悪魔と呼ばれ慣れて 3rd   作:ボルメテウスさん

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雷の背後関係

写真館に戻ると、夜の湿った空気がふっと緩んだ。

外ではまだ街のどこかが騒がしいはずなのに、この場所だけは時間が一拍遅れているみたいに静かだ。現像液の匂いと、古い木材の軋み。その全部が「戻ってきた」と身体に教えてくる。

 

デルタは何も考えずにソファへ倒れ込み、ゼータは壁際に立ったまま腕を組む。イータはカウンターの影で、いつも通り観察者の顔だ。

俺はその三人を見渡してから、戦いの後に残った“違和感”だけを切り出した。

 

「……雷だ」

 

ゼータが首を傾げる。

 

「雷?」

 

「ジュエルシードを狙った、あの雷。狙いが雑に見えて、妙に正確だった」

 

イータがすぐに理解したように、視線を細める。

 

「偶発的な魔力放電ではない。誘導性があった……そういうことですね」

 

「ああ。フェイトが前に出た瞬間だけ、明らかに密度が変わった」

 

ゼータが息を吐く。

 

「つまり、ジュエルシードそのものじゃなくて……」

 

「フェイトだ。正確には、フェイトの“背後”」

 

言葉にした瞬間、はっきりした。

あの雷は、排除でも警告でもない。試すような、測るような一撃だった。

 

イータが腕を組み直す。

 

「フェイト個人を直接狙えばいいはずなのに、そうしなかった。意図的に距離を保っている」

 

「管理してる気分なんだろうな。表に出ず、必要な時だけ力を落とすタイプだ」

 

ゼータは少し苛立ったように舌打ちした。

 

「面倒な相手だ。で、そのフェイト本人は?」

 

その一言で、場に小さな沈黙が落ちた。

なのはとも、管理局とも一緒にいない。居場所が掴めない。

 

「単独行動の可能性が高いな」

 

俺がそう言うと、イータも頷いた。

 

「精神的に追い詰められている状況。誰にも見られずに動こうとするのは自然です」

 

ゼータが腕を解く。

 

「でも、当てがなきゃ探せない」

 

その時だった。

 

ソファに転がっていたデルタが、唐突に上半身を起こした。

 

「分かるぞ」

 

俺とゼータの視線が同時に飛ぶ。

 

「何がだ」

 

「フェイト。匂い、覚えてる」

 

一拍。

二拍。

 

「……は?」

 

「いや、待てデルタ。今、何を当然みたいに言った」

 

デルタは不思議そうに首を傾げる。

 

「前に一回、近くにいた。甘いけど、雨の後みたいな匂い。まだ残ってると思う」

 

ゼータが額を押さえる。

 

「……追跡犬か、お前は」

 

俺も思わず突っ込む。

 

「それ、もっと早く言え」

 

「聞かれなかった」

 

即答だった。

 

イータが一瞬考え込み、淡々と補足する。

 

「嗅覚記憶が異常発達していると仮定すれば……理論上は成立します」

 

「理論で片付けるな」

 

デルタはもう立ち上がって、入口の方を見ている。

 

「行くか? 遠くない」

 

ゼータが俺を見る。

俺は肩をすくめた。

 

「……雷よりは信用できる手掛かりだ」

 

写真館の空気が、少しだけ前に進んだ。

フェイトの背後にいる“何か”へ向かう道筋が、ようやく形を持ち始めていた。

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