拠点へ戻った時、空が白み始めていた。
地下での救助、地上での巨大個体との交戦、ドラス型原種との戦闘。体感では半日に満たないはずが、夜明けの光を見ると長く感じる。慣れているはずの感覚だ。だが慣れと疲労は別物らしい。肩の包帯の下がまた熱を持っていた。
報告は簡潔に済ませた。
「コアを破壊した。再生も吸収も停止している。残骸は回収済み」
なのはが会議室の椅子を半分立ち上がるようにして聞いていた。フェイトは端末に記録を取りながら、時折こちらを見る。はやては腕を組み、背もたれに深く寄りかかっている。
「電撃への弱点は確認できたんですよね」
フェイトの問いに頷く。
「エレキステイツの電流で外装の金属部分が電子分解した。だが、それだけでは止まらなかった。生体部分がコアを守った」
「金属を吸収して再生する能力と、生体組織の防御。二重になってたってことか」
はやてが短くまとめた。正確だ。
「外見だけじゃなかった。ドラスの再生能力まで取り込んでいた。メガヘクス型は装甲を着せられただけだったが、今回は能力そのものが原種の肉体に根付いていた」
「ということは、次も別の怪人の能力を取り込んだ原種が出る可能性があるってことですか」
なのはの声は静かだったが、問いの向こうに警戒が見える。
「可能性としてはある。だが今は推測だ。一つの個体から一般化はできない」
正直に答えた。確定していないことを断定すれば、無駄な恐怖を広げるだけだ。
報告が終わったあと、なのはがテーブルの向こうから俺とシイナを交互に見た。
「ツカサ先生もシイナちゃんも、顔色が悪いです」
「そーか?」
シイナは自分の頬に手を当てた。その手が少し震えている。本人は気づいていないだろう。
「休んで。報告書は後でいい」
はやてが立ち上がった。指揮官の声ではなく、年上の少女の声だった。
フェイトが給湯室から戻ってきた。手に温かいカップを二つ持っている。
「熱いですけど、どうぞ」
シイナの前に置かれたカップから湯気が立つ。シイナは一瞬だけ手を止め、それからカップを両手で包むように持った。
指が緩んだのが見えた。
張り詰めていた手。銃を握り、紅蓮を放ち、瓦礫を焼き続けた手。その手が、温かいカップの表面でようやく力を抜く。
俺もカップを受け取った。熱い。だが悪くない。
「ツカサさん」
シイナがカップの縁越しにこちらを見た。
「最後のあれ。あんたの周囲に炎回した時、吸われたよな」
「ああ。ファイヤーステイツは周囲の熱を吸収できる。あの炎がなければ、最後の射線は開かなかった」
「そっか」
シイナはカップを一口飲んだ。少し顔がしかめられた。熱いのだろう。だがその顔に、少しだけ力が抜けた。
「あたしも、あんたが熱を吸えるって知ってればためらわなかったんだけど」
「知らなくても届けた。それでいい」
シイナは何も言わなかった。代わりにカップをもう一口飲んだ。
なのはが小さく笑った。フェイトも口元が緩んでいる。はやては腕を組んだまま、二人のやり取りを黙って見ていた。
言葉にしなくても伝わるものがある。戦闘の中で作られた信頼は、説明しなくても空気に残る。
カップが空になった頃、はやてが切り出した。
「次の任務の話をするで」
全員の視線が集まる。
「海外で原種の反応が出てる。駆除要請が来とる。なのは、フェイト、シイナ。三人に出動してもらう」
「分かった」
なのはが即答した。フェイトも頷む。シイナはカップを置いて、背筋を伸ばした。
「今回の新型原種との関連は未確認や。ただ、通常の原種にも警戒が必要やということは共有しとく。現地で何が出るか分からんから、情報はこまめに上げてな」
「ツカサ先生は?」
なのはが俺を見た。
「同行する」
短く答えた。理由は説明しなかった。説明する必要がない。新型原種の調査が続いている以上、現場を見る意味がある。
はやては頷いた。
「ツカサ先生の参加は上にも通しとく。追加要員として認められてる」
準備は早い方がいい。俺は席を立ち、装備の確認へ向かう。
廊下に出ると、シイナが後ろからついてきた