悪魔と呼ばれ慣れて 3rd   作:ボルメテウスさん

287 / 288
電撃進行

踏み出した瞬間、ドラス型原種の両腕が火を噴いた。

 

機関銃の銃身が唸りを上げ、弾丸が壁となって迫る。ビリーザロッドを構え、電流の膜を張るように振るった。弾丸が黄色い電弧に触れ、火花を散らして軌道を逸れる。だが、全てを防げるわけではない。何発かは装甲の表面を掠め、金色の塗装に傷が走る。

 

問題は弾丸そのものじゃない。

 

逸れた弾丸が床へ落ちる。砕けた金属片が瓦礫の間に散る。それらが一瞬でドラス型原種の足元へ吸い寄せられていく。銀色の液体が床を這い、弾丸の残骸を巻き込んで溶かし、本体へと引き戻す。さっき攻撃で入った右肩の亀裂が、吸い込まれた金属で塞がっていくのが見えた。

 

撃てば撃つほど、あいつの材料を提供していることになる。

 

「シイナ」

 

物陰から声をかける。シイナは重機の陰で膝をつき、発砲のタイミングを計ろうとしていた。

 

「周囲を無闇に壊すな。砕けた瓦礫が全部あいつの餌になる」

 

「じゃあどうしろって——」

 

「瓦礫を遠ざけろ。紅蓮で燃やして飛ばせ。あいつの周りに吸収できる金属を置くな」

 

シイナは一瞬だけ眉をひそめたが、すぐに頷いた。銃を腰へ戻し、両手を前に出す。紅蓮の炎が掌から弾け、蛇のように延びてドラス型原種の足元に散らばった鉄骨の束を舐め尽くした。鉄骨が赤く発光し、溶けて弾け飛ぶ。飛んだ金属片が施設の奥へ、敵から離れた方へ散らばった。

 

吸収材料の遮断。これで少しは時間が稼げる。

 

「ツカサさん」

 

シイナの声が炎の爆音の間から届いた。

 

「あいつのこと知ってるのか。ドラスだっけ」

 

「あいつそのものじゃない。だが、悪いところまでよく似ている」

 

俺はビリーザロッドを構え直した。電流が刀身を走り、バチバチという音が周囲の銃声に混じる。

 

「元のドラスは、壊されても周囲の物質を吸収して再生する。だが、高圧電流には弱かった」

 

「電流?」

 

「電子分解を起こす。吸収した物質の結合が電撃で崩れる。おそらく、こいつも同じはずだ」

 

まだ確定じゃない。だが、試す価値はある。

 

ネオディケイドライバーへ手を添える。腰のベルトはそのままだ。フォーゼの能力を使うには、フォーゼドライバーのシステムが必要だが、実物を出す必要はない。

 

左手で腰のケータッチ21を展開した。

 

画面が光る。そこに投影されたのは、フォーゼドライバーの操作画面だった。四つのスイッチソケットが並び、それぞれに対応するモジュールのアイコンが表示されている。実物のフォーゼドライバーやアストロスイッチは手元に出ない。ケータッチ21の画面上で操作するだけだ。

 

画面上のレーダースイッチをタップした。

 

『RADAR ON』

 

左腕のモジュールベースメントが唸りを上げ、レーダーモジュールが展開する。放出された電磁波がドラス型原種の全身を走査する。俺の目の前のケータッチ21の画面に、敵の内部構造が映し出された。

 

吸収された物質の流れ。エネルギーの経路。それらが一本の太い流れとなって、敵の胸部の一点へ集まっている。

 

「シイナ。お前の感知で、あいつの中心に何か感じるか」

 

シイナが炎を操りながら一瞬だけ敵へ意識を向けた。

 

「……奥だ。胸の奥。何か固いのが脈打ってる」

 

「位置は見えた。胸部の銀色の球体だ。あそこが核だ」

 

ケータッチ21の画面を見る。エネルギーの流れが核へ向かって収束している。周囲の物質を吸収し、核で変換し、身体へ再構築している。核を壊せば止まる。だが、核は深い。装甲も生体組織も、再生の層が何重にも重なっている。

 

正面から核を狙っても、途中で再生されてしまう。

 

なら、再生の経路を断つ。

 

画面上のレーダースイッチを解除し、同じソケットへ別のスイッチを割り当てた。ウインチスイッチ。同時に、左脚のソケットへジャイアントフットスイッチをセットする。

 

『WINCH ON』

『GIANT FOOT ON』

 

左脚のモジュールベースが展開し、巨大な足裏型のモジュールが実体化する。同時に、左腕のモジュールが切り替わり、ワイヤー付きのフックが射出機へと変わる。

 

「シイナ。瓦礫の封鎖を続けろ。隙を作る」

 

「分かってる」

 

シイナの紅蓮が再び燃え上がり、ドラス型原種の周囲に散らばる金属片を焼き払う。敵が吸収材料を求めて腕を伸ばすが、周囲には何もない。炎で焼かれた金属は溶け、原型を留めない。

 

今だ。

 

左脚のジャイアントフットを踏み込んだ。重力が増幅され、ドラス型原種の足元の床が砕ける。敵の身体が地面へ押さえつけられた。重力制御。自由に動き回ることで攻撃範囲を広げるあいつの動きを、ここで封じる。

 

敵が抵抗する。全身の目玉が一斉に俺を向き、機関銃の銃身がこちらへ回転する。だが、踏みつけた重力で身体が固定され、照準が定まらない。弾丸が空を切り、壁へ当たるだけだ。

 

両腕の機関銃。銃身の根元、生体組織と金属が接続している部分に、亀裂が見える。発射の反動で広がった傷。そこが、外殻と内部の接続点だ。

 

俺は左腕のウインチモジュールを構えた。

 

フックが撃ち出される。鋭い金属音と共に、ワイヤーの先端がドラス型原種の右腕の機関銃の亀裂へ食い込んだ。続けて左腕にももう一撃。フックが銃身の隙間を捉え、ワイヤーが張られる。

 

二本のワイヤーが、俺の左腕と敵の両腕を繋いだ。

 

ビリーザロッドを構える。電流が刀身から溢れ、ワイヤーへと流れ込む。

 

「食らえ」

 

ビリーザロッドをワイヤーに叩きつけた。

 

黄色い電流がワイヤーを伝い、ドラス型原種の両腕へ流れ込む。電流が銃身を走り、生体組織を焼き、内部の金属結合を破壊していく。

 

ライダー電気ショック。

 

ドラス型原種の両腕が内側から光り出した。銀色の液体が沸き立ち、金属が分解されていく。電子分解。吸収して構築した物質の結合が、高圧電流によって崩壊していく。機関銃の銃身が形を失い、黒い組織が灰になって剥がれ落ちる。再生が始まらない。吸収機能も、再構築機能も、電流で止まった。

 

両腕が崩れ落ちた。

 

胸部の装甲が、両腕の崩壊に連動してひび割れる。剥がれ落ちた金属片の奥から、銀色の球体が露わになった。脈動している。周囲の瓦礫を引き寄せようと、銀色の液体が球体から溢れ出すが、シイナの紅蓮が周囲を封鎖している。吸収材料がない。

 

球体の周囲に、無数の目玉が集まっていく。残された身体の組織から、眼球が核を守るように集まり、一つの塊になりつつある。俺を見ている。シイナを見ている。恐怖ではない。生存本能だ。

 

元のドラスと同じだ。核さえ残っていれば再生する。だが、核が露出している今が隙だ。

 

俺はワイヤーを引き戻した。ウインチのフックが外れ、ワイヤーが右腕へ巻き取られる。ビリーザロッドを構える。電流が再び刀身へ集まり、黄色い光が暗い施設内を照らす。

 

「シイナ」

 

「ん」

 

「瓦礫の封鎖を続けてくれ。核を壊す」

 

シイナは頷き、紅蓮の炎を維持したまま一歩下がった。敵の周りに金属片一つ落ちていない。再生の材料がない。

 

俺はビリーザロッドを構え直し、露出した銀色のコアへ狙いを定めた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。