クロックアップの中では世界が止まって見える。
風の流れが線になる。砂埃が宙で静止し、原種の触手が空中に縫い止められたように動かない。だが完全に止まっているわけではない。俺の体だけが加速している。だから俺には、奴の動きが遅く映る。
俺は踏み込んだ。
地面を蹴る感覚はあるが、音は遅れて届く。原種の左側面へ回り込む。奴の複眼が俺を追おうとしているが、その動きは遅い。触手の目玉も同様だ。俺の位置を捉えようと瞳孔が動くが、追いつかない。
拳を打ち込む。
左の脇腹。外殻の継ぎ目を狙った。硬い。だが衝撃は通る。茶色い外殻が微かに軋む。続けて右の拳を肩へ。触手の付け根だ。触手が一本、わずかに跳ねた。
蹴りを入れる。膝の裏。外殻の内側に衝撃を伝える。原種の体が横に流れる。
だが奴もただでは終わらない。左手の鉤爪が振り下ろされる。遅いが軌道が太い。受け止めれば力負けする。俺は体を捻ってかわした。鉤爪が空を切る。その風圧が頬を撫でる。冷たい。
背後へ抜けようとした。
その瞬間、肩の触手が回り込んできた。一本が俺の進路を塞ぐ。もう一本が上から降りてくる。触手の目玉が動いている。本体の複眼とは別に、触手の目玉が独立して俺を追っている。正面から逃げても横から回り込まれる。
触手の動きは本体より速い。クロックアップの中でも、完全には止まって見えない。奴の触手は、本体とは別の反射で動いているのだ。
俺はカブトクナイガンを抜いた。
最初の触手を斬る。刃が黒い組織を断ち、目玉が一つ床に落ちる。
同時にライドブッカーで2本目斬る。触手の先端が宙で舞い、壁に当たって砕ける。
距離ができた。だが原種は止まらない。奴は俺への攻撃を続けながら、もう一方の触手を別の方向へ伸ばしている。
救護所だ。
触手の先端が建物の壁へ向かって伸びている。シャマルと負傷者が中にいる。
まずい。クロックアップは速さの代償として、俺の攻撃力は低い。一撃で奴を止められるほどの威力はない。触手を斬っても本体は動いている。このままでは、俺が触手を斬るそばから新しい触手が救護所へ向かう。
「ならば、これだな」『ATTACKRIDE ZECT MIZAR』
同時に、俺のその手にはゼクトマイザーがあり、そのスイッチを押す。
スイッチを押した。
ゼクトマイザーの中央にあるマザーアクシスが展開し、四方に射出砲が展開する。触手が迫ってくる。
右肩から伸びた一本は救護所へ。左肩から伸びた一本は俺の右腕を狙っている。二つの触手が同時に動く。どちらを止めるか、どちらを斬るか、一瞬で判断する。
「叩け」
俺はゼクトマイザーのタッププレートを押した。
四方から破片手榴弾マイザーボマーが放たれる。小さな手榴弾が原種の体を中心に飛び散る。
爆発は威力が弱い。だが、眩しい。爆風は痛くない。だが音が大きい。
原種の目玉が一斉に閉じた。光を嫌う。音に怯える。本物のグリラスワームも、こういう弱点を持っていた。
俺は一気に踏み込んだ。
ゼクトマイザーから放たれる破片手榴弾が触手の周囲で炸裂する。目玉が動きを止め、触手が迷う。その一瞬があれば十分だ。
左手の鉤爪が振り下ろされる。俺はカブトクナイガンを刃で受け流す。力任せに受け止めれば腕が持たない。受け流して、流れる力の方向を変える。鉤爪が外へ弾かれ、原種の体がわずかに開く。
そこへ。
俺はカブトクナイガンを突き出した。外殻の隙間、肩と背中の継ぎ目。黒い組織がはみ出している部分。刃がその隙間に食い込む。
硬い。だが、完全に硬いわけではない。外殻と組織の境目は、どちらも柔らかくもなく硬くもない。二つの材質の合間は、引っぱれば剥がれる。
「剥がせ」
カブトクナイガンをひねりながら引き抜く。外殻の一部が剥がれ、黒い組織が露出した。原種が体をよじる。痛みがあるのか、それとも不快感か。どちらでもいい。
俺は体を回転させ、原種の背後へ回り込む。
触手が追ってくる。だが、遅い。爆音と閃光で目玉の動きが鈍っている。俺は再びゼクトマイザーのプレートを叩いた。
今度は背中の触手に向けて放つ。爆発と共に触手が吹き飛ぶ。目玉が床に転がり動きを止める。
原種が再び高速移動しようとする。その瞬間、俺は見抜いた。瞬間移動の直前にわずかな予備動作がある。体が沈む。そこから跳ぶ前に踏み込み、突きを放つ。外殻の胸の中央。カブトクナイガンの刃が突き刺さる。
硬い。だが、届く。
そのまま押し込む。原種が後方へ弾かれる。その隙に俺はゼクトマイザーをもう一度叩いた。
四方から破片手榴弾が飛ぶ。原種の周囲で爆発と閃光が連続する。目玉が一斉に閉じる。
次は俺の番だ。クロックアップの速度で間合いを詰める。右の拳を打ち込む。外殻の肩。硬い音が響く。続けて左の拳を腹部へ。外殻の継ぎ目。こちらも硬いが、衝撃は通る。
原種が左手の鉤爪を振り上げる。俺は正面から受けず体を捻ってかわす。カブトクナイガンで鉤爪を外へ流し、そのまま切り返す。刃が原種の右腕の付け根を斬る。外殻が割れ、黒い組織が飛び散る。
「やれるな」
原種が吠える。叫び声ではない。外殻が震える音だ。
奴は体をひねり、再び高速移動しようとする。だが、俺は読んでいた。予備動作が見える。体が沈む前に、カブトクナイガンを投げた。
飛んだ刃が原種の足元へ突き刺さる。ジャンプを阻む動きを止めた。原種が体勢を崩す。
その隙に俺は近づいた。ゼクトマイザーのプレートを最後にもう一度叩く。
四方からの手榴弾が、原種の全身を包む。爆発。閃光。原種の目玉が閉じる。触手の動きが止まる。
「さぁ、ここからがラストだ」