悪魔と呼ばれ慣れて 3rd   作:ボルメテウスさん

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犬猿の仲

夜道の真ん中で、先に空気を取ったのは海東だった。

青い複眼を光らせたディエンドが、ネオディエンドライバーを片手で軽く傾ける。あの余裕が気に入らないのは昔からだ。だからこそ、黙って見ている気もない。俺はネオディケイドライバーに指をかけ、短く息を切った。

 

「変身」

 

数拍ののち、街灯の白を受けて立つのはディケイドだった。

マゼンタの装甲が夜の色を弾き、腰のライドブッカーが手の中で開く。刃ではなく、選ぶのは銃。ガンモードへ変形したブッカーを構えた瞬間、馬場の視線がわずかに泳いだ。さっきまでの軽さが、そこで一度だけ止まる。

 

「へぇ……二人がかり?」

馬場が笑おうとする。けれど、声の芯が少しだけ薄い。

海東は肩をすくめ、俺は銃口を下げない。

 

「勘違いするな」

「そうそう。僕はただ、気に入らないだけだよ」

 

次の瞬間、青白い閃光が夜を裂いた。

ディエンドの一発目は、まっすぐ馬場の胸じゃない。右へ逃げる足を先に潰す、嫌に性格の悪い角度だ。馬場が半歩引く。その引いた先へ、今度は俺のライドブッカーが火を噴く。マゼンタの光弾が路面を抉り、逃げ道だったはずの場所に火花が散った。

 

撃ち合いは、単純な早撃ちじゃない。

海東が撃てば、俺はその先を撃つ。俺が塞げば、海東が残った隙間を削る。互いを狙っているようで、実際には馬場の立ち位置だけを切り詰めていく。昔からこうだ。こいつは相手の足場を奪うのがうまい。そして、そういう嫌な手口を見ていると、こっちの指も勝手に最短を選ぶ。

 

馬場がラッパラッターを持ち上げる。

合図を作る、その指の癖を見た瞬間、ディエンドの銃声がひとつ、乾いて跳ねた。金属の縁を掠め、ラッパが小さく鳴る。反射で指が浮く。その浮いた一拍を逃さず、俺は地面すれすれを撃ち抜いた。跳ねた火花と砕けた破片が馬場の足元へ散り、踏み替えの順番を乱す。

 

「っ、面倒くさいな……!」

 

吐き捨てるような声。

それでも馬場は止まらない。横へ切る。低く沈む。視線だけは、まだ家の方角を捨てていない。だから俺も、海東も、撃つ場所を変えない。胸を狙わない。殺しきるより先に、近づけない形にする。家へ続く線、その全部に弾を置いていく。

 

ディエンドの射撃は、見ていて腹が立つほどきれいだった。

一発で動かし、一発で読ませ、三発目で奪う。青白い閃光が連続で走るたび、馬場の身体がわずかに遅れる。そこへ俺のライドブッカーが差し込む。マゼンタの光が電柱の影を砕き、塀際の死角を削り、馬場をじりじりと街灯の真下へ追い上げた。

 

「ツカサ、そこ」

海東の声が飛ぶ。

言われる前に見えていた。けれど、あいつに言われると余計に癪だ。

 

俺は身体を半歩だけ開き、撃つ。

ディエンドの青と、ディケイドのマゼンタが交差した。二本の光が、馬場の前後を同時に断つ。前へ出れば撃ち抜かれ、後ろへ退けば焼かれる。馬場はそこでようやく立ち止まった。笑みはまだ消えていないが、もう最初みたいな軽さではない。

 

「……なるほど。そういう連携、してくるんだ」

 

「連携?」

海東が楽しそうに言う。

「心外だな。僕は僕の撃ちたいところを撃ってるだけだよ」

 

「俺もだ」

 

返しながら、銃口はぶれない。

二人分の照準が、夜道の一点へ重なる。家の灯りから遠ざけた場所で、馬場だけが取り残される。焦げた空気の匂いが濃くなる。次に動けば、今度こそその手を撃ち落とす。

そう分かるだけの静けさが、路地いっぱいに張り詰めていた。

街灯の白が、濡れた路面に細く伸びていた。

ディエンドの青と、ディケイドのマゼンタ。その二つの色が夜道の真ん中で向かい合って、どちらも一歩も引かないまま銃口だけを動かしている。

 

海東が先に引き金を引いた。

乾いた銃声が夜を裂く。青白い閃光が、俺の肩口を狙って一直線に走る。

 

撃たれる前提で、体はもう動いていた。

半歩だけ軸をずらし、そのままライドブッカーを撃つ。マゼンタの光弾が返る。狙いは海東の腕。こっちも容赦はしない。

 

二本の弾道が交差する。

その間へ、馬場の笑い声が割り込んだ。

 

「そうそう、そういうのだよ。お互い気に入らないまま撃ち合う感じ。……でもさ、それだけだと、ちょっと退屈だ」

 

ラッパラッターが鳴る。

短く、乾いた合図。耳に障る音だ。

 

次の瞬間、夜道の空気が膨らんだ。

影が盛り上がり、街灯の下に金属の輪郭が立つ。重い足音。獣みたいな呼吸。槍の先が路面を擦るざらついた音。

金、銀、そして鋭い線。追加戦士が三体、ディエンドと俺の間へ割り込むように現れた。

 

「ちっ」

 

舌打ちが漏れる。

俺へ飛んでくるはずだった海東の一発が、踏み込んできた金の追加戦士の肩へ叩き込まれた。青白い火花が散り、重い身体が横へよろめく。

 

同時に、俺のマゼンタの光弾は、海東ではなく、その横から噛みつくように迫った銀の影へ食い込んだ。

胸元で弾けた衝撃に、銀が一拍だけ止まる。

 

「……趣味が悪いな」

俺が吐き捨てると、海東は銃口を上げたまま肩をすくめる。

 

「君にだけは言われたくないね」

 

言葉の端に笑いがある。

けれど視線はもう俺を見ていない。追加戦士の動き、その一瞬の遅れだけを拾っている。

 

金の追加戦士が、体勢を立て直しながら突っ込んでくる。

重い。真正面から押し潰すための踏み込みだ。

そこへ、海東が撃つ。青い閃光が胸の中央を狙う――ように見せて、直前でわずかに下がる。膝。重心の軸。嫌な狙い方だ。

 

金の膝が抜ける。

前へ傾いた身体が、俺の間合いに転がり込んだ。

 

引き金を引く。

マゼンタの弾が、顔の横を掠めて火花を撒き、押し込む勢いごと叩き返す。

金の巨体が半回転して、路面に片膝をついた。

 

その横から、銀が低く滑り込んでくる。

風を裂く速さ。こいつは止まった瞬間に死ぬ。動き続けることで噛みつくタイプだ。

 

俺は撃たない。

撃つより先に、海東へ一発撃ち込む。

 

青い複眼の正面を狙ったマゼンタの光に、海東が顔をしかめて身を捻る。

避けた先にいた銀が、その射線をまともに食らった。弾かれたように身体が浮き、壁際へ吹き飛ぶ。

 

「おい、狙う相手を間違えてるぞ」

海東が言う。

「最初から合ってる」

返す間にも、今度は海東の青い弾が俺へ飛ぶ。

 

腹を狙った射線。

ブッカーを捻って身体を外す。

外した俺の真横、背後から刺し込んできた槍の追加戦士へ、その一発がまっすぐ突き刺さった。

 

ざらり、と嫌な音が止まる。

槍が軌道を失い、先端が石畳を削った。火花が細く走る。

 

「……っ」

 

さすがに槍の追加戦士も、予想外だったらしい。

間合いを壊され、いったん引く。そこへ俺は、海東へ撃つふりで銃口を振る。海東も同じだ。互いに相手を撃つ動きのまま、追加戦士だけがその間へ飛び込んでくる。

 

青が走る。

マゼンタが重なる。

二つの色が交差し、その交点にいた銀が弾き飛ぶ。

 

呼吸が合っているわけじゃない。

息を合わせた覚えもない。

ただ、こっちが海東を撃とうとする場所と、海東がこっちを撃とうとする場所に、馬場の追加戦士が割って入ってくる。結果として、その全部が邪魔者の方へ刺さる。

 

馬場の顔から、さっきまでの余裕が少しだけ剥がれた。

 

「……はは。そう来るんだ」

ラッパラッターを持つ手がわずかに速くなる。

「仲が悪い方が、噛み合うってやつ?」

 

「黙れ」

俺が撃つ。マゼンタの一発。

馬場のすぐ横を抜ける軌道。

 

本来なら外れだ。

だが、その前へ金の追加戦士が身を差し込む。庇ったんじゃない。馬場へ戻ろうとしただけだ。そこを撃ち抜いた。

 

ほぼ同時に、海東の青い弾が飛ぶ。

俺の肩越しを抜け、今度は槍の追加戦士の肘を穿つ。槍がぶれ、空を切る。

そこへ俺がもう一発。柄を叩き、槍そのものを弾き飛ばした。

 

金が崩れる。

銀が転がる。

槍が路面を滑って火花を引く。

 

街灯の真下に残ったのは、ラッパラッターを握った馬場だけだった。

その前に、ディエンド。

その横に、ディケイド。

互いに銃口はわずかにずれたまま、それでも馬場の逃げ道だけは、二人分の射線で綺麗に塞がっていた。

 

海東が笑う。

「ふぅん。結果だけ見れば、共闘みたいだね」

 

「気持ち悪い言い方をするな」

そう返しながらも、銃口は下げない。

 

馬場が一歩引く。

その足元を、青が撃ち、マゼンタが抉る。

逃げ道はない。けれど、まだ終わりでもない。夜道の空気は張り詰めたまま、次の一手だけを待っている。

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