悪魔と呼ばれ慣れて 3rd   作:ボルメテウスさん

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ツカサ先生の評判

 三年経った。

 教師という肩書きにも、この学校の空気にも、いい加減慣れた。慣れてしまったからこそ、呆れることの方が多い。

 

 特に、毎週のように現れる転校生だ。

 やたら大仰な口調で世界がどうとか、選ばれし者だとか、聞いてるこっちが頭痛くなるようなことを平然と言い出す。厨二病にしちゃ出来が良すぎるし、行動は過激。生徒のくせに校内外で騒ぎを起こす。

 

 で、どうなるか。

 大抵は俺が止める。殴って、蹴って、話を聞かせて――結果、次の週には転校。理由は毎回違うが、結末だけは同じだ。

 

「この学校、呪われてんのか?」

 職員室で何度そう思ったか分からない。

 

 俺から見れば、どいつもこいつも現実と折り合いをつけられないガキだ。

 特別でも何でもない。ただ、少し力を持って、少し勘違いしただけ。

 

 この世界が異常だとか、裏に何かあるとか、そんな発想はなかった。

 俺にとっては、どこにでもある“少し物騒な世界”でしかない。

 そんなもん、知る由もない。

 

 ただ、毎週のように問題が起きて、そのたびに教師として、そして一人の大人として始末をつける。

 それだけだ。

 

 冷めた目で教壇に立ちながら、俺は思っていた。

 ――この学校、面倒事を引き寄せすぎだろ。

 

 まさか、その理由が別の所にあるとも知らずにな。

 昼休みの終わり、校舎の廊下には人の気配が残っていた。

 プリントを抱えた教師が行き交い、数人の保護者が職員室の前で小声で話している。その中を、ツカサは特に目的もなく歩いていた。

 

「……ねえ、あの先生さ」

 ひそひそ声は、職員室前のベンチに腰掛けた若い女性教師のものだった。緊張した様子で周囲を気にしながら、隣の同僚に身を寄せている。

 

「見た目は子供みたいなのに、中身えげつなくない?」

「分かる……」

 答えたのは、少し年上の男性教師だ。疲れ切った表情で缶コーヒーを握り、苦笑を浮かべている。

「大人だろうが子供だろうが、やる時は本気。情け容赦ない」

 

 少し離れた場所では、保護者らしき二人組が声を潜めていた。

 どちらも険しい顔をしていたが、話題はすでに終わった争いの後らしい。

 

「この前の保護者、相当だったって聞いたけど……」

「ええ。でも門矢先生が出てきた瞬間、急に静かになったって」

 一人が肩をすくめる。

「モンスターペアレントを撃退するモンスター教師、なんて言われてるみたいよ」

 

 別の方向から、今度は少し楽しげな声が混じる。

 放課後の準備をしている事務員と若手教師だ。

 

「でもさ、不思議じゃない?」

「何が?」

「問題起こした子、誰一人切り捨てられてないの」

 

「そうそう。表では冷たいけど、裏でちゃんと面倒見てるって噂」

「説教もキツいけど……あとで思い返すと、妙に刺さる言葉が多いのよね」

 

「生徒の間じゃ、名言製造機とか言われてるらしいよ」

「本人が聞いたら、絶対面倒くさがるわね」

 

 会話はそこで途切れ、笑い声が小さく漏れた。

 

 俺は、その横を通り過ぎながら、何一つ反応を示さない。

 足取りも視線も変えず、ただ歩くだけだ。

 

(好きに評価しろ)

 

 持ち上げられようが、恐れられようが、どうでもいい。

 噂話は右から左へ抜けていく。

 

 やるべきことをやっているだけだ。

 それ以上でも、それ以下でもない。

 

 俺はそう割り切ったまま、静かに廊下の角を曲がった。

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