デンガッシャーをソードモードで握り直す。
手に伝わる重さがちょうどいい。軽すぎず、鈍すぎない。振り抜いた時に、相手のガードごと姿勢を崩せる重量だ。電王の型は理屈より勢い。だが、勢いだけじゃない。勢いに見せた“組み立て”だ。
踏み込む。
一撃目は大振りに見せた。ゼロの姿をした転生者は即座に反応し、両手のゼロスラッガーを交差させて受ける。金属音じゃない、光同士の軋みが弾けた。
「そんな雑な——!」
言い終わる前に二撃目。
今度は逆袈裟。軌道を途中でねじ曲げる。防御の角度が一瞬遅れる。火花が散る。
三撃目。四撃目。
止めない。考えさせない。守らせ続ける。
「くっ……!」
ゼロスラッガーが回転し、防御面積を広げる。悪くない判断だ。だが、完全に“受け”に回っている。攻撃の主導権は全部こっちだ。
「どうした、壊しに来たんじゃないのか」
「うるさい!」
振り下ろし。
受け止められるのを前提に、さらに押し込む。力比べに見せて、足運びで角度をずらす。接触点が滑り、ゼロの体勢が半歩崩れる。
電王の戦い方は、喧嘩だ。
綺麗な型じゃない。だが、実戦ではこっちの方が強い。
「オラオラオラッ!」
モモタロスを思わせる荒い勢いで連撃を叩き込む。リズムは崩さないが、間隔はわざと不規則にする。相手の学習を無意味にするためだ。
縦。横。突き。柄打ち。
剣術と乱打の中間。読みづらい暴力。
ゼロの転生者はゼロスラッガーを盾のように使い、完全防御に切り替えている。攻める余裕がない証拠だ。
「さっきの威勢はどうした」
「防御を崩せないなら同じだ!」
「崩れてるさ。もうな」
次の一撃は振らない。
代わりに踏み込み、至近距離でデンガッシャーの柄を叩き込む。鳩尾。光の装甲越しでも衝撃は通る。
ゼロの身体がわずかに浮いた。
そこへ追撃。
下からすくい上げる斬撃。防御が間に合う。だが腕ごと跳ね上がる。ゼロスラッガーのガード位置が開く。
「がっ——!」
「守るのは上手い。だがな」
剣先を喉元で止める。
一瞬の静止。間合いの支配。
「守るだけの戦い方は、守る理由がある奴の型だ。お前のは違う。壊すための防御だ」
蹴りを入れて距離を取る。
転生者はよろめきながらも体勢を戻すが、呼吸が乱れている。さっきまでの余裕がない。
テンポは完全にこっちだ。
ゼロの動きが変わった。
押され続けていた防御の型から、ほんの一瞬だけ刃が前へ出る。ゼロスラッガーが円を描かず、一直線に伸びた。狙いは喉元。さっき俺が作った間合いを、そのままなぞるような軌道だった。
悪くない。
守り一辺倒から、隙狙いへ。だが遅い。
「取った!」
転生者が笑う。
ゼロスラッガーの光刃が、空気ごと切り裂きながら迫る。
その瞬間、俺はデンガッシャーを引かない。
代わりに、空いている手を反転させる。
ライドブッカー――ガンモード。
構える動作すら最小限。
引き金だけを引く。
光弾が至近距離で炸裂した。
「なっ——!」
ゼロスラッガーの軌道が弾かれる。直撃じゃない。刃の根元を叩いて、角度を狂わせただけだ。だが、それで十分だ。狙いは命中じゃない。リズム破壊。
爆ぜた光に反応して、転生者は反射的に後ろへ跳ぶ。
防御優先の後退。攻めの流れが完全に途切れる。
「距離、空けすぎだ」
入る。
踏み込みと同時に、ライドブッカーを戻す。
銃から剣へ。無駄のない切り替え。
デンガッシャーを振り抜く。
横一閃。
勢い任せに見せて、軌道は正確にゼロスラッガーの防御ラインの外側を通す。受ける角度が作れない位置。光の装甲をなぞり、火花が一直線に走った。
衝撃が遅れて届く。
ゼロの身体が横へ弾き飛ばされ、地面を滑った。
装甲の一部が砕け、光が漏れる。
呼吸が乱れている。
もう余裕の笑みはない。
「……くそ……!」
「隙は悪くない。だがな」
デンガッシャーを肩に担ぐ。
「俺の前で、“一回だけ”の勝負を狙うのはやめとけ」
ライドブッカーをソードモードへ戻す。
銃口が折り畳まれ、刀身が展開する。黒い刃が月光を細く弾いた。
ゼロの姿をした転生者が、わずかに間合いを取り直す。呼吸が乱れている。視線が忙しい。デンガッシャーとライドブッカー、二つの刃を交互に見ている。
理解が追いついていない顔だ。
「なんだよ、その戦い方……! データにない!」
「そりゃそうだ。今、組んだ」
型にない動き。
世界の外から持ってきた癖。
ライダーの力に、俺の戦歴を混ぜる。それだけだ。
カードを抜く。
迷いはない。
ネオディケイドライバーへ叩き込む。
『FINAL ATTACK RIDE DE DE DE DEN-O!』
空気が震える。
足元に赤いラインが走り、電車の軌道のようなエネルギー導線が展開される。時間感覚が一段、加速する。
ゼロが身構える。
だが、読み切れていない。何が来るか分からない防御は、必ず遅れる。
俺は二刀で構えた。
右手にデンガッシャー・ソードモード。
左手にライドブッカー・ソードモード。
「俺の必殺技ディケイドバージョンっ!」
踏み込む。
同時に、二振りの刀身にエネルギーが走る。
赤とマゼンタの光が刃を覆い、像がぶれる。残像じゃない。斬撃の位相を一時的に分割している。
一振りが、数太刀に見える。
「分身だと!?」
違う。
斬撃そのものを増やしている。
最初の交差斬。
ゼロスラッガーで受けに来る。だが接触した瞬間、刃が“増える”。一本のはずの軌道から、複数の斬線が同時に走る。
火花が連続して弾けた。
「ぐっ……!」
二撃目。三撃目。四撃目。
間を空けない。テンポを与えない。
ゼロの防御は正確だ。
だが対象が一本前提のガードだ。複数同時の斬撃には追いつかない。
「そんな――」
後退しながらスラッガーを回転防御に切り替える。判断は早い。だが遅い。もう圏内だ。
俺は体を沈め、最後の一歩を滑り込ませる。
二刀同時――横薙ぎ。
増幅された斬撃群が重なり、ゼロの防御ごと貫通した。
光の装甲が耐えきれず、線になって裂ける。
一拍遅れて、衝撃が爆ぜた。
ゼロの姿が吹き飛ぶ。地面を跳ね、転がり、動きが止まる。変身が維持できず、光が崩れた。
静寂。
俺は刃を振ってエネルギーを払う。
残光が夜に溶けた。
「知らない組み合わせには、知らない答えが来る」