俺はそのまま、オーロラカーテンでその場を去った。
俺は変身を解いたまま、人気のない裏道を歩いていた。少し遅れて、デルタ、ゼータ、イータが合流してくる。
「ボス……じゃなくて、ツカサ。終わった?」
ゼータが小走りで並びながら聞いてくる。
「終わった。とりあえずな」
短く答えながら、俺は振り返らなかった。後ろでデルタが無意味に地面を蹴って、イータが静かに周囲を観測している気配がする。
さっき現れた連中――管理局、だったか。
正直、胸の奥に引っかかる感覚が、消えてくれない。
「さっきの連中……組織?」
イータが、いつもの実験報告みたいな口調で言う。
「ああ。時空管理局、とか言ってたな」
口に出してみても、やっぱり違和感がある。
“時空を管理する組織”。
そんなもの、これまで何度も聞いた。
世界を渡るたび、似たような連中は必ずいた。
“世界の秩序を守る者”。
“均衡の番人”。
“観測者”。
だが、そのほとんどが、現場では何もしなかった。
いや、正確に言えば、何もできなかったんじゃない。
“やらなかった”。
「測定不能、とか言ってたね」
ゼータが肩をすくめる。
「ああ。俺のことをな」
イータが少しだけ眉をひそめる。
「危険分類……排除対象……そういう言葉……聞こえた……」
それを聞いた瞬間、胸の奥で何かがはっきりと形を持った。
――ああ、やっぱりそういう連中か。
さっき、なのはたちが拘束されていたとき。
あいつらは、助けるより先に測定していた。
報告して、分類して、危険度を算出していた。
人質が目の前にいるのにだ。
「なあ、ツカサ」
デルタが珍しく真面目な声で言う。
「悪い奴?」
俺は少し考えてから、首を横に振った。
「……悪じゃない」
それは本音だ。
あいつらは、世界を壊そうとしているわけじゃない。
むしろ、守ろうとしている側なんだろう。
でも。
「信用できるかって言われると……別だ」
デルタが不満そうに鼻を鳴らす。
ゼータが興味深そうに俺を見る。
俺は歩きながら、ゆっくりと言葉を選んだ。
「俺は今まで、いろんな世界を回ってきた。
そこでな、“管理してる側”って連中を山ほど見てきた」
誰も口を挟まない。
続ける。
「で、そういう連中ほど決まって言うんだ。
“全体のために仕方ない”ってな」
なのはの顔が、脳裏に浮かぶ。
フェイトの必死な目。
クロノの焦った声。
「目の前の一人を切り捨てるのに、都合のいい言葉だ」
イータが小さく頷いた。
「……統計……最適解……人は……部品……」
「そういうことだ」
俺は足を止めて、夜空を見上げた。
星は普通に瞬いている。
この世界は、今のところ、壊れていない。
「それにさ」
少し苦笑する。
「時空管理局なんて名前、聞いたことない。
俺、世界渡りは長いけど、そんな連中に会ったこと、一度もない」
ゼータが目を丸くする。
「じゃあ……新しい組織?」
「か、隠れてたか、だな」
どっちにしても厄介だ。
「しかも、俺のことを“未登録”“分類不能”って言ってた」
肩をすくめる。
「嫌な予感しかしない」
デルタが即答する。
「じゃあ、ぶっ飛ばす?」
「今はやめとけ」
目だけで制する。デルタは素直に黙った。
「現状は様子見だ」
俺は三人を見回した。
「敵でも味方でもない。
協力もしないし、正体も明かさない。
なのはたちに手を出すなら、その時は容赦しない。それだけだ」
イータが少しだけ笑う。
「観測対象……逆転……」
「そういうこと」
管理する側を、こちらが観察する。
皮肉な話だが、それが一番安全だ。
俺は最後に、低く呟いた。
「世界を守る組織が、世界の一番大事な部分を切り捨てるなら……
その時は、俺が止める」
誰も反論しなかった。
夜風だけが、静かに吹き抜けていった。