会議室の照明は半分ほど落とされていた。壁一面のモニターに、先ほどの戦闘記録が映し出されている。カチドキアームズの大剣がメガヘクス型原種を真っ二つにした瞬間で映像が止まっている。断面から溢れる黒い組織。割れた眼球。剥がれ落ちた金属装甲。
なのはが口を開いた。静かな声だった。怒りでも恐怖でもない。確認するための声だ。
「ツカサ先生。あれが、本物のメガヘクスなんですか?」
俺はモニターの前に立ったまま、首を横に振った。
「似ている。だが、本物じゃない」
リモコンを操作して、解析画像を切り替える。メガヘクス型原種の装甲。亀裂から覗く無数の眼球。装甲の内側に広がる流動性の生体組織。三枚の画像を順番に表示する。
「本物のメガヘクスは、機械生命体だ。滅亡を避けるために自らを機械化した種族で、惑星や生命を取り込んで拡大する。戦闘ユニットは四肢を武器へ変え、得た記憶やデータから別の個体を作り出す能力も持っていた」
フェイトが手元の端末を操作する手を止めた。赤い瞳がモニターと俺を交互に見ている。
「つまり、今回の個体は……本物のメガヘクスと繋がっていたんですか? 集合意識とか、ネットワークとか」
「その痕跡はない」
俺は首を振った。
「外部ネットワークへの接続も、集合意識への参加も確認されていない。中身は原種だった。金属装甲と武装機能だけが後から移植されている。本物の能力を完全には再現できていなかった」
なのはが眉をひそめた。映像の中の敵——無数の眼がそれぞれ別の方向を見ている。あれだけの攻撃を受けても、完全ではなかった。
「でも、完全じゃなくてもあれだけの被害が出たんですよね」
「ああ」
「なら、次は」
はやてが口を挟んだ。指揮官の声だ。落ち着いているが、先を見ている。
「今回が試作段階やったとしたら、次は再生能力とか情報複製まで再現されるかもしれへん。そうなったら、今度こそ本物と同じことができるようになる」
「否定はしない」
俺はモニターを消した。会議室が暗くなる。非常灯の赤い光だけが、ドアの隙間から漏れている。
「別世界の怪人や兵器を模した原種が、今後も現れる可能性はある。外見だけで能力を判断するな。原種本来の性質と組み合わさった時、何が起きるか分からない」
はやてが腕を組んだ。視線はもうモニターには向いていない。作戦の組み立てに入っている。
「財団Xの投資記録が残されていた件。あれはどう見る?」
「関与は確定だ。だが、実験を直接行った組織は別に存在する可能性が高い。財団Xは金と技術を流しただけかもしれない。主導者も目的も、まだ見えていない」
なのはが立ち上がった。フェイトも続く。はやては座ったまま、頷いた。
「情報共有と警戒態勢の強化。すぐに動く」
「頼む」
三人が会議室を出ていく。扉が閉まる音が響いて、俺は一人になった。
モニターの電源は切った。だが目を閉じても残っている。あの無数の眼。それぞれが別の方向を見て、それでも全てが俺を捉えていた。あの眼はメガヘクスのものじゃない。原種のものだ。だが、その原種にメガヘクスの鎧を着せた誰かがいる。
「今回のは、昔の怪物を着せられただけだ」
誰もいない会議室で、呟いた。
「次も同じ程度とは限らない」
赤い非常灯の光が、壁に揺れている。