悪魔と呼ばれ慣れて 3rd   作:ボルメテウスさん

308 / 309
都市防衛戦

救護所を後にした俺は、移動中の車内でシグナムからの連絡を受けた。

 

「ツカサ、聞こえるか?」

 

「ああ。どうした」

 

「ザフィーラが防衛を担当している都市で、原種の攻撃が続いている。守備隊は持ちこたえているけれど、遠距離からの射撃で住民の避難が進まない」

 

車の窓から外を見る。夜が明けきらない空の下、道路には避難する車両が列をなしている。救援部隊の車が反対車線を逆走していく。都市の方向から、断続的に爆発音が届く。地面が微かに振動する。

 

「地図を送る」

 

シグナムの声と共に端末に都市の地図が表示された。防衛線が赤い線で示され、避難経路が緑で描かれている。被害の集中している区画は黒く塗り潰されている。赤い線の内側に住民が取り残されている区域が三箇所。避難経路の二本が使えない。

 

「進入路は」

 

「東側の高架下。守備隊が確保している。ただし、敵の射撃が届く範囲だからタイミングを見ろ」

 

「分かった」

 

俺は端末を閉じた。後部座席にデルタ、ゼータ、イータが乗っている。三人とも装備を確認している。デルタは腰の武器を、ゼータは小型の端末をイータは携帯型の分析装置を。

 

「都市へ向かう。ザフィーラと合流して防衛線を維持する。デルタとゼータは避難誘導。イータは着弾した矢の調査だ」

 

「了解」

 

デルタが短く答える。ゼータは頷くだけ。イータは分析装置を胸元へ収めた。

 

車が加速する。道路の凹凸で車体が跳ねる。窓の外で、光の矢が空を裂いた。

 

高架下へ近づくと都市の輪郭が見えてきた。ビルがいくつか崩れている。道路が裂けている。交差点の真ん中に、光る矢が突き刺さっている。矢は建物の壁にも刺さっている。無差別に放たれているわけではない。交差点を狙い、避難に使う道路を狙っている。逃げ道を塞ぐための射撃だ。

 

「見えた」

 

俺は車を停めた。高架下の守備隊詰め所へ走る。デルタ、ゼータ、イータが続く。

 

詰め所の前に、ザフィーラがいた。

 

青い毛皮の狼。大きな体。両腕を広げて防衛線を維持している。飛来する光の矢がザフィーラの前で弾け、光の粒子となって散る。守備隊の兵士がその後ろで住民を誘導している。

 

「ツカサ」

 

ザフィーラが短く声をかけた。振り返らない。前方を見ている。飛来する矢の軌道を読んでいる。

 

「来た。状況を」

 

「敵は遠距離から矢を放つ。位置は都市の北東、崩れた高層ビルの屋上付近。攻撃の間隔は約七秒。だが、一定ではない。五秒の時もあれば、十秒の時もある。住民が遮蔽物へ隠れても、移動先を狙ってくる。逃げる方向を読んでいる」

 

「矢の数は」

 

「一度に三本から五本。拡散している。全てを防ぐのは難しい。一箇所を守れば別の箇所が抜かれる」

 

ザフィーラの足元を見る。地面に踏ん張った跡が残っている。幾重にも重なっている。長くここを守ってきた証だ。

 

「イータ、着弾した矢を調べろ。矢の性質を確認する」

 

「分かった」

 

イータが交差点へ走る。刺さった矢の一本へ近づき、分析装置を向ける。

 

「デルタ、ゼータ。住民の誘導を頼む。東側の避難経路を優先。守備隊と連携して」

 

「ああ」

 

デルタが走る。ゼータが続く。住民の列が動き始める。子供を抱えた母親。高齢者。負傷者。守備隊の兵士が先導し、デルタとゼータが後方と側面を固める。

 

俺はザフィーラの隣へ立った。並んで防衛線を見る。

 

「ツカサ、来るぞ」

 

ザフィーラが言う。北東の空から光の矢が放たれた。五本。拡散している。一つは正面。二つは左。二つは右。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。