オーロラカーテンを抜ける寸前だった。
色の層が重なった膜の向こうに、次の座標が見えている。半歩踏み出せば切り替わる――その瞬間に、空気の密度が変わった。
来る。
長年の戦闘で染みついた直感が、理屈より先に警鐘を鳴らす。俺は足を止めず、体だけを半回転させた。視界の端で光が走る。斬撃。ゼロの手刀。光の粒子を引き裂きながら、カーテンそのものを叩き割るつもりの軌道だった。
「逃がすと思った?」
声は軽い。だが殺気は濃い。遊びの延長で人を壊せる種類の圧だ。
オーロラの縁が裂け、世界の境目が歪む。普通の攻撃ならすり抜けるはずの位相層に、無理やりねじ込んできた。力任せに境界を殴っている。だからこそ荒い。だからこそ読める。
俺はライドブッカーを反転させ、柄で受けた。金属音じゃない。光同士が噛み合った鈍い振動が腕を伝う。重い。だが勢いだけだ。芯がない。
半歩ずらし、そのまま受け流す。斬撃は俺の肩をかすめ、背後の岩を真っ二つにした。
「通路に手を出すな。危ないぞ」
忠告のつもりで言ったが、相手は笑うだけだった。
「壊れるなら、その程度の道ってことだろ?」
やっぱりだ。使っている力の出所はヒーローでも、思想が怪人側だ。
オーロラカーテンが不安定に揺れる。座標が崩れる前に決める必要がある。観察は終わっている。分類も済んでいる。
強い。だが、雑だ。
ヒーローの姿をした、アナザー寄りの存在。
「何を見てる?」
「ズレてるって話だ」
「は?」
「お前の戦い方。守る側じゃない」
言葉の意味が通じていない顔だった。ますます確信が強まる。力を選んだ理由と、力の使い方が一致していない。
だから、伸びない。
俺はカードを抜いた。指先で回す。次の手を決める。
真正面から付き合う相手じゃない。テンポを壊す。主導権を奪う。人格ごと戦闘を乱すタイプがちょうどいい。
「次は何だ?」
ゼロの姿のまま構え直す。さっきよりも一歩深く。焦りが混ざった証拠だ。
カードを押し込む。
『KAMEN RIDE DEN-O!』
赤い電車のラインを思わせる光が走り、装甲が連結するように全身へ展開される。重心が変わる。感覚が切り替わる。スピードではなく“テンポ”で戦うフォームだ。相手のリズムを奪い、間合いを壊す。
目の前のゼロが、わずかに眉をひそめた。
「……また別の力か。節操がないな」
節操で戦場は生き残れない。
俺は肩を回し、剣先を軽く振る。空気の手応えを確かめる。オーロラの残滓が刃に絡んで、火花みたいに散った。
「俺、参上!」
言葉と同時に踏み込む。宣言は合図だ。自分へのスイッチでもあるし、相手へのノイズでもある。戦いは技術だけじゃない。リズムと心理の取り合いだ。
ゼロが迎撃に腕を振るう。光の打撃。真正面からなら重い一撃。だが俺は半歩ずらし、刃の腹で滑らせる。受けるんじゃない。通す。流す。空振らせる。
「さっきより軽いな」
「戦い方を変えただけだ」
「ヒーローの力で小細工か?」
「壊すだけが能じゃない」
足元の地形、カーテンの歪み、相手の癖。全部まとめて利用する。電王の戦い方は直線じゃない。崩して、誘って、叩く。
ゼロが連撃に切り替える。速い。だが素直すぎる。攻撃の“意味”が全部同じだ。だから崩せる。
俺はわざと一発、浅く受けた。火花が散る。相手が押し込んでくる。その瞬間に柄で弾き上げ、体を入れ替える。位置が逆転する。
「なっ——」
驚きが遅い。
「次、行くぞ」
剣を構え直す。オーロラカーテンの残光が背後で閉じる。逃げ道は消えた。舞台は固定された。
ここから先は、テンポ勝負だ。
電王の間合いで、試合を始める。