ビリーザロッドの電流がコアへ届く寸前だった。
床が震えた。足裏ではなく、もっと広範囲に。瓦礫の隙間に挟まった鉄片が細かく振動し、金属同士が擦れる音が施設内に広がる。
停止していたはずのドラス型原種が、動いていた。
両腕の機関銃は崩れ落ちたままだ。電子分解で灰になった銃身が床に散っている。だが、胸部の露出したコアの周囲で、銀色の液体が再び脈動を始めていた。弱い。さっきまでのような力強い鼓動ではない。だが確かに動いている。
そして、その脈動に呼応するように、床に散った金属片が震え始めた。
遠い。コアから五メートル以上離れた場所にある鉄骨の破片が、震えながら床の上を滑り始める。銀色の液体が目に見えない糸を引いているわけではない。引力だ。コアが周囲の金属を引き寄せている。
「シイナ!」
声が出た時にはもうシイナが動いていた。紅蓮の炎が掌から弾け、コアへ向かって滑っていく鉄骨の破片を舐める。金属が赤く発光し、弾け飛んで施設の奥へ散る。
だが、一方向を封じただけでは足りなかった。
左側。崩れた重機の残骸から、ボルトとナットの塊が転がり出した。右側。壁に埋まっていた配線管が引き抜かれ、蛇のようにのたうちながらコアへ這っていく。シイナの紅蓮が届かない角度から、金属が集まり始めている。
コアの周囲に、新たな装甲が形成されつつあった。薄い。まだ鉄骨の形を留めたままの粗雑な殻だ。だが、あと数秒あればコアを覆い隠す厚さになる。
俺はビリーザロッドを引いた。
突撃を中断した。今コアへ飛び込んでも、途中で吸い寄せられた金属に阻まれる。電流で分解できるのは触れた部分だけだ。飛んでくる金属片を全部分解しながら近づく時間はない。
「シイナ。あいつを金属のない場所へ追い込め」
「どうやって」
「瓦礫を焼いて道を作れ。あいつが通れる幅でいい。金属がない場所へ誘導する」
シイナは一瞬だけ俺を見た。迷っているのではない。方法を計算している。そして頷いた。
紅蓮の炎が床を這った。瓦礫の山を焼き払い、鉄骨を溶かし、金属片の散らばった床面を赤熱させる。溶けた金属が冷えて固まる前に、シイナはさらに奥へ炎を伸ばした。一本の道。金属が焼き払われ、床のコンクリートだけが剥き出しになった退路。
俺はネオディケイドライバーへ手を伸ばした。
エレキステイツのカードを引き抜き、次のカードを装填する。青と赤。磁極の色。
『FORM RIDE! FOURZE MAGNET STATES!』
金色と黒の装甲が割れた。
重い。エレキステイツよりも重い。だが重心は低い。肩に二門の砲身が実体化し、左右の重量バランスが整う。胸の装甲が厚くなり、腰のベルトが重く腰へ沈む。全身のラインが青と赤に分かれ、磁極の色が装甲を塗り分けていく。
マグネットステイツ。
ケータッチ21の画面を展開する。フォーゼドライバーの操作画面が投影され、NマグネットスイッチとSマグネットスイッチが起動状態で表示されている。
画面上のNマグネットスイッチをタップした。
右肩の砲身が唸りを上げ、磁力が放たれる。狙いはドラス型原種そのものではない。コアへ向かって這っていく金属片だ。
力が効いた。
コアへ吸い寄せられていた配線管が空中で止まった。磁力と引力の綱引き。配線管が空中で震え、二つの力の間で揺れる。
もう一方の手でSマグネットスイッチを操作する。左肩の砲身から逆極の磁力を放ち、配線管をコアから引き剥がす方向へ力を加えた。
配線管が弾かれた。コアから離れ、施設の壁へ叩きつけられる。
効く。金属には効く。
だが、ドラス型原種は黥っていない。装甲に残っていた金属を伸ばしたのだ。右肩の砕けた装甲から、細い金属の触手が何本も伸びる。それらが床の瓦礫を拾い上げ、コアへ運ぼうとする。
「シイナ。腕から伸びてる」
「見えてる」
シイナの紅蓮が横から入った。金属の触手を焼き、溶かし、断ち切る。一本、二本、三本。吸収経路が一つずつ潰れていく。
敵が残った左手を振り上げた。機関銃は崩れているが、手首から先の金属装甲がまだ残っている。それを槌のように振り回し、シイナの炎を掃おうとする。
俺は両肩のマグネットキャノンを向けた。
右肩のNマグネットキャノン。左肩のSマグネットキャノン。二門の砲身が敵の左腕へ照準を合わせる。
撃った。
エネルギー弾だ。金属弾ではない。磁力を圧縮した純粋なエネルギーの塊が、青と赤の光を引きながら飛ぶ。左腕の金属装甲に命中し、衝撃で腕が弾かれる。金属片が飛び散るが、磁力がそれらを空中で捕まえ、コアから遠ざける方向へ弾き飛ばす。
新たな吸収材料にはならない。
敵が吠えた。全身の目玉が一斉に俺を向く。磁力で金属を奪われ、紅蓮で経路を焼かれ、キャノンで腕を弾かれる。再生材料がない。
だが、コアはまだ生きている。
敵は最後の手段に出た。残った金属装甲をすべてコアへ集めた。両肩、胸部、腰の装甲が内側へ崩れるように縮み、コアの周囲へ集積していく。一枚の厚い盾になるつもりだ。
俺は磁力の向きを変えた。
NとSを同極へ切り替える。ケータッチ21の画面でスイッチを操作し、両肩から同極の磁力を放つ。同極は反発する。コアへ集まろうとする金属装甲に、外側への力がかかる。
金属装甲が引き裂かれた。コアから外側へ剥がれ、施設の壁へ飛ばされる。磁力で引くのではなく、反発で押す。
コアが見えた。
銀色の球体が、剥き出しになった胸部の奥で脈動している。周囲に金属はない。シイナの紅蓮で焼き払われ、俺の磁力で弾き飛ばされた。再生材料が何もない。
俺は両肩のマグネットキャノンをコアへ向けた。
右肩のN、左肩のS。二門の砲身が銀色の球体へ照準を合わせる。ケータッチ21の画面に、必殺技の準備完了を示す表示が浮かぶ。
「ライダー超電磁ボンバー」
発射準備は整った。
だが——
コアが動いた。
銀色の球体の周囲に、黒い生体組織が溢れ出した。金属ではない。原種本来の肉体だ。粘液のような黒い膜がコアを包み込み、磁力を通さない層を作り始める。
磁力は金属に効く。だが、生体組織には効かない。
黒い膜が厚くなる。コアの光が、膜の向こうで弱くなっていく。あと数秒で完全に覆われる。
「シイナ」
「見えてる」
シイナはすでに動いていた。
紅蓮の炎を掌に集め、黒い膜へ向けて構える。金属ではない。生体組織だ。焼けるかどうかは分からない。だが、シイナは迷わなかった。