悪魔と呼ばれ慣れて 3rd   作:ボルメテウスさん

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そのイレギュラーは

アースラのブリッジは、静かに航行を続けていた。

天井の半透明なパネル越しに、次元空間の淡い光がゆっくりと流れている。床のラインに沿って走る制御灯は、一定のリズムで明滅し、艦が安定航行に入っていることを示していた。中央の円形ホログラム卓の周囲には、リンディ、クロノ、エイミィ、なのは、そしてユーノが並んでいる。壁面には先ほどの戦闘記録と、仮面の戦士の静止映像が複数投影され、まるで無言の監視者のように全員を見下ろしていた。

 

なのはは椅子に浅く腰かけ、両手を膝の上でぎゅっと握っている。

助けられた安心と、正体の分からない存在への不安が、胸の中で絡まっていた。

 

リンディがティーカップをソーサーに置く音が、妙に大きく響く。

 

「これまで、様々な世界で目撃されているけれど……彼らは、あまりにも特徴がバラバラな事が特徴なの」

 

なのはが首を傾げる。

 

「バラバラが特徴って……どういう事なんですか?」

 

クロノは腕を組んだまま、ホログラムに映る数値群を指でなぞる。

 

「例えば、僕達の魔法体系は“魔力”という共通の前提がある。どんな系統でも、同じ物理法則と演算基盤の上に成り立っている。でも――」

 

リンディが続きを引き取った。

 

「彼らには、その共通項すらないの。能力の原理、発動条件、代償……すべてが個別で、互いに整合性がない。だから、管理局では“理の外側”の存在として扱っているのよ」

 

なのはは思わず息を吸った。

 

「……それって……すごく、危ないんじゃ……」

 

クロノは頷く。

 

「危険だ。事実、いくつもの世界で被害が出ている」

 

その言葉に、なのはの肩が小さく震える。

 

「あ……あの、それじゃ……あの時の人も……?」

 

クロノは一拍置いてから、はっきり言った。

 

「間違いなく、その分類に入る」

 

エイミィが端末を操作し、別角度の映像を映す。

 

「でもね、強さだけ見たら……正直、規格外だよ。魔力量は測れないし、移動速度も演算限界超えてる。しかも単独で次元移動」

 

リンディは映像を見つめながら、静かに言った。

 

「……それでも、彼はこの場では誰も殺さなかった」

 

なのはの胸が、少しだけ温かくなる。

 

その時、後方の補助席に座っていたユーノが、そっと前に進み出た。

フェレットの姿ではなく、人型のまま、両手を胸の前で組んでいる。

 

「……あの、少し……いいですか」

 

リンディが微笑んで頷く。

 

「どうぞ、ユーノ」

 

ユーノはホログラムに映る仮面の戦士を見上げ、慎重に言葉を選ぶ。

 

「僕……実は、少しだけ似た人に会った事があるんです。

別の世界で、争いを止めるためだけに現れて、名前も残さずに消えていった人……」

 

クロノが眉をひそめる。

 

「それは、偶然じゃないのか?」

 

「分かりません。でも……」

 

ユーノはなのはの方を一瞬見てから、続けた。

 

「あの人……拘束を解く時、すごく正確でした。必要な所だけ撃って、誰も傷つけないようにして……。

それに、僕達に背中を向けて、敵の方だけを見ていました」

 

なのはが、はっとして顔を上げる。

 

「……そういえば……」

 

リンディが静かに問いかける。

 

「それは、どういう意味だと思う?」

 

ユーノは小さく息を吸った。

 

「……少なくとも、あの場では……敵意は、なかったんじゃないかって……」

 

ブリッジに、短い沈黙が落ちた。

 

クロノは難しい顔のまま言う。

 

「可能性としては……否定できない」

 

エイミィが苦笑する。

 

「完全に敵だったら、あの三人まとめて無力化しててもおかしくなかったもんね」

 

なのはは、胸の奥で何かが少しだけほどけるのを感じた。

 

リンディは穏やかに頷いた。

 

「ええ。だからこそ、対話を試みる価値はあるわ。

彼の目的も、立場も分からない。でも……少なくとも、無差別な存在ではなさそう」

 

クロノは深く息を吐いた。

 

「それでも、危険性が極めて高い事実は変わりません」

 

「もちろん」

 

リンディは静かに微笑んだ。

 

「だから、慎重に……でも、拒絶せずに」

 

なのはは、映像の中の仮面をじっと見つめる。

 

――あの人は、助けてくれた。

名前も、顔も、何も分からないのに。

 

「……仮面ライダー……」

 

小さく呟いたその言葉は、誰にも聞こえないほどの声だった。

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