「ハイライトだと、姿が変わった程度で、何が出来るんだ!」
嘲るような声と同時に、空気が軋んだ。
ファイブキングの巨体がわずかに前傾し、五体分の力が一斉に解放される兆しが走る。
融合怪獣特有の“重さ”が床を伝い、魔力と怪獣因子が渦を巻く。
攻撃は来る。しかも正面から、力任せに。
「さぁな、試してみるか」
軽く返したその一言が、合図だった。
プレシアは迷わない。
光線、電撃、衝撃波――五種の力が同時に編成され、殺意だけを最短距離で通そうとする。
だが、その“最短”は、俺にとっては読み切った線だ。
脚に力を込め、床を蹴る。
瞬間、視界が加速し、重力が後方へ引き剥がされる感覚。
走りながら、既にマグナムシューター40Xの引き金は引かれていた。
ハンドガンモード。
連射に特化した形態から、光弾が途切れることなく放たれていく。
狙いは一点――融合の要となる前面。
「無駄よ!」
プレシアが前に押し出したのは、ファイブキングを構成する怪獣の一つ、ガンQ。
巨大な眼球が開き、放たれた光弾を次々と呑み込む。
エネルギーは吸収され、蓄積され、逆流の準備に入る。
防御であり、攻撃でもある。
他の怪獣因子とは明確に異なる、“受けて返す”役割。
だが――
「それを知っていたら、対策はあるんだよな」
連射は止めない。
むしろ、わざと撃ち続ける。
吸わせるためだ。
同時に距離を詰め、腰のケータッチ21へ指を走らせる。
再び、こちらへ放たれるエネルギー弾。
ガンQが溜め込んだ力を、そのまま叩き返してくる。
直撃すれば、並の防御では持たない。
しかし。
『REVOLVE ON』
音声が鳴り響いた瞬間、世界が“切り替わる”。
接近に合わせてリボルブリングが展開され、俺はその場で一回転。
上下のアーマーが入れ替わり、重心と出力が前に出る。
ブーストマグナムフォーム。
吸収の途中だったガンQの眼が、完全に閉じる前に――
俺は踏み込み、そのまま拳を叩き込んだ。
「なっ!」
衝撃は内部へ抜けた。
エネルギーではなく、純粋な“質量”と“速度”の塊。
吸収しきれない物理衝撃が、ガンQの構造を破壊する。
「ガンQは確かにエネルギー吸収に優れているが、ファイブキングになった事によって、それに特化している。故に物理による攻撃には弱い!」
腕のマフラーが唸りを上げ、加速が拳に乗る。
次の瞬間、衝撃が爆発し、プレシアの巨体が後方へ吹き飛ばされた。
「ぐっ!!」
床を抉りながら滑るその姿を、俺は逃がさない。
追撃のため、再びケータッチ21を操作する。
『REVOLVE ON』
今度は逆。
重心を引き戻し、射撃に最適化。
マグナムブーストフォーム。
マグナムシューター40Xを構え直し――
『RIFLE』
変形音と同時に、銃身が延びる。
引き金を引く。
放たれた一撃は、怪獣たちの“眼”を正確に撃ち抜いた。
破壊ではない。
視界と制御の遮断だ。
「私はっ私はっ」
プレシアの声が揺らぐ。
その瞬間、聞こえた。
「母さんっ」
視線の先。
そこにはフェイトがいた。
息を切らし、必死に前へ出ようとしている。
それだけじゃない。
いつの間にか、なのはと管理局員たちも到着していた。
「あれが、プレシア・テスタロッサなのか。イレギュラーの持つ力を利用した結果」
背後の声を聞き流しながら、俺は前を向いたまま告げる。
「・・・離れてろ、すぐに終わらせる」
驚きと緊張が背後で膨らむのが分かる。
だが、ここで迷うつもりはない。
――その時。
「待って下さいっ」
なのはの声だった。
「フェイトちゃんに、話をさせてください」
一瞬、引き金に掛けた指が止まる。
「・・・それは終わった後でも出来るはずだ」
「それは、分かっています。けれどっ」
声が震えている。
恐怖じゃない。
覚悟と迷いが混じった震えだ。
戦場で、誰かを信じようとする声。
俺は、ほんの一瞬だけ、状況を測り直した。
なのはの声は、戦場にはあまりにも小さく、あまりにも真っ直ぐだった。
理屈も、勝算も、戦術的優位も含まれていない。ただ――「話をさせてほしい」という願いだけがあった。
俺は一瞬、指先に残っていた引き金の感触を確かめ、それからゆっくりと銃口を下げた。
ギーツの装甲越しでも、背後で管理局の連中が息を呑む気配が分かる。
この状況で手を止めるという選択が、どれほど異質かは自覚している。
それでも――。
子供の願いを、力で踏み潰すつもりはなかった。
フェイトはまだ子供だ。
奪われ、利用され、選択肢を与えられないままここまで来た子供だ。
そんな彼女が「話したい」と願うなら、それを無碍にする権利は、俺にはない。
そして、なのはの声。
あの迷いを含んだ声は、それでも逃げずに前を向いていた。
結果がどうなるか分からなくても、可能性を信じようとする声だった。
――信じてみる価値はある。
俺は一歩、後ろへ下がった。
それは撤退でも、降伏でもない。
場を譲るという意思表示だ。
装甲の奥で、短く息を吐く。
「……行け」
声は低く、短い。
命令とも、許可とも取れる曖昧な一言。
だが、それで十分だった。
なのはがはっと息を呑み、こちらを振り返る。
仮面越しに視線が合う。
ほんの一瞬だけ、彼女の目が揺れた。
――今の言い方。
――声の調子。
――場を見て、一歩引く判断。
なのはは、何かを感じ取ったようだった。
確信には至らない。
だが、胸の奥に引っかかる“既視感”のようなもの。
(……先生……?)
そんな感情が、ほんの一瞬、彼女の表情に滲む。
だが次の瞬間には首を振り、フェイトの方へ向き直った。
俺はそれを見届けながら、あくまで“通りすがりの存在”として立ち位置を崩さない。
ここで余計なことを言えば、彼女の判断を歪める。
だからこそ、促すのは一言だけでいい。
「……時間はやる。だが、長くはない」
それだけ告げて、半歩下がる。
戦場の主導権は、今この瞬間だけ、なのはとフェイトに預けた。
プレシアは歯を食いしばり、震える巨体を必死に抑えている。
怒りと執着と、どうしようもない渇望が渦巻いているのが、遠目にも分かる。
それでも、今は攻撃してこない。
“娘”という言葉が、彼女を縛っている。
――子供は、時に大人よりも残酷で、時に大人よりも正しい。
それを、俺は何度も世界を巡る中で見てきた。
だからこそ。
この場では、力を振るうよりも、信じることを選ぶ。
それが間違いだったとしても、その責任は――俺が取る。
なのはが、フェイトに向き合う。
震える声で、それでも逃げずに言葉を紡ごうとしている。
俺はその背中を、黙って見守った。