俺は跳んだ。
低い跳躍ではない。路地の壁を蹴り、反対の壁を蹴り、垂直に上昇する。ブーストの加速が重力をねじ伏せる。視界の下に、三体の怪人が小さく見える。暗緑色、青、重厚な軍装。三つの影が重なって見える位置で、俺は空中で身体を反転させた。
上から下への急降下。ブーストの全推力を、右足の踵へ集中させる。
白い光の線が、夜の路地を縦に割った。
最初の着弾は、リボルバグスターの肩だった。
一番硬い部分。だが、ブーストの加速を乗せたキックは、装甲の硬度を無視して内部へ衝撃を伝える。リボルバグスターの巨体が地面にめり込む。その衝撃が横へ波及し、隣にいたトリガー・ドーパントの単眼が砕ける。さらに隣のガンナイトメアの弾倉が、回転したまま軸を折られて弾け飛ぶ。
一撃で三体。
逃げ場のない檻の中で、上から落とした楔が、すべてを貫いた。
着地。
衝撃波が路地の壁を震わせ、砕けたアスファルトの破片が舞い上がる。俺は膝をつかず、ブーストの残りエネルギーを使って衝撃を殺した。
背後で、爆発が三つ重なって響いた。
振り返ると、三体の怪人が崩れ落ちていた。リボルバグスターの装甲が剥がれ落ち、内部のメカニズムが露出して火花を散らしている。トリガー・ドーパントの単眼は完全に砕け、青い装甲に亀裂が走っている。ガンナイトメアの弾倉は弾け飛び、胴体に穴が開いて煙を上げている。
倒れた。完璧に。
『反応、消滅。三体とも機能停止』
イータの声が通信から流れた。安堵が混じっている。
俺は深く息を吐き、ギーツの変身を解除した。白と朱の装甲が光の粒子になって消え、いつもの服に戻る。汗が背中を伝った。ブーストのGは、そう甘くない。
「終わったか」
壁の上からゼータが軽やかに降りてきた。爪に血はついていない。代わりに金属の削り屑が光っている。
「あいつら、硬かったね」
「ああ。だが、もう動かない」
デルタが瓦礫の山から這い出してきた。服は煤で汚れているが、怪我はない様子だ。尻尾を一度振って、倒れた怪人たちを鼻で嗅いだ。
「匂い、消えてく。死んだみたい」
死んだのか、機能停止したのか。こいつらがただの機械なのか、それとも生物的な部分を持っていたのかはわからない。だが、もう動かないことだけは確かだ。
「ツカサ」
イータの通信が再び入った。
「現場のデータ、全部取得した。解析には時間かかるけど、あの三体の構造、同じじゃない」
「同じじゃない?」
「基本フレームは似てる。でも武装と出力が全然違う。量産型って言っても、ただのコピーじゃないよ」
俺は眉を寄せた。
量産型だが、コピーじゃない。つまり、用途に合わせて調整されているということか。あの連携は偶然じゃない。誰かが作り、誰かが調整し、誰かがここへ送り込んだ。
「魔人狩りの連中が敏感なのも納得だ」
俺は低く呟いた。
「ただの侵略種じゃない。何かが裏で糸を引いてる」
路地の奥から風が吹いた。爆発の熱を含んだ風が、俺の頬を撫でる。夜はまだ深い。だが、この路地の戦いは終わった。