大橙丸が肉を断つ感触を残して、敵の腕が床へ落ちた。三本目だ。切るたびに黒い粘液が刃を伝い、手甲を汚す。だが、落ちた先端は床で転がる間もなく細い筋を伸ばし、本体へ引き戻されていく。
「切断された部分が本体へ戻るたびに、再生速度が上がっています」
イータの声は冷静だった。冷静すぎて、内容の悪さが遅れて耳に入る。
つまり、斬れば斬るほど速くなる。
戻った腕は一つに戻らなかった。三本の細い刃へ分裂し、扇状に開いて迫る。同時に反対側の腕が幅広い槌へ膨れ上がった。挟み込みだ。
大橙丸で刃を弾く。二本は弾いたが三本目が肩の装甲を掠め、金属音の下に湿った音が混じった。槌は正面から来る。受けた。重い。だがオレンジアームズの装甲は耐えた。衝撃で足が滑る。横へ抜けようとして、足首に何かが絡んだ。
床を這っていた脚部だ。瓦礫の陰から這い上がり、俺の足首へ絡みついている。粘液の糸が装甲の隙間へ食い込もうとする。
大橙丸を下ろし、拘束を断ち切った。粘液が飛び散り、切断された部分がまた本体へ這っていく。
距離を取る。二歩、三歩。敵は追ってこない。追う必要がない。四肢を広げている。床、壁、天井。すべてへ伸びている。
「包囲されています。四肢を円状に展開して、鎧武を囲い込もうとしています」
ゼータの声。俺の背後、崩れた隔壁の向こうから。視線を向けなくても分かる。敵の全身の眼が俺を追っている。十数個。それぞれが別の角度で俺の位置を捉え、次の攻撃のために合わせ鏡のように視線を重ねている。
接近戦では防ぎきれない。斬撃は再生を遅らせるだけだ。切断すれば戻る。戻れば速くなる。このまま斬り合いを続ければ、俺が消耗する前に敵が速くなる。
外殻を剥がす。その下の流動体を露出させる。そのためには、再生の前にまとめて吹き飛ばす必要がある。一箇所ずつ斬っていては間に合わない。広範囲を同時に叩き、装甲と内部の肉体を一緒に削る。多方向からの攻撃を受け止められるだけの防御力と、それを上回る範囲攻撃。
答えは一つだ。
「だったら」
大橙丸を一度下げた。敵の眼が一斉に動く。隙を探している。だが、俺は急がない。
「戻る前にまとめて吹き飛ばす」
カードを取り出した。フォームライド。オレンジの果実ではない。もっと重い、もっと厚い鎧の絵。カチドキアームズ。
「こいつには、こっちの鎧が似合いそうだ」
ディケイドライバーへ装填する。
音声が施設に響いた。
橙色の光が赤い非常灯を押し退けた。頭上に巨大な果実型の装甲が現れる。幾重にも展開し、全身へ降りてくる。胸部。肩。腰。重厚な装甲が順番に重なり、押し固められるように形成されていく。背中の旗指物が左右へ広がり、空気を打った。
変身中、触手が伸びてきた。壁を這っていた一本が、隙を突こうと装甲の形成途中へ食らいかかる。だが、重なり合う装甲に弾かれた。カチドキアームズの表面は、オレンジアームズとは硬さが違う。触手が滑り、弾かれた面に粘液の跡が残るだけだった。
変身が完了した。
足元に残っていた拘束の糸を力強く引き千切る。粘液が千切れ、床へ落ちて蠢く。本体へ戻ろうとする前に踏み潰した。
重い。動くたびに装甲の質量が感じられる。だが、悪くない。この重さは、受け止めるための重さだ。
火縄大橙DJ銃が出現する。手に馴染む重さ。大橙丸とは違う、射程と範囲を持った武器。
メガヘクス型原種の全身の眼が再び動いた。十数個の瞳孔が、一斉に銃口へ向いた。
「さあ」
俺は引き金へ指をかけた。
「陣を崩すぞ」