悪魔と呼ばれ慣れて 3rd   作:ボルメテウスさん

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写す過去

「……何を言っているんだ」

 

思わず、そう零れていた。

声に込めたつもりはなかったが、否定と困惑が混じっていたのだと思う。

プレシアは、その一言に即座に反応した。

こちらを射抜くような視線。怒りとも、焦りともつかない、だが間違いなく強い感情を孕んだ睨みだった。

 

正直に言えば、俺はまだ“アルハザード”という言葉を理解していない。

どんな場所で、どんな法則があり、何を成せる世界なのか。

その輪郭は、プレシアの語りからも掴みきれなかった。

だが――もし。

もしも、彼女の言うアルハザードが、俺がかつて立っていた世界の延長線上にあるものだとしたら。

それだけは、はっきりと否定できる。

 

「言った言葉の通りだ」

 

自分でも驚くほど、声は静かだった。

感情をぶつける必要はない。

事実を伝えるだけでいい。

 

「お前の言うアルハザードなんて世界はない。

 そして……仮に俺のいた世界に辿り着けたとしても、

 お前の望みは、そこでは叶わない」

 

プレシアの望みが何なのか。

彼女はまだ口にしていない。

だが、その目を見れば分かる。

焦点の合わないほどに一点だけを見つめ、

そこから目を逸らせば崩れてしまいそうな、危うい光。

 

――ああ、そうか。

この眼だ。

俺は、何度も見てきた。

 

「……あんた、大切な人を蘇らせたいんだろ」

 

言葉にした瞬間、空気が凍った。

プレシアの肩が、ほんのわずかに跳ねる。

それだけで十分だった。

 

「っ……」

 

一歩、後ろに下がる。

図星だ。

否定の言葉は出てこない。

代わりに、彼女の呼吸が乱れるのが分かる。

 

俺は、アルハザードという言葉は知らない。

だが、プレシアが語る断片――

“失われた力”“すべてを超えた叡智”“奇跡を可能にする世界”。

それらを繋ぎ合わせると、どうしても一つの記憶に辿り着いてしまう。

 

かつて、俺が生まれ育った世界。

ジオウの世界。

あの世界は、最初から歪んでいた。

いや、歪められていたと言うべきか。

 

無数の世界が、強引に一つへと融合していく。

それぞれに異なる歴史、異なる法則、異なる“常識”。

超古代の力が存在する世界。

超能力が存在する世界。

魔法が密かにあった世界。

人の理を簡単に踏み越える力が、確かに存在していた。

仮面ライダーの歴史が集った世界というのは、本来ではあり得ない多くが集まっている。

 

その中には――

確かに、“死者が戻る”ように見える現象もあった。

 

だが、俺は知っている。

それがどれほど残酷な結果を生むかを。

 

生き返るのは、都合のいい奇跡じゃない。

取り戻したつもりで、失うものの方が増えていく。

命の代わりに、世界が軋む。

歴史が歪み、人が壊れる。

 

プレシアが思い描いているような、

「ただ願えば、ただ救われる」世界じゃない。

 

だからこそ、俺は言える。

はっきりと。

 

――そこに行っても、救いはない。

あるのは、取り返しのつかない現実だけだ。

プレシアの前に立ちながら、俺は一歩だけ距離を詰めた。

怒鳴る気はない。説得する気もない。ただ、事実を並べるだけだ。

 

「……なあ」

 

低く声を落とすと、彼女の指先がわずかに震えたのが分かった。

俺はそれを見逃さない。

 

「過去に縋る人間ってのはな、だいたい同じ顔をする。

 前を見てるつもりで、実際は“後ろの写真”しか見てない」

 

プレシアの視線が鋭くなる。

けれど否定はしない。その沈黙が、答えだ。

 

「写真ってのは便利だ。

 色あせないし、裏切らないし、思い出を好きな形で保存できる」

 

俺は空を指でなぞる。

そこに写真立てでも置くみたいに。

 

「でもな、写真は生きてない」

 

一拍置く。

あえて、ゆっくりだ。

 

「呼びかけても返事はしない。

 泣いても、抱きしめ返してはくれない。

 都合のいい記憶だけを映す、ただの紙切れだ」

 

プレシアの肩が、わずかに揺れた。

図星だ。確実に刺さっている。

 

「お前がやろうとしてる事は、それを“現実”にしようとしてる。

 過去を現像し直して、今を塗り潰す行為だ」

 

「……黙りなさい」

 

震えた声で、プレシアが言う。

だが俺は止めない。

 

「失った人間を取り戻したい気持ちを、否定するつもりはない。

 俺だって、そう思った事はある」

 

事実だ。

何度も、何度も。

 

「けどな……」

 

俺は一歩、引いた。

距離を取る事で、言葉の重さだけを残す。

 

「過去に生きるって事は、

 今を“記録扱い”するって事だ」

 

プレシアの瞳が揺れる。

怒りと悲しみと、逃げ場のなさが混ざった色。

 

「今この瞬間を生きてる人間を、

 『どうせ後でやり直す』って切り捨てる覚悟があるなら……

 それはもう、愛じゃない」

 

「……それでもよ」

 

プレシアが、顔を上げた。

歪んだ笑み。引き返せない人間の顔だ。

 

「それでも私は、戻る道を選ぶ。

 たとえそれが、間違いでも」

 

俺は息を吐いた。

重たい空気が、胸に落ちる。

 

「そうか」

 

否定もしない。

肯定もしない。

 

「なら覚えとけ。

 写真に縋ったままじゃ、“今”は二度と写らない」

 

それと同時だった。

プレシアが手にした物に、俺は見つめる。

 

「それは」

「イレギュラーから手に入れた代物よ」

 

そうして、手にした代物、ダークゼットライザーだった。

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