悪魔と呼ばれ慣れて 3rd   作:ボルメテウスさん

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会議録

艦内特有の低い振動音が、会議室の床を通して伝わってくる。

 

円卓の中央には立体投影されたデータウィンドウ。

 

その中に映し出されているのは、一人の仮面の戦士――名は、未だ確定していない。

 

リンディは軽く咳払いをし、場を落ち着かせた。

 

「それでは、未登録存在――通称“仮面ライダー”に関する、最新の観測レポートを共有します」

 

エイミィが端末を操作すると、数値と映像が切り替わる。

 

だが、並んでいるのはグラフというより“空白”だった。

 

「……改めて見ても、ひどいデータね。測定不能、測定不能、また測定不能」

 

苦笑混じりの声に、何人かのオペレーターが同意するように肩をすくめる。

 

クロノは腕を組んだまま、投影を睨んでいた。

 

「魔力量の測定不能は、単に規格外というだけではない。

 

 魔力を基盤としない力体系……もしくは、我々の測定概念そのものを無効化している可能性が高い」

 

「ええ」とリンディが頷く。

 

「重要なのはそこではありません。この存在は、他のイレギュラーとは決定的に違う」

 

画面が切り替わり、過去に確認された転生者・イレギュラーの行動ログが並ぶ。

 

破壊、自己顕示、未来知識の悪用、過剰介入。

 

その隣に置かれた“仮面ライダー”の行動履歴は、あまりにも簡素だった。

 

「被害軽減、救助、戦闘後即離脱……」

 

なのはが思わず声を漏らす。

 

「……戦うために来てる、って感じじゃないですね」

 

「その通りよ、高町さん」

 

リンディは穏やかな口調のまま続けた。

 

「彼は勝利や支配を目的にしていない。

 

 必要なことだけを行い、余計な干渉を避けている」

 

クロノが補足する。

 

「管理局との直接衝突も、意図的に回避している節がある。

 

 こちらを“敵”とも“味方”とも定義していない……観測上は、そう見える」

 

エイミィが画面を拡大し、別の項目を表示した。

 

「問題はこっち。

 

 ジェルシードの行方と、それに関与したとされる人物――」

 

映し出されたのは、名前だけの簡素なデータ。

 

《海東大樹》

 

「この人物、詳細はほぼ不明。

 

 だけど、仮面ライダー本人が名前を聞いた瞬間、明確に嫌な顔をしたのは確認できてる」

 

「嫌悪、警戒……あるいは疲労ね」

 

リンディがため息混じりに言う。

 

「彼が唯一、感情を露わにした瞬間と言っていい」

 

クロノの表情が険しくなる。

 

「つまり、その海東という人物は……

 

 仮面ライダーにとって“無視できない存在”ということですか」

 

「そう考えるのが妥当でしょう」

 

会議室に、短い沈黙が落ちた。

 

なのはは、少し迷った末に手を挙げる。

 

「あの……質問、いいですか」

 

「どうぞ」

 

「その……仮面ライダーさんは、危険なんでしょうか?」

 

問いは、子供らしくも、核心を突いていた。

 

クロノは即答しかけて、言葉を選び直す。

 

「……危険“ではある”。

 

 ただし、意図的な敵意は確認されていない」

 

リンディが続ける。

 

「現段階での結論はこうよ。

 

 彼は管理局の管理下に置けない。だが、敵と断定する理由もない」

 

「監視対象、ってことですか?」

 

「ええ。ただし――」

 

リンディは一拍置いた。

 

「直接干渉は推奨されない」

 

エイミィが軽く肩をすくめる。

 

「下手に刺激したら、測れない分、こっちがどうなるか分からないしね」

 

クロノは静かに息を吐いた。

 

「皮肉な話だ。

 

 これほどの力を持ちながら、未来を知っている様子がない……

 

 転生者たちとは、根本から違う」

 

「だからこそ、厄介でもあり……希望でもある」

 

リンディはそう締めくくった。

 

「今後の方針は決まりました。

 

 この存在を“仮面ライダー”と仮称し、接触・対話を最優先。

 

 敵対は、最後の手段とします」

 

なのはは、胸の奥が少し軽くなるのを感じていた。

 

あの時、自分たちを助けた仮面の人影。

 

少なくとも――守ろうとしてくれた事実だけは、ここでも否定されなかった。

 

会議室の照明が少し落ち、データが閉じられる。

 

残ったのは、

 

管理局ですら測りきれない存在が、同じ世界を歩いているという事実だけだった。

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