ジュエルシードの事件が終えた後、なのはの立場は複雑だった。
胸の奥に残るのは達成感ではなく、静かに沈んだ石のような重さだった。確かに多くを守れたはずなのに、手のひらからこぼれ落ちた何かが、どうしても気になってしまう。
彼女は、ジュエルシードの事件を解決に導いた功労者だった。
そして、事件を通じて出会う事が出来たフェイトと友達になる事は出来た。
しかし、全てのジェルシードは謎の人物に持ち去られた。
「・・・結局、私は何も出来なかったのかな」
声に出した瞬間、胸の奥にあった小さな棘がわずかに疼いた。褒められても、誰かに感謝されても、心のどこかが納得していない。笑おうとすればするほど、言葉の裏に薄い影が残る。
「何を悩んでいる」
「ひゃぁ!?イータさん!?」
背後に立つ気配に、思わず肩が跳ねる。なのはは慌てて振り向き、見慣れた白衣の姿に目を丸くした。
そこには、何時もは店で見かける常連であるイータだった。
「何か悩み?」
淡々とした声音。けれど、その距離は近すぎず遠すぎず、逃げ道を残す優しさがあった。
「えっ、いや、悩みは」
言葉を選びながら視線を落とす。話したい。でも、全部は話せない。胸の奥で迷いが揺れる。
「最近、少し捜し物の手伝いをしていました。それを通じて、友達が出来たんですけど。その」
言葉が途中で止まる。楽しかった時間と、守れなかったものが同時に思い出されて、喉が詰まる。
「捜し物が見つからなかった?」
「えっ、はっはい!そうなんです」
言い当てられたことに、なのはの肩がわずかに震える。否定されると思っていた心が、拍子抜けするほど軽くなる。
「まぁ、そういう事もあるよ。なのはがやれる事はやったんでしょ」
責めるでも励ますでもない、事実を置くだけの言葉。なのはは少し考えてから、小さく頷いた。
「はい」
その返事には、迷いが混じっていた。けれど嘘ではない。
イータはゆっくりと手を伸ばし、なのはの頭を撫でる。
優しく、しかしどこか観察するような手つき。撫でられた瞬間、なのはの肩から力が抜けていく。誰かに「頑張った」と認められることが、こんなにも温かいのだと知る。
「頑張った、今はそれだけで良い」
その言葉は大げさな慰めではなく、ただ事実を肯定する響きだった。
「・・・ありがとうございます。それだけで少し元気が出ました」
笑顔を作ろうとして、なのはは少しだけ目を細める。完全に晴れたわけじゃない。でも、前を向ける気がした。
イータはそんな様子を静かに見つめる。
小さな背中。守るべき年齢のはずの少女が、誰かを守ろうとしている姿。そのアンバランスさに、胸の奥がわずかに痛む。
(それに、こっちの面倒事に巻き込んでしまったから)
表情は変えないまま、心の中でだけ呟く。
研究者としては観測対象。けれど、大人としては――守りたい存在。
なのははまだ知らない。
目の前の出来事の裏で、もっと大きな流れが動いていることも。
けれど今は、それでいい。
風が少しだけ吹き、木漏れ日が揺れた。
なのはは顔を上げ、さっきよりもまっすぐ前を見る。
イータはその変化を確かめるように一歩だけ後ろに下がり、距離を戻した。
見守る位置。
干渉しすぎない位置。