悪魔と呼ばれ慣れて 3rd   作:ボルメテウスさん

44 / 149
水柱

それは、本当に些細なきっかけだった。

 

「……ボス。雨の匂いする」

 

それだけ言って、鼻をひくりと動かす。山でも森でもなく、それは、海の方。

空は晴れている。雲も薄い。雨が降る気配なんて、どこにもない。

 

けれど、デルタは嘘をつかない。

特に、匂いの話に関しては。

 

「雨の匂い……?」

 

思わず足を止めて、俺も空を見上げた。何もない。ただ、風が少し湿っている。生温かくて、妙に重たい。

 

嫌な予感がした。

 

こういう感覚には、何度も助けられてきた。

世界が壊れる前の空気。

事件が始まる前の匂い。

 

「デルタ、その匂い……どっちからだ?」

 

「海。……いや、下」

 

下。

 

視線を海へ向けた瞬間、水面がわずかに盛り上がるのが見えた。

 

最初は波だと思った。

次の瞬間、それが“縦に伸びた”。

 

水が、柱になって立ち上がる。

 

音が遅れて来る。

ドン、という低い衝撃。海面を叩き割る水柱が、夜の闇を切り裂いて空へ噴き上がる。

 

――ジュエルシード。

 

一瞬で理解した。

 

「……やっぱりな」

 

街から少し離れているとはいえ、被害が出る距離だ。しかも、水の中に本体があるタイプ。なのはやフェイトが対応する前に、街を飲み込む。

 

デルタが興奮気味に叫ぶ。

 

「ボス!でっかいのいる!」

 

「見えてる。……ここは俺が行く」

 

カードケースを取り出す。

今回の相手に対して、下手に空を飛ぶのは危険だ。

それを考えれば、水中戦。気配を消せて、機動力があって、なおかつ内部に干渉できる――

 

選ぶまでもない。

 

ディケイドライバーにカードを滑り込ませる。

 

『KAMEN RIDE… OOO!』

 

青い光が弾け、身体が沈むように変質する。

 

『FOAMRIDE!シャウタコンボ!シャチ! ウナギ! タコ!シャ・シャ・シャウタ! シャウタ! シャウタ!』

 

装甲が水色に染まり、身体が一瞬、液体に近い感触へと変わった。

 

「留守番な、デルタ」

 

「む……わかった!」

 

俺はそのまま、ためらいなく海へ飛び込んだ。

 

水の中は、静かだった。

 

音が遠い。光が歪む。

シャウタの感覚が、身体と海の境界を曖昧にする。水を蹴っているのに、泳いでいる感覚がほとんどない。滑っているみたいだ。

 

ジェルシードの反応はすぐに見つかった。

 

巨大な水の塊の奥、核のように光る影。

周囲の水と一体化して、暴走体そのものが“環境”になっている。

 

まずは、あれだけ叩く。

 

ライドブッカーを構えず、あえて距離を取る。

攻撃しない。近づくだけ。

 

案の定、気付かれない。

 

水と一体化しているせいで、こちらの存在が“異物”として認識されないらしい。

そのまま核の近くまで回り込み、刃を一閃。

 

水の流れが一瞬だけ乱れ、水柱の勢いが鈍る。

 

「……よし」

 

次の瞬間、波が不自然に跳ねて、少女の身体が海へ投げ出されたのが見えた。

 

「……あいつはあの時のっ、ちっ」

 

反射的に泳ぐ。

一瞬で距離を詰め、腕を掴んで引き寄せる。

 

フェイトは水を吐き、必死に息を吸い込んだ。

 

「・・・大丈夫のようだな」

 

目を開いた瞬間、俺の仮面を見て、完全に固まっている。

 

説明している暇はない。

 

そのまま海面へ浮上すると共に。

 

「フェイトちゃん!」

 

見上げると、そこにはなのはがいた。

どうやら、彼女も、この現場に来ていたようだ。

 

「あなたは、仮面ライダーさん」

「・・・」

 

さすがに、こちらの正体が分からないようだ。

そして、フェイトと呼ばれた少女はこちらを見て、驚く。

それと共に、彼女は、すぐにその場から飛びながら、警戒する。

 

「・・・一体、何が目的なんですか」

 

その際に、俺はゆっくりと声を変える。

これまで、何度も行ってきた事として。

 

「あれがあると、面倒だから、止めに来た。お前らが、あの中にある物が欲しいならば、さっさとしろ。動きは止めてやる」

 

そうして、俺は、その場からすぐに離れる。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。