俺はネオディケイドライバーへカードを装填した。
『ATTACK RIDE PERFECT ZECTER』
音声が響くと同時に、右手に重みが生まれた。
パーフェクトゼクター。
カブトの世界において、全てのゼクターの力を統合した最強の武器。刀身の基部に三つのボタンが並び、それぞれがドレイク、ザビー、カブトの力を内蔵している。刀身そのものはカブトクナイガンとほぼ同じ形状を保ちながら、その質量は比べ物にならないほど重い。
手に馴染む。この武器を使ったのは初めてではない。だが、毎回こう思う。重い。だが悪くない。この重さは振り抜くための重さだ。
グリラスワーム型原種が動いた。
クロックアップの中で見ても、こいつの触手は速い。本体の動きは遅れて見える。だが触手は別だ。触手の目玉が独立して俺を追っている。本体の反射ではなく触手そのものの反射で動いている。だから速い。
二本の触手が同時に襲い掛かってきた。右肩から伸びた一本が上から振り下ろされ、左肩から伸びた一本が横から薙ぎ払う。上下からの同時攻撃。俺の退路を塞ぐように、二本が挟み込む軌道で迫る。
俺はパーフェクトゼクターの基部にある青いボタンを押した。
『DRAKE POWER!』
引き金を引く。
ドレイクの力がパーフェクトゼクターを通じて放たれた。刀身の先から六つの光弾が射出される。弾丸は空中で分散し、それぞれが独立した軌道を描きながら触手へ向かって自動追尾する。
六発の光弾が二本の触手を捉えた。三発ずつ。右の触手に三発、左の触手に三発。光弾が触手の表面で炸裂し、黒い組織が飛び散る。触手の目玉が砕け、本体から切り離された先端が床へ落ちる。
触手の動きが止まった。二本とも、中程から先が断裂し、残った根部が痙攣するように空中で震えている。
だが、グリラスワーム型原種本体は止まらない。
左手の鉤爪が振り上げられた。クロックアップの中でも速い。だが見える。振り上げられた鉤爪の軌道は、上から下への袈裟斬り。力任せの一撃。受け止めれば刀身が砕ける可能性がある。正面から受けるべきではない。
俺はパーフェクトゼクターの黄色いボタンを押した。
『THEBEE POWER!』
刀身の先が変化した。黄色い光が刃の周囲に集まり、タキオン粒子が槍のように密集して刀身を延長する。パーフェクトゼクターの刃から、さらに鋭く細い槍状の粒子刃が前方へ伸びる。
鉤爪が降りてくる。俺は正面から受けず、一歩右へ踏み出した。鉤爪が空を切り、俺の左肩を掠める。風圧だけでも重い。だが、当たっていない。
踏み出した勢いのまま、俺はパーフェクトゼクターを突き出した。黄色いタキオン粒子の槍が、グリラスワーム型原種の左腕の付け根を捉える。外殻と組織の継ぎ目。柔らかい部分。
粒子刃が外殻を貫いた。硬い表面を通過し、内側の黒い組織へ突き刺さる。原種が吠えた。外殻が震える音。触手の残った根部が一斉に動き、俺の腕へ巻きつこうとする。
俺はパーフェクトゼクターを引き抜き、同時に体を回した。触手の根部が俺の腕を掠め、空を掴む。巻きつけられる距離にいたが、回転の遠心力で外れた。
距離を取る。二歩、三歩。
グリラスワーム型原種が体勢を立て直そうとする。左手の鉤爪が不揃いに枝分かれした先端で床を掻く。残った触手の根部が宙を探る。全身の目玉が俺を追っている。だが、動きが鈍い。
ゼクトマイザーの爆発と閃光で目玉の動きが遅れている。ドレイクの光弾で触手を断たれ、ザビーの粒子刃で左腕を貫かれた。原種の身体は、傷つくたびに動きが遅くなっている。
だが、まだ倒れていない。
外殻の内側に本体がある。あの黒い組織の奥に、原種の核があるはずだ。メガヘクス型もドラス型もゴルトフェニックス型も、すべて核があった。今回も同じはずだ。
核を壊す。それ以外に倒す方法はない。
俺は原種の動きを観察した。鉤爪が床を掻く音。触手の根部が宙を探る音。外殻の継ぎ目から漏れる湿った音。
完全に弱ったわけではない。だが、動きは明らかに遅い。今だ。
俺はネオディケイドライバーへ最後のカードを装填した。
『FINAL ATTACK RIDE KA KA KA KABUTO』
音声が響く。クロックアップの空間の中で、その音声が何重にも重なって聞こえる。
パーフェクトゼクターが振動した。刀身の基部にある三つのボタンが同時に点灯する。ドレイク、ザビー、カブト。三つの力が一つに集まる。
刀身が光を飲み込んだ。赤い光が刃の表面を走り、タキオン粒子が刀身の周囲で密度を増していく。パーフェクトゼクターの形状が変化する。刃が延び、幅が広がり、先端が鋭く尖る。
カブトホーン。
カブトムシの角を模した巨大な刃が、パーフェクトゼクターの先端に形成された。赤い光の刃が空中で唸りを上げる。周囲の空気が歪み、タキオン粒子が刀身の周囲で螺旋を描く。
重い。両手で握っても、刃先が下がりそうになるほどの重量。だが、この重さは振り抜くための重さだ。
グリラスワーム型原種が動いた。最後の力を振り絞るように、残った触手の根部を俺へ向けて伸ばしてくる。鉤爪も振り上げられた。だが遅い。クロックアップの中で見れば、まるで水の中で動いているような遅さだ。
俺は踏み込んだ。
右足を地面に食い込ませる。腰を落とし、体重を刃へ伝える。パーフェクトゼクターを上段に構える。カブトホーンの赤い刃が天井の光を反射して燃えるように輝く。
触手の根部が迫る。俺はそれを無視した。触手は俺の脇を通り過ぎ、背後の空を掴む。鉤爪が振り下ろされる。俺はそれを一歩の踏み込みで潛り抜ける。鉤爪が俺の頭上を通過する風圧を感じる。だが、当たっていない。
懐に入った。
グリラスワーム型原種の胸の中央。外殻の継ぎ目が最も深く、その奥に黒い組織が脈動している。核がある。あそこだ。
俺はパーフェクトゼクターを振り下ろした。
カブトホーンの刃が、グリラスワーム型原種の外殻を捉えた。茶色い装甲が裂ける音。金属が裂ける音ではない。外殻と生体組織が同時に断たれる、重く湿った音が響く。
刃が外殻を割り、内側の組織を裂き、核を捉えた。
衝撃が腕から全身へ走った。だが、止まらない。振り抜く。
カブトホーンの刃が原種の身体を上から下まで貫通した。外殻が左右へ割れ、内部の黒い組織が露出する。その中央に、銀色の球体があった。核だ。刃が核を砕いた。銀色の光が亀裂から漏れ、原種の全身へ広がる。
爆散。
核の光が全身へ走り、外殻が内側から砕ける。触手が千切れ飛び、鉤爪が崩れ落ち、目玉が一つずつ光を失う。原種の身体が光の粒子となって散っていく。外殻の破片が空中で砕け、黒い組織が灰になって舞い上がる。
俺はパーフェクトゼクターを下ろした。刃の赤い光が消え、タキオン粒子が霧散していく。
クロックアップが解除された。
時間が戻る。世界の速度が正常に戻る。音が戻り、風が動き、空気の流れが感じられる。
目の前には、灰と破片が散らばる床だけがあった。グリラスワーム型原種の姿はもうない。銀色の核の欠片が、灰の中で微かに光ってから消えた。
「終わったか」
誰に言ったわけでもない。確認のためだ。動くものがないか。灰の中に目玉の残りがないか。触手の断片が蠢いていないか。