核の傷から漏れる光が、腕に絡みついた筋状の組織を伝って剣へ流れていく。刀身が震えた。地面を擦っていた刃先が、ゆっくりと持ち上がる。
力を集めている。
核を守るために剣へ力を送り込んでいる。防御組織が薄くなった分、剣へ回す力が増えている。だがそれは、核の防御が手薄になっているということだ。
正面から威力を竄えば、溜めた一撃は重い。受ければ飛ばされる。だが振り抜いた後は隙ができる。
俺はハンマーを握る指に力を込めた。敵の肩と刃先を交互に見る。三人の位置を一度だけ確認する。右後方。壁の陰。離れている。
「そこから動くな」
短く告げて、横へ踏み出した。
グレムリンが踏み込んだ。力を溜めたハーメルケインが振り下ろされる。重い。空気が裂ける音が鼓膜を叩く。
斜め前へかわす。背後の路面が裂け、砕けた石が装甲に当たる。欠片が肩を掠める。だが当たっていない。
剣が地面を砕いた瞬間、俺は already 動いていた。グレムリンが剣を引き戻す前に、バッシャーマグナムを構える。
撃つ。弾丸は腕と刀身の接続部分を狙った。生体組織と金属が噛み合っている部分。弾丸がそこに当たり、組織が弾けた。刃を持ち上げる動きが遅れる。腕が剣の重さに耐えきれず、刀身が一瞬下がる。
その隙を見逃さない。
ガルルセイバーを振るう。青い刃が、剣を支える生体組織を切り裂く。筋状の組織が断たれ、ハーメルケインの角度が変わる。刀身が地面へ向かう。
だがグレムリンは剣を手放さない。残った組織を伸ばし、武器を繋ぎ止めようとする。黒い粘液の糸が腕と剣の間に張られ、切れた組織の代わりにハーメルケインを支え直す。
剣を奪うだけでは足りない。組織が繋ぎ直されれば、剣は再び使える。核の防御も戻る。
剣と路面の間で火花が散る。胸部では裂けた組織が寄り集まり、核の傷を覆おうとしている。
剣を地面へ押し下げる。刀身が路面を削り、火花を上げながら横へ滑る。グレムリンが剣を引き戻そうとするが、俺は腕の上から剣を押さえる。
ドッガハンマーへ持ち替える。
踏み込む。深く。足を路面に食い込ませる。振り上げたハンマーの重さを腰で支える。グレムリンが腕を引くより先に振り下ろす。
「っ——」
ドッガハンマーが剣の根元を叩いた。損傷した接続部分ごと砕く。金属と生体組織が同時に砕ける音が響く。ハーメルケインの刀身が腕から離れ、路面の上に転がる。
グレムリンが後退する。一歩。
俺は踏み込む。一歩。
返す一撃で胸部を打ち据える。ドッガハンマーの紫色の重みが、核を囲んでいた防御組織を潰す。装甲片が飛び散り、黒い膜が弾け飛ぶ。核が露わになる。
赤い光。脈動。
剣を失ってもグレムリンは倒れない。胸部の目玉が一斉に俺へ揃う。核へ光が溜まり始める。至近距離から最後の攻撃を放とうとしている。
俺はバッシャーマグナムで核の周囲を撃った。狙いをずらすためだ。弾丸が核の左右の組織を砕き、グレムリンの照準が狂う。放たれた一撃が肩を掠める。熱い。だが直撃ではない。
横へ跳ぶ。着地。肩の痛みに息が詰まる。だが視線は核から外さない。
核が露出したまま、原種の身体が揺れている。再生が追いついていない。剣を失い防御組織を砕かれ残った力は核へ集まっているが、それを放つ照準が定まらない。
ここだ。
俺は FINAL ATTACK RIDE のカードを取り出した。
ネオディケイドライバーへ装填する。
『FINAL ATTACK RIDE K・K・K・KIVA』
音声が響く。右脚へ力が集まる。ドガバキフォームの全ての力が一本の足へ収束していく。重い。だがこの重さは蹴り抜くための重さだ。
グレムリンが腕を伸ばして迎撃に来る。残った左腕。掌からエネルギー弾が放たれる。
俺は斜め上へ跳んだ。
低く腰を落として、路面を蹴る。跳躍。エネルギー弾が足元を通り過ぎる。当たっていない。
空中で体が一回転する。右脚に集まった力が、回転と共に加速する。
グレムリンの腕が伸びる。迎撃だ。掌が俺の足を掴もうとする。
だが俺はその腕を越える。斜め上から。腕の上を通り越し、その下にある核へ。
右脚が核を捉えた。
衝撃。
核の表面に亀裂が走る。赤い光が亀裂から漏れる。グレムリンの身体が抵抗する。腕が俺の脚を掴もうとする。だが力が集まっていない。核へ送り込んでいた力を、今は維持できない。
蹴り抜く。
抵抗する身体を押し切るように、右脚を核から引き抜く。爪先が組織を裂き、核の破片が飛び散る。
核から全身へ光が広がる。赤い光が緑色の装甲を内側から照らし、歪な輪郭が内側から砕けていく。目玉が一つずつ光を失い、生体組織が灰になって崩れる。
着地。
右足を路面に叩きつける。衝撃が膝から腰へ走る。痛い。だが立っている。
背後で音がした。
崩壊する音。組織が崩れ落ちる音。乾いた音が続き、やがて静かになる。
俺は振り返った。
原種グレムリンがいた場所に、灰と装甲片が散っている。核の目玉が砕けて光を失っている。散らばった組織が動いていない。再生が始まっていない。
確認する。三秒。動きはない。
笛の音が止まっていた。
いつから止まっていたのか分からない。だが今、空気は静かだ。あの不快な旋律は消えている。
「…ツカサ!」
デルタの声が届いた。壁の陰からデルタが走り出てくる。尻尾が揺れている。動ける。笛の効果が切れたのだ。
「大丈夫か」
「ああ。お前らは」
「動ける。もう魔力が戻った」ゼータが続く。建物の陰から出て、手を開いて閉じる。指先に微弱な光が灯る。復帰している。
イータは後方から歩いてくる。端末を構えたまま、倒れた原種の残骸へ目を向けている。歩く速度が速い。調査に向かう気だ。
「イータ」
俺は声をかけた。イータが足を止める。
「核に近づきすぎるな。まだ完全に停止したか確認できてない」
「分かってる。まずは端末で生体反応をスキャンする」
イータは足を止めたまま端末を向けた。画面に波形が映る。動きがない。脈動もない。
「生体反応、なし。核の残骸も反応なし。…死んでる」
「そうか」
俺は構えを解いた。
ドガバキフォームの装甲が重い。肩の痛みが戻ってくる。アドレナリンが引いていくと、体が痛みを思い出す。
デルタが隣に来た。
「あいつ、笛吹いてた間、あたしたち動けなかったんだぞ」
「知ってる」
「あたしの拳も、ゼータの隠密も、イータの解析も全部止まってた。あんた一人で戦ってた」
「ああ」
「…ありがとう」
デルタはそれだけ言って、俺の肩を叩いた。痛い。だが文句は言わない。
ゼータが残骸の周囲を確認し、イータが端末で記録を取り始める。
笛の音はもうどこにもない。