悪魔と呼ばれ慣れて 3rd   作:ボルメテウスさん

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黄金の瞬間

雲が渦を巻いていた。

 

一万メートルの空は、下から見上げる時と上から見下ろす時で全く違う。白い海だ。どこまでも白い。その白さの中へ飛び出した俺の体を、冷たい風が叩く。ディケイドの装甲が風を切り、マゼンタの複眼が雲の反射光を拾って明滅した。

 

機体が背後で遠ざかっていく。貨物ハッチから飛び出した勢いで、数メートル先へ放り出された。足場はない。だがディケイドのままでいる必要はない。空中戦へ対応できるライダーはいくつもある。その前に、まず敵の位置を確保する。

 

ライドブッカーを構えた。銃モード。雲の切れ間に、金色の翼が見える。右翼の青い宝珠が光り、左翼の赤い宝珠が脈動している。炎の膜が翼の周囲で揺らめき、黄金の羽根が一枚一枚、刃のように光っている。

 

俺は引き金を引いた。

 

弾丸が雲を切り裂いて飛ぶ。金色の翼へ向かって一直線に。

 

当たらなかった。

 

弾丸が雲へ消え、何もない空間を穿っただけだった。金色の翼があった場所に、翼はない。炎の残滓すらない。

 

消えた。

 

「——」

 

背後で風が変わった。

 

音がない。翼音もない。振動もない。ただ、空気の密度が変わった。俺の背中のすぐ後ろに、何かがいる。

 

反射で体を回した。間に合わない。だが、ライドブッカーが間に合った。

 

銃モードからソードモードへ。一瞬。指が動くより速く、ブッカーの刃が展開する。

 

金属がぶつかる音。鋭く、高い。雲の上で響く。

 

黄金の剣が、ライドブッカーの刃と噛み合っていた。

 

剣。二振り。ゴルトフェニックスの両手に、翼を模した黄金の剣が握られている。羽根を重ねたような刃で、一枚一枚が鋭く光っている。右手的剣が上から、左手的剣が横から。二方向の斬撃が同時に来ていた。

 

受け止めた。だが、重い。

 

刃が軋む。ライドブッカーの刀身が、黄金の剣の重さに耐えている。ディケイドの腕力で支えているが、空中に足場がない分、衝撃が全身へ流れる。背中の空中で、体が押される。

 

「っ」

 

二振りの剣を弾いた。右への剣を下へ逸らし、左からの剣を外へ流す。間合いが開く。ゴルトフェニックスが翼を広げ、金色の羽根が風を打った。

 

姿が消えた。

 

まただ。

 

左から右へ。右から上へ。上から正面へ。現れるたびに位置が変わり、剣が振られるたびに刃の角度が変わる。瞬間移動。軌跡がない。予測できない。

 

予測できない、か。

 

いや、できる。

 

瞬間移動の着地点には、法則があるはずだ。無制限にどこへでも飛べるなら、最初から機体の真正面へ現れて一撃で終わらせている。そうしないのは、飛べる範囲か、飛べる回数かに制限があるからだ。

 

三回目の移動。右斜め上から来た。剣が振り下ろされる。ライドブッカーで受ける。火花。黄金の羽根が一枚剥がれ、風に舞う。

 

四回目。左横。剣が横薙ぎ。回避した。だが羽根が一枚、装甲の肩を掠めた。浅い。だが切れた。ディケイドの装甲を一枚の羽根が切り裂いた。鋼鉄を切る羽根。本物のゴルドフェニックスと同じ。

 

五回目。背後。

 

来る前に、俺は動いた。

 

真下へ。重力に任せて落ちる。背後の剣が空を切り、黄金の羽根が俺のいた場所を通過した。

 

六回目。

 

来ない。

 

一瞬の空白。俺は雲の中を落下しながら、ライドブッカーを握り直した。

 

制限は回数ではない。間隔だ。連続して飛べない。数秒の空白がある。その間に、敵は翼を羽ばたかせて通常の飛行に戻っている。

 

なら、その空白を突けばいい。

 

だが、突くだけでは足りない。こいつは風と炎を操る。遠距離から攻めても、風で逸れ、炎で焼かれる。近接で受けても、瞬間移動で距離を取られる。

 

機体に近づけさせないためには、こいつをここに留めなければならない。だが、空中で逃げ回る相手を抑え込むには、足場がいる。

 

足場。

 

雲の上には足場がない。機体は使えない。空中に固定できる場所もない。

 

なら、作る。

 

俺はカードを取り出した。

 

龍騎。

 

ドラグブッカーと契約した仮面ライダー。ミラーワールドの住人。鏡の中を通る力を持つ。そして、空中に滞空できるドラグレッダーという相棒がいる。

 

だが、今使いたいのはドラグレッダーではない。

 

ミラーワールドだ。

 

鏡の中の世界。現実世界と重なって存在する、もう一つの空間。そこなら、機体への被害はない。乗客も巻き込まれない。風も炎も、向こう側で暴れればいい。

 

問題は、どうやってあいつをミラーワールドへ引きずり込むかだ。

 

ゴルトフェニックスが六回目の移動を終えていた。右前方に現れた。翼が広がり、赤い宝珠が光り始めている。炎を溜めている。

 

俺はネオディケイドライバーへカードを装填した。

 

『KAMEN RIDE RYUKI!』

 

赤い装甲が体を覆う。龍騎の姿。龍を模したメットの複眼が金色の光を捉える。ドラグセイバーが手に出現する。だが、今は使わない。

 

俺は左手を前方へ突き出した。

 

ミラーワールドへの入り口を開く。龍騎の能力。鏡面を通じて、現実世界とミラーワールドを繋ぐ。

 

だが、鏡がない。雲の上に鏡はない。

 

いや、ある。

 

眼下に、機体がある。機体の側面。金属の外板。磨かれたアルミニウムの表面が、太陽の光を反射して鏡のように光っている。

 

あれが、鏡だ。

 

俺は落下を止めた。空中で体勢を整え、機体の方へ向く。ゴルトフェニックスが追ってくる。翼が打たれ、炎が尾を引く。

 

機体の側面。反射光が俺の目に入る。その光の中に、もう一つの世界が見える。ミラーワールド。鏡の中の空間が、俺を呼んでいる。

 

ゴルトフェニックスが剣を振り上げた。

 

今だ。

 

俺は機体の側面へ手を伸ばした。ドラグセイバーの刃を、反射面へ突き入れる。刃が表面を裂き、鏡の水面が波立つように、空間が揺らぐ。

 

入り口が開いた。

 

「来い」

 

ゴルトフェニックスが炎を放った。赤い宝珠から溢れ出した炎が、黄金の翼と共に俺へ向かって殺到する。

 

俺はその炎の中へ飛び込んだ。

 

熱い。だが龍騎の装甲が耐える。炎を切り裂き、反射面へ体を滑り込ませる。鏡の表面が波立ち、俺の体がミラーワールドへ吸い込まれていく。

 

最後の瞬間、俺は振り返った。

 

ゴルトフェニックスが追ってきている。炎の軌跡を引きながら、俺と同じ場所へ向かって飛んでくる。

 

避けられない。俺が作った入り口へ、敵も入ってくる。

 

それでいい。

 

ゴルトフェニックスの体が反射面に触れ、空間が揺れた。

 

俺とゴルトフェニックス。二つの体が、鏡の表面を通ってミラーワールドへ滑り込んでいく。

 

世界が反転した。

 

空が逆さまになる。雲が鏡面の向こうで揺れ、機体の姿が水面のように歪む。その上で、俺とゴルトフェニックスが向かい合う。

 

ミラーワールド。

 

足場がある。硬い。ガラスのような床がどこまでも広がり、空は歪んだ鏡面で覆われている。

 

ゴルトフェニックスの翼が広がった。金色の羽根が、ミラーワールドの光を反射して輝く。全身の目玉が一斉に俺を捉える。

 

機体はない。乗客もいない。風も炎も、ここでなら暴れ放題だ。

 

俺はドラグセイバーを構えた。

 

「ここなら、迷子になっても探しやすい」

 

誰に言ったわけでもない。

 

ゴルトフェニックスが剣を振り上げ、ミラーワールドの空に黄金の翼が舞った。

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