灰が舞っていた。
風が止んでも粉塪はまだ浮いている。足元の瓦礫の上に積もり始めた灰を一つ踏み越える。火炎剣烈火の熱が引いていく。刃の橙色が薄れ、ただの鉄に戻る。
シイナが隣で散弾銃を肩へ戻した。スリングが擦れる音が静いた場に響く。
「ツカサさん。戻ろうか」
「ああ。報告を——」
言葉が途切れた。
シイナの肩越しに見えた。工場の搬入口。崩れた壁の隙間。そこに誰かが立っていた。
一人じゃない。
影が三つ。瓦礫の陰からこちらを見ている。動かない。声も立てない。ただ、ここにいる。
俺はライドブッカーへ手を戻した。構えるのではなく、握り直すだけ。だがシイナが俺の視線を追った。
「…あたし達じゃない」
「ああ」
「誰」
「分からん」
分からない。だが敵ではない、という確証もない。だからこそ手は剣から離さない。
影が動いた。三つのうちの一つが前に出る。残りの二つは壁の陰に残ったまま。
近づいてくる。
歩き方に迷いがない。瓦礫を踏む足音が規則的だ。戦う人間の歩き方ではない。だが逃げる人間の歩き方でもない。
近づくにつれて輪郭が見えた。
女だ。一人。年は――分からない。だが若い。俺やシイナとそう変わらないかもしれない。
背は低い。俺より頭一つ分低い。だが姿勢がいい。胸を張って歩いている。恐怖で張っているのではなく、最初からそういう立ち方をしている。
足が止まった。
瓦礫の境界、そこから一歩も入ってこない。工場の境内に入らず、ただ境界の外側に立っている。
俺を見ている。いや俺とシイナを、交互に見ている。
口が開いた。
「あんた達がやったの」
声は低かった。だが澄んでいる。歌うような響きがある。静かな声だ。だが質問だ。
シイナが前に出ようとした。俺は左手で制した。シイナは一瞬止まって、だが従った。銃は下ろさない。
「ああ」
短く答えた。それ以上は言わない。相手が何を聞いているか正確に分からない。やったとは何か。原種を倒したのか。工場を壊したのか。あの巨像を出したのか。
女は頷いた。一度だけ。そしてもう一つ聞いた。
「あいつは何だったの」
あいつ。さっきの原種のことだ。女は見ていた。戦いを、見ていた。
「原種だ」
「それは見て分かるよ。原種の何だったの。あの形は何」
鋭い。形を問いている。あの原種がアルビノジョーカーとフォーティーンを模していたことを、知っているのか。それともただ、異様な形に疑問を持ったのか。
俺は答える前に、女の後ろの二つの影を見た。動かない。前に出る気配もない。だがこちらから目を離していない。
「……知っている怪人の形に似ていた。だが本物じゃない」
「本物じゃない原種」
女は繰り返した。咀嚼するように。そしてもう一度頷いた。
「あたし達も同じのを見た」
シイナが動いた。制する前に一歩出た。銃口は下げている。だが構えは解いていない。
「あんた達も? あたし達と同じものを fight したの」
女はシイナを見た。まっすぐに。そして答えた。
「戦った。あたし達も、これと同じようなのを」
「同じようなのって……原種が怪人の形をしてたってこと?」
「そう。人間に似てたけど人間じゃない。怪人に似てたけど怪人じゃない。原種だった」
シイナが俺を見た。俺は女を見ている。
女の後ろの影が動いた。一人が壁の陰から半歩出た。だが止まった。
「…まぁ、奴の背後に俺の技術を知っている奴がいる可能性があるな」
「…聞かせてくれる」