救護所を後にした俺は、移動中の車内でシグナムからの連絡を受けた。
「ツカサ、聞こえるか?」
「ああ。どうした」
「ザフィーラが防衛を担当している都市で、原種の攻撃が続いている。守備隊は持ちこたえているけれど、遠距離からの射撃で住民の避難が進まない」
車の窓から外を見る。夜が明けきらない空の下、道路には避難する車両が列をなしている。救援部隊の車が反対車線を逆走していく。都市の方向から、断続的に爆発音が届く。地面が微かに振動する。
「地図を送る」
シグナムの声と共に端末に都市の地図が表示された。防衛線が赤い線で示され、避難経路が緑で描かれている。被害の集中している区画は黒く塗り潰されている。赤い線の内側に住民が取り残されている区域が三箇所。避難経路の二本が使えない。
「進入路は」
「東側の高架下。守備隊が確保している。ただし、敵の射撃が届く範囲だからタイミングを見ろ」
「分かった」
俺は端末を閉じた。後部座席にデルタ、ゼータ、イータが乗っている。三人とも装備を確認している。デルタは腰の武器を、ゼータは小型の端末をイータは携帯型の分析装置を。
「都市へ向かう。ザフィーラと合流して防衛線を維持する。デルタとゼータは避難誘導。イータは着弾した矢の調査だ」
「了解」
デルタが短く答える。ゼータは頷くだけ。イータは分析装置を胸元へ収めた。
車が加速する。道路の凹凸で車体が跳ねる。窓の外で、光の矢が空を裂いた。
高架下へ近づくと都市の輪郭が見えてきた。ビルがいくつか崩れている。道路が裂けている。交差点の真ん中に、光る矢が突き刺さっている。矢は建物の壁にも刺さっている。無差別に放たれているわけではない。交差点を狙い、避難に使う道路を狙っている。逃げ道を塞ぐための射撃だ。
「見えた」
俺は車を停めた。高架下の守備隊詰め所へ走る。デルタ、ゼータ、イータが続く。
詰め所の前に、ザフィーラがいた。
青い毛皮の狼。大きな体。両腕を広げて防衛線を維持している。飛来する光の矢がザフィーラの前で弾け、光の粒子となって散る。守備隊の兵士がその後ろで住民を誘導している。
「ツカサ」
ザフィーラが短く声をかけた。振り返らない。前方を見ている。飛来する矢の軌道を読んでいる。
「来た。状況を」
「敵は遠距離から矢を放つ。位置は都市の北東、崩れた高層ビルの屋上付近。攻撃の間隔は約七秒。だが、一定ではない。五秒の時もあれば、十秒の時もある。住民が遮蔽物へ隠れても、移動先を狙ってくる。逃げる方向を読んでいる」
「矢の数は」
「一度に三本から五本。拡散している。全てを防ぐのは難しい。一箇所を守れば別の箇所が抜かれる」
ザフィーラの足元を見る。地面に踏ん張った跡が残っている。幾重にも重なっている。長くここを守ってきた証だ。
「イータ、着弾した矢を調べろ。矢の性質を確認する」
「分かった」
イータが交差点へ走る。刺さった矢の一本へ近づき、分析装置を向ける。
「デルタ、ゼータ。住民の誘導を頼む。東側の避難経路を優先。守備隊と連携して」
「ああ」
デルタが走る。ゼータが続く。住民の列が動き始める。子供を抱えた母親。高齢者。負傷者。守備隊の兵士が先導し、デルタとゼータが後方と側面を固める。
俺はザフィーラの隣へ立った。並んで防衛線を見る。
「ツカサ、来るぞ」
ザフィーラが言う。北東の空から光の矢が放たれた。五本。拡散している。一つは正面。二つは左。二つは右。