悪魔と呼ばれ慣れて 3rd   作:ボルメテウスさん

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踏み込んだ先に

ファイブキングの咆哮が、もう一度この空間を引き裂いた。

音そのものは変わらない。けれど、さっきとは違う。

今のそれは、理性を削り落とした末に残った感情の塊みたいな叫びだった。

 

「やめて……っ! お母さん、もうやめて!!」

 

フェイトの声が、胸に突き刺さる。

怒りでも、恐怖でもない。

あれは――拒絶だ。これ以上、失うことへの必死な拒絶。

 

俺は、振り返らない。

振り返ったら、迷う。

迷えば、次の一歩が鈍る。

 

ほんの少し前、確かにプレシアの心は揺れていた。

俺の言葉が効いたかどうかは分からない。

だが、あの一瞬だけは、確かに“母親”だった。

 

だからこそ、今の姿が余計に痛い。

 

ファイブキングが一歩、前に出る。

巨大な影がフェイトを覆いかけるのを見て、俺は無意識に前に出ていた。

 

「お願い……! 戦わないで……!」

 

フェイトの声が震える。

戦える力を持ちながら、戦いたくないと叫ぶ声だ。

その矛盾が、どれほど苦しいかは、俺も知っている。

 

俺は一度、息を吐いた。

そして、低く、はっきりと言う。

 

「……待て」

 

命令じゃない。

拒絶でもない。

 

「今は、待て」

 

「でも……このままじゃ……!」

 

その続きを、俺は遮らなかった。

代わりに、言葉を選ぶ。

慎重に、けれど逃げずに。

 

「倒した後だ。

 全部終わらせてからなら……もう一度、話せる」

 

その瞬間、フェイトの呼吸が詰まるのが分かった。

希望と恐怖が、同時に押し寄せた顔だ。

 

「だから、それまで――俺がやる」

 

守るとは言わない。

救うとも断言しない。

それでも、この場から逃げるつもりはない。

 

フェイトの視線を背中に感じながら、俺はファイブキングへ向き直る。

 

(……母親だろうが、怪物だろうが)

 

心の中で、静かに言葉を噛み締める。

 

(子供の前で、これ以上壊れるなら――止める)

 

プレシアの瞳は、もう理性より執着が勝っていた。

それでも、完全に捨てきれてはいない。

だからこそ、厄介で、そして――放っておけない。

 

砲口に光が集まり始める。

俺は足を踏み出す。

 

「……行くぞ」

 

誰に言ったわけでもない。

けれど、それはフェイトへの合図でもあった。

 

これは、勝つための戦いじゃない。

壊すための戦いでもない。

 

もう一度、話せる場所まで引き戻すための戦いだ。

 

そう決めて、俺は再び、戦場の中心へ歩き出した。

踏み込んだ瞬間、地面が砕けた。

ファイブキングの質量が動くたび、空気そのものが押し潰される。五体の怪獣が融合した圧力は伊達じゃない。正面から受ければ、なのはでもフェイトでも耐え切れないだろう。

 

だが――俺は、そこに立っている。

 

「……遅い」

 

自分でも驚くほど、声は落ち着いていた。

脚部のブースターが低く唸り、次の瞬間、視界が弾ける。

加速。

ファイブキングの放つ光線が、俺のいた“残像”を焼いた。

 

振り向きざま、マグナムシューター40Xを構え、引き金を引く。

弾丸は拡散せず、一点に収束して怪獣の関節部を撃ち抜いた。

硬い。だが、貫けないほどじゃない。

 

「っ、まだだ!」

 

プレシアの声が、怪獣の咆哮に混じる。

五つの頭部が同時に光を帯び、空間を塗り潰すような斉射が来る。

 

俺は跳ぶ。

上でも、横でもない。前だ。

 

衝撃波をブースターで踏み越え、装甲を掠める光線を紙一重でかわしながら、距離を詰める。

視界の端で、フェイトが息を呑むのが見えた。

 

(大丈夫だ。見てろ)

 

言葉にはしない。

ただ、その場に立ってみせる。

 

至近距離。

怪獣の巨体が拳を振り下ろすより早く、俺はカードを引き抜いた。

 

「――終わらせる」

 

ネオディケイドライバーにカードを叩き込む。

 

『FINALATTACKRIDE GE GE GE GEATS』

 

世界が一瞬、静止した。

次の瞬間、全身のエネルギーが一気に収束する。

ブースターが限界まで火を噴き、空間を裂くほどの推進力が生まれる。

 

「これ以上、壊させない」

 

踏み込み、跳躍。

光の尾を引きながら、俺はファイブキングの中心へ突き進む。

衝突――否、貫通。

 

圧倒的なエネルギーが、融合のバランスを破壊し、五体の怪獣の力が悲鳴を上げる。

爆発は、外へは広がらない。

俺が、全部押さえ込んだ。

 

地面に着地した時、背後で巨体が崩れ落ちる音がした。

振り返らない。

 

「……これで、話ができる」

 

そう呟いて、俺は変わらず、前を向いて立っていた。

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