眼前にいる原種に対して、俺の頭の中にある数多くの怪人達の特徴が合わせるように。
前回のゴルドフェニックスのように変化しているのだと理解する。
だからこそ、見つめる。
「・・・ツカサ、何か心当たりはあるの」
ゼータはゆっくりと構えながら、聞いてくる。
「まぁな、色々とな」
だからこそ、まず見つめたのは、その原種の身体の色は緑だった。
怪人の身体の色も特徴であるが、あまりにも歪である。
だが、その怪人の右腕と一体化した物に眼を向ける。
「ボスボス!あいつの腕、変だよ!まるで笛じゃない?」
「笛」
それを聞いて、理解する。
「・・・なるほど」
「分かった?」
「あぁ」
イータからの言葉に頷きながらも、俺は奴の正体を言う。
「グレムリン、それも賢者の石と一体化した姿だな」
グレムリン。ウィザードの世界に現れたファントムの中で、唯一人間だった頃の記憶と理性を残していた個体。賢者の石を手に入れ、その力で自らの身体を作り替えた最後の怪物。
だが、目の前にいるのは本物じゃない。緑色の身体。右腕と一体化した笛。原種の目玉が全身に散らばっている。模倣体だ。だが、どの個体もそうだった。メガヘクスもドラスもゴルトフェニックスも。中身は原種で、外側は怪人の姿を模している。
グレムリン型原種が動いた。
右腕の笛が振り上げられる。刃だ。笛の側面が刃として機能している。単なる楽器ではない。武器だ。
速い。
地面を蹴る音が響く前に、緑色の影が目の前に来ていた。右腕の笛が横薙ぎに振られる。俺はライドブッカーをソードモードに切り替え、一瞬で構える。
金属音。笛の刃とライドブッカーの刀身が噛み合う。重い。だが弾いた。
弾いた瞬間、グレムリン型原種の左腕が動く。左手が握っているのは——何もない。いや、掌からエネルギーが漏れている。緑色の光が掌に集まり、弾丸として撃ち出された。
「散れ!」
俺が叫ぶと同時に全員が動いた。デルタが右へ、ゼータが左へ、イータが後方へ跳ぶ。エネルギー弾は俺のいた場所を通り抜け、背後の車両のドアを吹き飛ばした。
グレムリン型原種が追ってくる。右腕の笛を振りながら、左手からエネルギー弾を連射する。近距離と遠距離を同時に。厄介だ。
俺は横へ滑り、エネルギー弾の軌道から外れる。ライドブッカーをガンモードに切り替え、二発撃ち込む。弾丸はグレムリン型原種の肩に当たったが、緑色の装甲が火花を散らすだけで貫通しない。
硬い。賢者の石の影響か。
グレムリン型原種が右腕の笛を構え直した。今度は振るのではない。笛の先端をこちらに向けている。
口の部分に当たる構造——吹き口のような部位が、笛の側面に開いている。
そして、原種が笛を吹いた。
音が響いた。
笛の音色。低く、湿った音。金属が震える音と生物が唸る音が混ざった、不快な旋律。それが通りの空気を震わせた。
「——あっ」
デルタの声が上がった。
俺は振り返った。デルタが通りの右側で立ち止まっていた。いや、止まっているのではない。止まっているのだ。
足が動かない。腰が落ちたままの姿勢で固まっている。尻尾が止まった。耳が止まった。目だけが動いて、自分の身体を見下ろしている。
「動けない——!」
ゼータもだった。左側の建物の陰から出ようとした体勢で止まっている。片足が地面についたまま、もう片足が浮いた状態で固定されている。猫の耳がピンと立ったまま動かない。
イータは後方で端末を握ったまま固まっていた。指が画面の上で止まっている。入力途中の文字が光ったまま点滅している。
三人の動きが止まった。
笛の音が続いている。低い旋律が通りの空気を支配している。
俺は自分の手を見た。動く。ライドブッカーを握る指に違和感はない。笛の音が聞こえているが、身体は動く。
なぜ俺は効いていない。
答えはすぐに出た。俺は魔法を使っていない。ライドブッカーは物理的な武器だ。ディケイドライバーの変身も魔法ではない。だが、三人は違う。
デルタの拳。ゼータの隠密と魔力斬撃。イータの魔力制御と解析。三人とも体内の魔力を使って動いている。
笛が、魔力を無力化している。
グレムリン。ウィザードの世界で、魔法を無効化する能力を持っていた個体。笛を吹き鳴らすことで相手の魔法を封じる。その能力まで再現されている。
「イータ! デルタ! ゼータ!」
叫んでも返事がない。三人の目だけが動く。聞こえている。だが身体が動かない。魔力で動いている部分がすべて止まっている。
グレムリン型原種がこちらを向いた。全身の目玉が一斉に俺を捉える。笛の音色が変わった。低い音が高くなり、鋭い旋律になる。
右手の笛が振り上げられた。刃が光る。今度は俺を狙っている。三人が動けない今、標的は一人。
俺は後ろへ跳んだ。
笛の刃が俺のいた場所を薙ぐ。空気を切る音が耳を掠める。だが当たっていない。
グレムリン型原種が追撃する。左手からエネルギー弾が放たれる。三発。縦に並んで迫る。
横へ回避する。一発目が肩を掠め、二発目が空を切り、三発目が足元の地面を砕く。
だが、笛の音は止まらない。旋律が続いている。三人はまだ動けない。
このままではジリ貧だ。笛を止めない限り、三人は動けない。俺一人でグレムリン型原種を抑えながら、三人の拘束を解く方法を探さなければならない。
笛を止める。あるいは、笛の効果を打ち消す。
グレムリンの笛は魔法を無力化する。なら、魔法以外の力で対抗すればいい。
だが、それだけじゃない。笛を吹き続けながら戦う相手を、どう近づくか。
グレムリン型原種が再び笛を振った。今度は突きだ。刃の先端が俺の胸を狙っている。
「ツカサ!」
デルタの声が届いた。動けない体で、それでも叫んでいる。
俺は後ろに飛びながら、その手には既にカードを握っていた。
「笛を相手にするんだったら、音楽で対抗してやるよ」
そのまま、既にネオディケイドライバーに、カードを素早く装填する。
『KAMEN RIDE KIVA』
鳴り響く音声と共に、俺は空中で笛の音と共に、キバへと姿を変身する。