悪魔と呼ばれ慣れて 3rd   作:ボルメテウスさん

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代理品

ダークゼットライザー――

それについては、これまで巡ってきた数多の世界の中で、実物を目にしたことはない。

だが、噂だけなら聞いたことがある。

正確には、「耳に入ってしまった」と言うべきかもしれない。

酒場の片隅、研究施設の廃墟、あるいは戦いの後の瓦礫の中で、誰かが吐き捨てるように語っていた名前だ。

 

――ウルトラマンでもなく、仮面ライダーでもない。

――人が、怪獣になるための道具。

 

冗談めいた言い回しの裏に、確かな恐怖が混じっていたのを覚えている。

だからこそ、その名がプレシアの口から出た瞬間、胸の奥がわずかに軋んだ。

 

「あなた相手では、これを使わなければならないから」

 

その声音に、迷いはない。

怒りでも、衝動でもない。

すでに覚悟を終えた者の、淡々とした宣告だった。

 

プレシアはダークゼットライザーを手に取り、そこへメダルを装填する。

金属同士が噛み合う乾いた音が、やけに大きく響いた。

静まり返った空間に、その音だけが落ちる。

まるで、引き返す道を断ち切る合図のように。

 

彼女は、ゆっくりと構えた。

急がない。焦らない。

その姿は、武器を振るう戦士というより、実験装置を起動させる研究者に近い。

 

「やるしかないか、変身」

 

俺は短く呟き、ネオディケイドライバーを腰に巻く。

既に指は自然とカードの位置を覚えている。

逡巡はない。

この距離、この空気、この視線――戦いはもう始まっている。

 

『KAMENRIDE DECADE!』

 

音声と同時に、視界がマゼンタに染まる。

装甲が身体を包み込み、世界との距離感が一段階変わる。

重力、空気、音――すべてが“戦場用”に再調整されていく感覚。

 

それとほぼ同時に、プレシアの姿も変わり始めていた。

 

『Tri-King.』

 

低く、重い音声が鳴り響く。

空気が震え、彼女の輪郭が歪む。

人の形を保ったまま、しかし確実に“別の存在”へと書き換えられていく。

 

ダークゼットライザー。

それは、ウルトラマンへと変身するためのアイテムじゃない。

怪獣へと変身するための――いや、“怪獣になる”ための装置だ。

 

この世界に来て、既にウルトラマンゼロへと変身する力を持つ者と遭遇している。

だから、人が光の戦士になるという現象自体は、理解していた。

理屈の外側にある力だとしても、前例がある以上、受け入れはできる。

 

だが、問題はそこじゃない。

 

「お前の力もっ……私の物にする!!」

 

叫びと共に、眼前の存在が完全に怪獣の姿を取る。

だが、その大きさは人間と変わらない。

巨大化による圧殺ではなく、等身大のまま襲いかかってくる怪獣。

 

それだけで、危険度は跳ね上がる。

 

以前、ウルトラマンゼロに変身していた者と同じだ。

力は怪獣、動きは人間。

理性を失っていない分、ただ暴れる怪獣よりも厄介だ。

 

さらに、プレシアは元々魔道士。

怪獣の身体から放たれる光線は、単なる本能的な攻撃じゃない。

魔法の応用――

照準、出力、角度、そのすべてが計算され、制御されている。

 

空気が震え、青白い電撃が走る。

続けて放たれる光線が、直線ではなく“狙いを修正しながら”こちらへ迫る。

 

直撃すれば、装甲ごと削られる。

 

俺は踏み込み、手にしたライドブッカーを構える。

刃を滑らせるように振り、光線の軌道を逸らす。

受け止めない。

正面からぶつかれば、力負けするのは分かっている。

 

電撃が床を焦がし、爆ぜた破片が跳ねる。

衝撃と熱が装甲越しに伝わるが、足は止めない。

 

距離を保ちながら、俺は考える。

怪獣の力。

魔法の制御。

等身大の機動力。

 

どこかに綻びはあるはずだ。

それを見つけるまで、耐えるしかない。

 

光線を弾き、電撃を躱し、刃で流す。

火花が散り、視界が白く瞬いた。

「本当に、面倒だな。そんなに生き返らせたいのは誰なんだ」

 

言葉にした瞬間、空気が変わった。

ほんの一瞬だったが、プレシアの動きが止まり、次いで感情が爆発する予兆が走る。

怒りとも悲しみとも違う、長年蓄積された執念が、圧として周囲に滲み出した。

 

「娘よ! 本物のね!」

 

叫びと同時に、彼女は大きく後方へ跳ぶ。

距離を取るための退避ではない。

次の力を解放するための“間”だ。

床を蹴る衝撃が空気を震わせ、視界の端で魔力の流れが一気に膨れ上がる。

 

「娘、フェイトとか言う子じゃなくてか」

 

俺の言葉は淡々としていたが、その裏で思考は高速で回っていた。

この反応。

この拒絶の仕方。

答えは、もう出ている。

 

「あの子はクローン、つまりは私にとっては偽物よ」

 

吐き捨てるような言葉と同時に、決定的な音が鳴り響く。

 

『Five King.』

 

重く、禍々しい音声。

その瞬間、プレシアの姿は完全に変質した。

ファイブキング――複数の怪獣因子が融合した、より攻撃性に特化した形態。

人間サイズのまま、しかし圧倒的な“質量”を感じさせる存在感が、空間そのものを歪める。

 

即座に放たれる光線。

さっきまでとは桁が違う。

一本一本が太く、速く、そして容赦がない。

魔法的制御はさらに洗練され、回避先を読んだように軌道を変えながら迫ってくる。

 

「最初こそ彼女を娘として愛した! けれど、所詮はクローン!

あれは、アリシアじゃなかったのよ!」

 

叫びながら撃ち続けるその姿は、もはや説得を拒む狂気だ。

だが、俺は下がりながらも、視線を逸らさない。

逃げているわけじゃない。

“聞く”ために距離を取っている。

 

「お前、頭が良い癖にそんな簡単な事も分からないのか」

 

一歩、さらに後退しつつ言い放つ。

光線が肩を掠め、装甲が焼ける匂いが鼻を突く。

 

「何?」

 

その一言に、僅かな揺らぎ。

俺はその隙を逃さない。

 

手にしたのは、一枚のカード。

次の段階へ進むための切符だ。

 

「ある2人の夫婦がいた。その夫婦はお前のように愛する娘を失い、娘と瓜二つの存在を生み出した。

だが、父親は、それを自分の娘だと拒んでいた」

 

話しながら、俺はネオディケイドライバーへカードを装填する。

金属音が、戦場に不釣り合いなほど静かに響く。

 

「けれど、記憶の中にある娘を愛している想いもあったこと。

本当の愛を与えるべきであった娘が『誰かを愛する心』を手に入れていたこと。

娘の代用品でも道具でもなく、“もう1人の娘”であったことを理解した」

 

プレシアの動きが、ほんの僅かに乱れる。

それが答えだ。

 

「お前もそれを理解したからこそ、認めたくないからこそ、拒絶したんじゃないのか」

 

その一言が、決定打だった。

 

「黙れぇぇぇぇ!!」

 

感情が完全に振り切れ、プレシアは魔力の限界を無視したような攻撃を叩き込んでくる。

光線、電撃、衝撃波。

空間を埋め尽くす暴力の奔流。

 

だが――遅い。

 

それよりも速く、俺は次のカードを装填していた。

 

『KAMENRIDE GEATS

GET READY FOR BOOST & MAGNUM』

 

世界が一気に切り替わる。

装甲が再構築され、視界が研ぎ澄まされる。

ギーツの感覚。

未来を読むような直感が、身体の奥から湧き上がる。

 

迫る攻撃を、マグナムシューター40Xで弾き、逸らし、撃ち落とす。

同時に、脚部のブースターが火を噴き、地面を蹴るたびに爆発的な加速を生む。

光線の隙間を縫うように移動し、致命点だけを避け続ける。

 

「さぁ、ここからがハイライトだ」

 

呟きながら、俺は構えた。

説教は終わった。

次は、力で理解させる番だ。

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