悪魔と呼ばれ慣れて 3rd   作:ボルメテウスさん

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火炎の舞

ミラーワールドの床は硬かった。

 

ガラスのように滑らかで、だが混凝土のように重い。足裏の感覚が、雲の上とはまるで違う。足場がある。これだけで戦いが変わる。

 

ゴルトフェニックスが剣を振った。

 

二振りの黄金剣が交差するように切り込んでくる。上から右、横から左。二方向同時。ドラグセイバーで右の剣を受ける。だが左が来る。

 

間に合わない。

 

「ATTACK RIDE GUARD VENT」

 

ネオディケイドライバーへカードを装填する。音声が響くと同時に両肩に盾が出現した。ドラグシールド。龍の鱗を模した青い盾が左右の肩へ装着され、左から来た剣を弾いた。

 

金属音がミラーワールド内で反響する。鏡面の壁に音が跳ね返り、何重にも重なる。

 

重い。だが、耐えた。肩の衝撃が装甲を通じて全身へ伝わるが、足場のおかげで後退はしない。

 

ゴルトフェニックスが翼を打った。姿が消える。

 

瞬間移動。

 

右後ろ。

 

振り返るより先に、体が反応していた。龍騎の戦闘本能が残像のように残る。数年ぶりではない。何度も他のライダーへカメンライドしてきた中で、龍騎の感覚は体に刻まれている。

 

右後ろからの斬撃。ドラグシールドが弾く。火花が飛ぶ。黄金の羽根が一枚、盾の表面を滑って背後へ飛んだ。

 

消えた。

 

今度は左前。

 

来る前に分かった。左翼が消える瞬間、青い宝珠の光が左前方へ流れた。わずかだが、移動先の方向に光が偏る。それが見えた。

 

ドラグセイバーを振る。空中の黄金剣と刃がぶつかる。弾かれた剣が弧を描き、ゴルトフェニックスが距離を取る。

 

「ATTACK RIDE SWORD VENT」

 

二枚目のカードを装填する。ドラグセイバーの刃がより鋭く輝き、手に馴染む重さが増した。

 

続けて三枚目。

 

「ATTACK RIDE STRIKE VENT」

 

左手に重みがかかった。ドラグクロー。龍の顎を模した爪状の武器が左手へ装着される。口の部分に火炎弾を放つ機能がある。遠距離用。

 

右手にドラグセイバー。左手にドラグクロー。接近戦と遠距離。両方を同時に。

 

悪くない。

 

ゴルトフェニックスが翼を広げた。赤い宝珠が光り、炎が翼の周囲に渦を巻く。遠距離攻撃の構えだ。炎の弾丸が形成され、黄金の羽根と混ざり合って迫ってくる。

 

俺は左手を前に出した。ドラグクローの口が開き、火炎弾が放たれる。

 

龍の炎と鳳凰の炎が空中でぶつかった。熱波がミラーワールドの鏡面を走り、床の表面が一瞬歪む。だが、どちらも弾けずに相殺した。

 

相殺したということは、力が拮抗しているということだ。本物のゴルトフェニックスなら、龍騎の火炎弾程度では相殺できなかっただろう。こいつは模倣体だ。原種の肉体にゴルトフェニックスの能力を取り込んでいるが、出力は本物には及ばない。

 

だが、瞬間移動がある。

 

消えた。

 

正面。

 

剣が突き出されている。突きだ。回避する暇がない。だが——

 

動くな。

 

受けろ。

 

左肩のドラグシールドを前に出した。剣先が盾の表面に当たり、金属音が響く。衝撃で体が後退する。だが、一歩だけ。足場があるから一歩で済む。

 

右手的剣が見えた。突きの後に横薙ぎが来る。ゴルトフェニックスの剣は二振りだ。突きと薙ぎを同時に。

 

右の剣をドラグセイバーで受ける。左の剣をドラグシールドで弾く。両手が同時に動く。龍騎の戦い方は二刀流に近い。セイバーとクロー、盾と剣。四つの武器が同時に機能する。

 

ゴルトフェニックスが後退した。翼を打って距離を取る。炎を溜めている。赤い宝珠が明滅し、周囲の空気が歪む。

 

遠距離だ。

 

ドラグクローを構える。火炎弾を放つ。炎の球がゴルトフェニックスへ向かって飛ぶ。

 

ゴルトフェニックスが右翼の青い宝珠を光らせた。風が炎を逸らす。火炎弾が横へ流れ、ミラーワールドの壁へ当たって弾けた。

 

風で防がれた。

 

なら、風の隙間を突く。

 

消えた。

 

背後。

 

来た。

 

回る。ドラグセイバーを背後へ振る。刃が黄金剣と噛み合う。近い。翼の羽根が装甲の表面を掠める。熱い。だが、切れていない。

 

押す。ドラグセイバーで剣を弾き、間合いを作る。ゴルトフェニックスが翼を打って後退しようとする。

 

逃がさない。

 

前へ踏み込む。ドラグクローの爪を振り上げ、ゴルトフェニックスの右翼の付け根へ叩きつける。爪が装甲に食い込み、黄金の羽根が弾け飛ぶ。

 

「っ!」

 

ゴルトフェニックスの全身の目玉が一斉に俺を向いた。翼の付け根、装甲の隙間、宝珠の内部。数十個の瞳孔が、同じ方向を向いた。

 

痛みがある。こいつにも痛みがある。

 

ゴルトフェニックスが翼を激しく打った。風が巻き起こり、俺の体を押し返す。ドラグシールドが風を受け流すが、足が滑る。ミラーワールドの床は硬いが滑る。

 

距離が開いた。

 

ゴルトフェニックスが空中へ浮く。ミラーワールドの天井近くまで上がり、両翼を広げた。赤と青の宝珠が同時に光る。風と炎が混ざり合い、渦となる。黄金の羽根が渦に巻き込まれ刃の嵐になる。

 

全弾放つ気か。

 

来い。

 

俺はネオディケイドライバーへ最後のカードを装填した。

 

『FINAL ATTACK RIDE RY RY RYUKI』

 

音声がミラーワールドに響き渡る。鏡面の壁が音を反響させ、何重にも重なる。

 

ドラグクローが熱を帯びた。爪の内部に炎が溜まり、口の部分から溢れ出す。だが、火炎弾ではない。溜まった炎が爪の表面を覆い、ドラグクロー全体が巨大な炎の塊へ変わる。

 

左手が熱い。だが、龍騎の装甲が耐える。それにこの熱は、俺の敵じゃない。

 

ドラグセイバーの刃にも光が集まる。ファイナルアタックライドのエネルギーが刀身を走り、赤い光が刃の周囲で渦を巻く。

 

右手に斬撃。左手に炎。二つを同時に放つ。

 

ゴルトフェニックスが嵐を解き放った。風と炎と羽根が混ざり合った弾幕が降り注ぐ。

 

俺は前に出た。

 

ドラグシールドが風を弾く。羽根が盾の表面で砕ける。炎が装甲を舐める。熱い。だが、止まらない。

 

ドラグクローを前に突き出した。巨大な炎が口から放たれる。火炎弾ではない。ドラグクロー全体を包み込んだ炎が、一つの巨大な火球となって飛ぶ。

 

龍の炎。鳳凰の炎。正面からぶつかる。

 

だが、今回は相殺しない。

 

ファイナルアタックライドのエネルギーが炎に乗る。龍騎の力が炎を押し上げ、ゴルトフェニックスの嵐を焼き尽くす。風が裂け、羽根が燃え、炎の壁が崩れる。

 

残った。

 

ゴルトフェニックスの翼が燃え、宝珠が砕け、装甲が剥がれ落ちる。その奥から黒い生体組織が覗く。原種の本体だ。

 

俺は右腕を振った。ドラグセイバーの刃が赤い光を纏い、炎の切れ目を縫うように走る。

 

斬撃がゴルトフェニックスの身体を捉えた。胸の中央。宝珠があった場所。その奥にある核。

 

炎と斬撃が同時に届いた。

 

ドラグクローの炎が身体を包み込み、ドラグセイバーの刃が核を断つ。二つの力が重なり合い、ゴルトフェニックスの身体が内側から光る。

 

黄金の装甲が割れた。黒い組織が焼け、目玉が一つずつ光を失う。翼が砕け、宝珠が弾け、残った羽根が灰になって散る。

 

爆発。

 

炎がミラーワールド内で膨れ上がり、鏡面の壁を赤く染めた。衝撃波が床を走り、俺の体が後方へ押される。足を踏ん張り、耐える。

 

熱が収まった時、目の前に何もなかった。

 

灰が舞う。黄金の破片が床に散り、光を失った目玉が砕けて消える。核は見つからない。焼き尽きた。斬り裂いた。二つの力で、再生する間もなく。

 

俺はドラグセイバーを下ろした。ドラグクローの炎が消え、爪の表面から煙が立ち上る。

 

静かだ。

 

ミラーワールドの鏡面が、赤い残光を反射して揺れている。

 

「終わった」

 

誰もいない空間に短く落とした。

 

振り返る。鏡面の向こうに、現実世界の空が見える。雲の海。機体の影。まだ飛んでいる。

 

戻らないとな。

 

俺は鏡面へ手をかけ、現実世界への入り口を開いた。

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